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その後 1


 かたんと窓を開けると爽やかな朝の空気が部屋に流れ込んできた

 太陽はまだ登り始めたばかりで徹夜明けの俺の目に突き刺さる


「フィー!!!」


 バターンと勢いよく扉が開かれる…


「おはよう、エリオット」

「おはよう!フィー!」


 太陽よりも眩しい笑顔、今日も騒がしい1日になりそうだ……

 

「朝ごはんの準備できてるよ!」

「うん、今行く」


 テーブルに上に並べていた資料を片付ける。


「今日のスープは私が作ったの!」

「へぇ、楽しみ。なんのスープ?」

「鶏肉と野菜のスープ!」

「…美味しそう」


 ドタバタとリビングに向かい、1日が始まる。




 エリオットの馴染み具合といったら、領民からは手を振られ、母さんと家事をこなし、父さんと狩りに出かけるほどだ。

 …馴染めないエリオットに手を差し出すはずだったのに…まぁエリオットが元気な方がいいに決まってるのだが…

 昨日なんか母さんとニワトリを捌いているのを見かけた……待てよ、なら朝ご飯の鶏肉は……あまり深く考えないようにしよう……


 騒がしくも何気ない日常が過ぎていく



 しかし、ここで問題が


 結婚式だ。


 書類上ではもう立派な夫婦なのだが…タイミングが図れず流れてしまっている。

 そんな自分を叱咤し、ここ最近は毎日結婚式の計画を立て、見やすく資料にまとめている。


 そうして本日徹夜をして作り上げた報告書を、まずは、



 母さんに見てもらう……ことにする……





「駄目」


「えっ」


 母さんがまとめた資料をテーブルに投げる


「な、なにが!資金も日程もプログラムも完璧だと思うんだけど」


 母さんは呆れ顔で資料を見つめている。辺境ど田舎といえど母さんはそれなりにセンスがあるし、信用していたのだが……


「確かに、そこは、完璧だわ」

「…? そこ、は?」


「ここがダメね」


 ビシッと母さんが一点を指さす


「………サプライズ?」


 ずれにずれ込んでしまった結婚式を少しでも特別なものにしようと考えた「サプライズ」だ。式の前日にエリオットに伝えて、もう用意されてまーすとささっとスマートにエスコートをする……なかなかできた男では?サプライズに女子は弱いと地獄の勉強会で学んだのだが……


「ダメね、絶っっっ対に駄目」


「えぇ…そこがむしろ売りなんだけど…」


「やめておきなさい、それにこの内容を考えると今夜にでも伝えたほうがいいわ」


 キッパリと断る母さんの剣幕に押されて、嫌だとはいえなくなる…

 2人分のミルクティーを用意するから、今から行きなさいと資料をまとめて押しつけられる……


 …せっかく計画したのに……



 


 こんこん 2階の角部屋、1番日当たりのいい部屋をノックする。エリオットの部屋だ。両手はトレーで塞がっているので行儀が悪いが靴でノックしたのを許して欲しい。


「はい?」


「……こんな時間にごめん、俺だけど…」


 そう声をかけるとすぐにエリオットが扉を開けてくれる。トレーのなかのティーセットを見ると目を輝かせた。



「どうしたの?」


 サイドテーブルにトレーを置く、母さんお得意のスパイス入りのミルクティーは飲めば体が温まりこの後ぐっすりと眠れるだろう。あまり香りが良い紅茶を手に入れる事ができないので考案された特製ミルクティーだ。


「あ、えっと、話があって…」


 でしょうね、と言いたげな顔でエリオットが俺を覗き込む。



「……結婚式…なんだけど…」


 かちゃん、とエリオットが小さくティーカップを鳴らした。

 その目には期待と不安が映っている。


「計画していて、これ、資料……です…」


 エリオットが大事そうに資料を受け取る、一枚一枚紙をめくるたびにエリオットの目が光り輝いていく


「……すっっっごく素敵…!」


 資料段階には満足してもらえたようだ


「…これ、式の日付と式場が載ってないけど……」


 さすがめざといエリオット、足りない資料にすぐ気がつく。


「その、サプライズにしようと思って…式は明日」


 

 と言いかけたところで、エリオットが化け物でも見るかのような表情になった。


「…あー、 と、思ったんだけど…大体三ヶ月後… かな」


 エリオットがホッと胸を撫で下ろす……え、やっぱりサプライズは駄目なのか…?


「…明日はダメだった?」

「ええ、思いとどまってくれて良かったわ」


 母さんが…と伝えると、エリオットは流石ね!と母さんの寝室の方に祈りを捧げた

 

「納得いってないようねフィー。…嬉しいけど。


 ドレスだって今仕立てて三ヶ月後なんて十分サイズが変わってる可能性だってあるでしょう?それに肌に傷一つだって許されないわ…致し方ない結果なら受け止められるけど注意してれば防げたのなら絶対後悔するし。前日に塩気のあるものを食べて浮腫んだらどうするの?

 ヘアケアだってボディメイクだってしないと…!」


「…エリオットは十分かわ」


「そう言う問題ではないの!!!」


 母さんを凌ぐ剣幕に自然と背筋が伸びた。


「完璧な状態で挑まなくては……ならないのよ!」


 高く掲げられた握り拳に覚悟の炎が見える………


「…そういえば…式場は?」


「あー、…そっちは、サプライズでもいいかな?」


 ささやかな抵抗を提案してみる。いつも俺はエリオットに驚かされているのだから、たまには驚かしてみたいじゃないか。


「…えぇ!楽しみにしているわ!いろいろ考えてくれてありがとう!」


 飲み終わったティーカップを置いて、エリオットはもう一度資料に目を通し始めた


「公爵家には明日にでも手紙を送るよ」


「私も書きたい!メイド達に美容用品を送ってもらうように言わないと……


 あ、」


「? どうかした?」


 少し残っていたミルクティーを飲み干す。これで心配事はなくなった訳だ。



「フィー…もしかしたら、なんだけど」


「ん?」

 

 エリオットには珍しく目が泳いでいる、どうしたというのだろう。


「お父様とお母様、長期休暇が取れたって言ってたから、このタイミングで手紙を送ったら…


 こっちに来るかも…」



「……え゛」



 そういえば両親の顔合わせがまだだったことを思い出した。




予想を超える温かい声援に押されて、2人のその後の様子を書くことにしました。

数話で終わる予定ですが、本編も5話ぐらいの予定でいたのであてになりません。せめて本編より長くならないことを祈ります。


またお付き合いいただければ、何卒。

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