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「……エリオット?」
渾身の低い声を出したがこれっぽっちも響いてないようだ。
エリオットはニコニコしている。
「危ないだろ!怪我じゃ済まないところだったんだぞ!」
「心配した?」
「当たり前だ!」
「私もフィンがお父様からの課題を体を壊してまでやっていたとき心配したわ」
「……それは…でも!もうこんなことしないって約束してくれ」
「出来ないわ、目を離したら私も無茶をするから!」
エリオットは目をキラキラ輝かせながら反論してくる。言いたくてしょうがなかった様だ…
「無茶するから!目を離さないでね?」
「……はぁ」
何言っても無駄なんだろう…エリオットの異常な行動力は確かにこれからも監視していくべきかもしれない。
「踊りましょ!」
エリオットが俺の袖を引っ張って噴水の真横まで進む。
ダンスホールで体温が上がったとはいえ夜は冷える。俺は来ていた上着をエリオットに着させた。
「……ダンスはさっき踊っただろう?」
「あんなの!あんな堅苦しくてつまらないのは嫌!」
駄々をこねる子供のようだ、でも、あんなに楽しみにしていたダンスだしな……
「…冷えると身体に悪いから そんなに長くは踊らないぞ」
「そうこなくちゃ!」
言うや否やエリオットは俺の両手を取りクルクルと回り始めた
遠くに聞こえるワルツの音なんかに合わせる気は全くないようで、
バレエのように手を伸ばしたり
わざとヒールを強く鳴らして踊ったり
大袈裟なポーズを決めたり
思い思いに踊るエリオット。
俺は踊っていると言うよりエリオットにしがみついてると言った方が正しいだろう…
噴水が月明かりをキラキラと反射して、エリオットの瞳に映り込む。
……今か?
「あー、エリオット?」
「なあに?」
少しもゆっくりとしたリズムで踊る気がないエリオット
… ドレスを着たら相手を褒めるべきだと学んだ……
「…ドレス、似合っているよ」
「…ありがとう」
恥ずかしそうなエリオットだが、これから俺はもっと小っ恥ずかしいことを言うのだ……
「淡いブルーのドレスは冬の空の様に澄み切っていて、
その…金色のリボンは月の様に優しい色で…
でも何より輝いてるのは君の瞳…
君の瞳は、星空を詰め「たって、この輝きには敵わない、」
「………え」
「それはもう一度聞いたわ」
つん、とエリオットが視線を外した。
…ひ、必死に考えたのに……もう聞いただって?
そんなわけない、今さっき考えたのだから…
しかし…女性と言った言っていないの言い争いはするものではない、両親を見て学んでいる。
エリオットが聞いたと言うならそうなのだろう、さっぱり覚えはないけれど…
「…次はきっと気に入るように頑張るよ」
「ふふ、楽しみにしている」
正解の答えを当てれたようで、エリオットの機嫌は元に戻った。
くるくると踊るのに飽きたのかエリオットはスカートを蹴り上げながらぴょんぴょんと跳ねる様な踊りになった。
うっかりしていると蹴られかねない、なびくスカートから白い足が見える……
見ないようにとは思いつつ、目が奪われる…
「…ん?」
「え、あっいや…あ、足首に…アンクレットしてるんだ…ね?」
かろうじて足首が光っているのが見えて取り繕う、
「うん…へん、かな?」
「そんなことないよ!似合っている」
決して足を見ていたことを気取られてはいけない、あくまで細かい所に気がつくいい男でなくては…
「ありがとう、あまり足首につける習慣がなくて…見えないからいいかなって」
「?そう、なんだ。確かに初めてみた」
「……このブレスレットを?それとも足首にアクセサリーをつけているのを?」
「え、あ…両方?」
ぐんっと強く引っ張られ噴水に放り込まれそうになる
「な、なに?!何で…?!」
噴水に入らずに済んでいるのは、エリオットが俺の手を引っ張っているからだ…
エリオットが手を離せば俺は噴水に落ちてしまう
「……両方、見たことがないの?」
女性のアクセサリーには疎いし……足首につけるのが流行っているのか?みんなの常識なのか?
ブレスレットなんて、俺には無縁の………ブレスレット…?
「あ、 あー… あの、花まつりの時に…俺が…買った、やつ、でしょうか」
「………」
「トテモニアッテマス」
エリオットが俺を引き上げ噴水に落ちる心配がなくなる……助かった…
「すごく嬉しかったんだから、ちゃんと覚えていて」
「ハイ、気をつけます…」
まさか、祭りの屋台で買ったガラスでできたブレスレットを、公爵令嬢が卒業パーティーでしてくるとは思わなかった……
夜風が強く吹き始めた、
「もうそろそろ帰ったほうがいいんじゃないか、身体に悪いよ」
「あ……うん」
エリオットの手が冷えてきた、これ以上は身体に毒だ。
「そうだ、フィン。お願いがあるんだけど……」
「ん?」
「さっき国王と話をしてね」
「…うん」
「普通なら離婚とか離縁とか、そのあと10日間は再婚復縁手続きができないようになってるんだけど…」
「……あぁ」
婚約詐欺が流行した時期に制定した法律だ…
「そうか…そうなると…」
「でね?今回だけ特例で2日に短縮してもらったの」
「…2日?」
「うん、2日。明日教会に行って事情を話して、明後日に書類を受け取ってもらえるように話をつけたの」
流石、抜かりない…
「…それで、俺にお願いって…?」
「…一足先に領に戻って欲しいの………」
「……なんで?」
結婚の書類は普通結ばれる2人が提出する…まあ、書類さえ不備がなければ1人でも提出できるが…
「…その…荷物を…先に持っていてってほしくて」
「…荷物?」
「…雪が深くなると領に戻るのが大変になるでしょ?明日ならまだそんなに積もってないし…
大きな荷物は先に持っていって、後から軽い馬車で追いかけたほうが早いと思って……」
「…なるほど?」
「馬車はボークラーク家が出すから、…どうかな」
「もちろん、平気だけど…」
「よかった!お父様とお母様が張り切っちゃって!馬車数台分になりそうなの!」
「……え」
い、家の中に入るか…?
俺の荷物はカバン一つ分だし、快適な馬車で帰れるなら万々歳だ。
「早く破棄できてよかったわ!」
エリオットは大きく伸びをする、
飾らない言葉に思わず笑ってしまった。