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 ゴトゴトと車輪が整備されきっていない道の上を走る音が響く、


 ブーツの紐が解けていたので適当に結ぶ


 髪の毛はこの数時間で乱れてしまった。もともとまとまった髪でもないけど。


 コンコン


 馬車の扉が2回叩かれた、目的地に着いたようだ。



 馬車から降りると肺に冷たい空気が満たされる。吐く息は白い。


 御者に挨拶をしてから、目の前の実家を見上げる…朝日が眩しく差し込む。


「…着いた〜……」


 思った以上にこの強行軍は疲れた…… 甘く見ていた……


 寒い馬車の中で気を遣ってか火鉢を用意してくれたのだが…これがまた……

 火鉢は暖かいが窓を開けねば死んでしまう、その結果、温かいと寒いが混在する馬車に夜通し揺られることになった。


 若さを武器にしたが、思ったよりキツかった…二度とするまい…


 しかし疲れているのは俺だけのようで外で寒さに当てられていたはずの御者も夜通し歩いたはずの馬もケロっとしている……



 手元のカバンを握り直した、途中の道はもう少し雪まみれかと思ったが除雪がうまく行っているようでスムーズに進む事ができた。

 昼ごろ到着を予定していたがまだ朝になったばかりだ、眩しい朝日に目をしかめる。


 さて、


 この山のようなエリオットの荷物をどこにしまうかと、両親に説明をしなくては、


 路肩にはこんもりと雪が積もって腰の高さまである、これを見ると帰ってきた実感が湧くなぁ


 やはり文句を言っても実家が落ち着くようで肩の力が抜けていくのを感じる。



 もう一度大きな深呼吸をした、冷たい空気で肺が満たされる。


 

 ー…カラ……ダカラッー

 

 ……遠くから馬が駆ける音が聞こえる、なかなかのスピードだ。こんな朝早くにどうしたのだろう。

 それにしても馬が駆けられるほど道の整備が進んだのは良いことだ!うんうん!



 ー ダカラッ  ダカラッー


 少しずつ近づいてくる馬の音に嫌な予感が頭をよぎった。もしかしてもしかするのか、いやいや彼女は今日、婚姻届を出しに教会に行くことになっているんだぞ。いるわけない、そんなわけない…… あぁ、すこし頭痛がしてきた。きっと寒いからだろう。



「……おーい!」


 聞こえてきた声になんだか聞き覚えがあるような気がするが、気のせいだ、まったくもって気のせい、カバンをを持つ手が震えてきた。寒いから、寒いから…


 ーダカラッ!ダカラッ!ー

 

 いよいよ馬は俺の家の前に向かってきているようだ、通り過ぎるだけかもしれないが…聞き覚えのある声がその可能性を許さない…

 半分祈るように振り向く、どうか予感が外れていてくれ…!!


「フィン!!!」


「エリオッ……ト!?」

 

 飛び込んできた何かを受け止めきれず、空の青さか、エリオットの瞳の色かはたまた髪か、確認する前に2人で路肩の雪山に飲み込まれた、予感が確信に変わった。


 「な、なん?!」


 本格的に雪に体温が奪われる前に雪山から急いで脱出する、エリオットはケラケラ笑っている。


 言いたいことも聞きたいことも沢山あるが…


 鼻先も赤くなり手も頬も氷のように冷たいエリオット…髪もめずらしく乱れている……


 急いで俺が着ていた外套でエリオットを包んだ。


「っ…… 無茶はしないって約束だろ?!!」


 きっと彼女のことだ、色々な無茶をして今ここにいるのだろう。


「えぇ! 目を離さないでとも言ったわ」


 してやったり顔のエリオット…… あのカフェでみた得意げな笑みだ…………


「はぁ……」


 一つため息を吐いて、思いっきりエリオットを抱きしめた。


「二度と目を離さないから」


「ふふっ お願いね!」


 2人の頬が重なる、 エリオットの頬があまりにも冷たくて…壊れないようにさらに強く抱きしめた。



「一体何があったんだ?婚姻届は?今日出す予定だろ?」


 着させた外套を首まで閉める、早く暖かい家の中に連れて行かなくては…


「出してきたわ!殿下に雇われたであろう悪漢に襲われそうになったから振り切ってきたの!」


「……は?」


 エリオットは外套に袖を通す、俺の腕を取って家に向かって歩き出した。


「悪漢はボークラーク家の警備隊が捕まえる手筈になっているから大丈夫よ!」


「いやいやいや……いやいやいや、エリオット?!」


 納得いかない俺はエリオットを引き止める、エリオットはそれをするりと抜けて笑顔で走り出した。

 

「ご両親に挨拶しなくちゃ!!」


「まてまだ話は終わってないから!!!」


 

 駆け出すエリオットを追いかける、


 きっともう二度と、俺に平穏な日々は訪れない。




 終


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