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 手を取り合って、ホールの中央へ向かう。

 前も後ろも、上も下も目が眩みそうなほど光り輝いている。


 俯いて足元を見ていたい気持ちを抑え込んで、前を見る。


 全員が一度に踊れるわけではないので、上流階級の生徒が1番初めのダンスを務めることになる。


 心臓が口から出そうだ。



 俺とエリオットは基礎のダンスを踊ることになっている。

 仲のいい婚約者同士はそれにアレンジを加えて仲の良さをアピールするのだ。


 ここで俺たちがアレンジを加えると()()()だと思われかねない。

 そもそもアレンジなんてする余裕がない。


 定位置につき、エリオットと向き合う。


 いつもよりヒールが高いのか、俺の身長とほぼ同じだ。情けないことに目が平行に合う。

 エリオットの表情は、伏せ目で硬い。


 和ませようと笑って見せようとしたが、左頬が引き攣った。


 エリオットは表情は変わらないものの微かに肩を震わせ、合わせていた手をぎゅっと握り返してきた。



 

 静かなホールに、ピアノの旋律が響く


 音と、エリオットに合わせて足を滑らせる。あまり大股にならずに、でも周りのペアにぶつからない速度で、反時計回りで……


 クイック、クイック、スロー。 スロー、スロー、スロー。

 スロー…スロー…クイック……


 女性特有の膨らんだスカートでエリオットの足元が見えない、踏んでしまわないだろうか…


 えっと、次のステップは、半回転して、バックステップで、


 

 エリオットが小さい咳払いをして、俺の肩に回していた手で俺の姿勢を引き上げる。


 …いつのまにか猫背になっていたみたいだ……

  エリオットをチラリとみると小さく笑っている。。


 俺の心臓の音はワルツのようにゆっくりとはならず、またステップを間違えそうになる。


 その度にエリオットが上手く俺を捌いてくれる、


 

 全く踊った実感がないまま、一曲目が終わった。



 小さく息を吐いてお互いに見合う、こんなのでエリオットは満足だろうか。あんなに楽しみにしていたのに……



 ダンススペースから離れると身動きが取れないほどに囲まれる。

 こんなに大人数に囲まれたことがないのでどこを見ればいいのかわからない。

 

 みんな、殿下から婚約破棄を受けて「おめでとう」とは言えないが、言わずにはいられないようで至る所から祝いの言葉が聞こえる。


 殿下の方をみると、周りに誰もいなく、恨めしそうにこちらを見ている。


 …あまり蜂の巣を突きすぎないようにしなくては…目配せでエリオットに殿下の様子を報告すると

 少し目を細めてから「国王に挨拶してきますので」と言って囲んでいた人の波を開けた。


 取り残された俺は、苦笑いしかできない。



 それを察したのか皆温かい笑顔で解散していく。


 ようやく一息ついた俺は空っぽの胃に食べ物を入れる。


 エリオットを見ると、笑顔で国王と談笑しているようだ。

 殿下は機嫌を取り戻したのか男爵令嬢とずっと踊っている。


 しかし噛み合っているのかいないのかわからない2人のダンスをみて、周りのペアは必要以上に距離をとって踊っている。

 …俺にとっては下手とか上手いとかより、踊り続けるメンタルが羨ましい。


 ダンスの音楽も一曲目よりも華やかで明るい印象の曲に変わってきた。

 


 エリオットが国王にお辞儀をしているのが見えた、もう話は終わったのだろうか。


 足早にエリオットに近づく、もう、遠くから見てなくてもいい。隣にいていいのだから。


「あの、エリオット嬢…」


 隣にいてよくても、公衆の場合では言葉遣いに気をつけなければ、

 エリオットは俺に気が付くと、小さな、とても小さな声で


「中庭に」


 と言った。


 理解しきれず体が固まる。中庭?


 固まったのは一瞬だったが、その一瞬でまた多くの人に囲まれる。

 中庭が何なのか聞き出すことが出来ない。


「ごめんなさい、すこし、テラスで風にあたってきますわ」

 

 エリオットは申し訳なさそうに囲んでいる人間に断りを入れた、

 ならば俺がエスコートをしなくてはと思い、手を差し出そうとすると


「ひとりで、風に当たってきます」


 ピシャリと断られる。


 囲んでいる人間も黙り、俺も言葉が出なかった。


 そうしてエリオットはテラスに吸い込まれていった。

 エリオットがテラス前の警備兵に一言二言なにか言うと、警備兵はなにか納得したようにエリオットがテラスに出た後カーテンを閉めテラスの様子がわからないようにした。

 さらには扉の前に立ち塞がり、誰も入れないようにする。


 何より強固な鍵の完成だ。


 

 俺とエリオットを囲んでいた面々は、申し訳なさそうにその場を去った。


 ポツンと、残された俺……


 

 疑問は残るが、ここに立っていても答えが出るわけではないので、とりあえず中庭に行こうと思う…



 ホールをでて中庭に続く通路を進む、灯りはないが満月なのか外はだいぶ明るかった。


 少し空気が冷たいが、ホールで暖まった身体にはちょうどいい。



 中庭には噴水が三つある、中央の大きな噴水が一つと小さな噴水が二つ…

 そういえば、東側の噴水からならテラスに出ているエリオットが見えるかもしれない…


 手入れが行き届いた垣根を抜けて目的地の噴水までたどり着いた、丸い月とは反対方向のテラスを見る。


 

 エリオットが満面の笑みで手を振っているのが見みえた。


 笑顔で振り返す。なんだ、これがしたかったのか。まるで物語のワンシーンのようじゃないか。

 完璧淑女と呼ばれていても少女のようなとことがあるじゃないか。

 エリオットも女の子ということだ。


 うんうん納得してまたエリオットを見る。


 

 エリオットは変わらぬ笑顔のまま、その体はテラスの柵の外側にあった。


 ………ん?外側???


「っ〜〜〜!!」


 声にならないとはこのことだった、飛び降りるつもりじゃないだろうな。あそこから飛び降りたら怪我じゃ済まない!!

 慌ててテラスの下側に駆け出す。俺を下にすればまだ怪我を軽減できるかもしれない。


 エリオットは高いヒールをものとものともせず、ぴょん、と飛び出した。


 テラスの下に滑り込む、顔面から、


 

 衝撃はこない。俺にも、辺りにも。


 恐る恐る上を見上げると、エリオットは近くの石柱の上に着地していた。



 ダンスの前以上に頬が引き攣る。



 立ち上がり軽く服をはたく、石柱からエリオットが飛び降りてもいいように下まで移動する。


 エリオットはまた、ぴょん、と飛び出して今度は細い柵の上に着地する…



 …スカートの中を覗かないように柵の下まで移動する………


 エリオットは柵の上を軽やかに進む。

 


 柵の先には石像がある、先回りして石像の前まで移動する。


 

 ぴょん、と石像の縁にエリオットが飛び込んでから


 またぴょん、と跳ねて



 俺の前に舞い降りた。



「ここでまた踊りましょうっ!」



 満面の笑みの天使に、まずは説教から始めようか



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