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 地獄の勉強会……否、拷問を乗り越え、母さんからの合格を貰えた……

 すべてが時と場合(ケースバイケース)、正しい答えはない。女性の数だけ答えがある………生まれて初めて勉強が嫌になった…


 合格を言い渡されひと息つく暇もなく馬車に詰め込まれ、少し早めに学園に送り返された。


 エリオットと仲良くなるのはもちろんのこと、1人でも多く勉強を教えるなどして恩を売り、この先エリオットが困るようなことを一つでもなくしてこい、との事だ。

 

 社交性はないとわかってるくせに………



 早めについた寮にはポツポツとしか生徒はいなかった。

 とりあえずうっすらした記憶でお世話になった気がする寮長に挨拶をしなくては…


 早くから寮に戻っていた寮長に挨拶をすると、体調は部屋はと矢継ぎ早に質問される。

 問題ないのでと答えると、あれだけ世話をしてやったのだから卒業制作を手伝えと要求された。


 自分の分は終わっているし、まあ、構わないかと「もちろん」と答えたら、寮長は目を大きくみ開いて部屋の奥から乱雑にまとまった資料を持ってきた


「い、いまからですか?」

「なんだこの後予定でもあるのか」

「…ないですけど」


 こうも早くてはエリオットも戻ってきてないし、2人でいつも話し合うカフェにでも行こうかと思っていたぐらいで予定はない。


 渋々資料に目を通すと、なかなか興味深い内容だった………




 気がつくとイスに座らせられて日が暮れるまで捕まってしまった。


 寮長の卒業制作は 食生活における病気の予防改善 だった。 大変参考になったし寮長も行き詰まっていたそうでお互いに良い時間になった。




 

 翌日いつものカフェに行くと、営業していなかった。 


 閉店したのかと焦って中を覗いてみたが、店内は暗いだけで片付けられたり、逆に荒れている様子もなさそうだ……


 こうなると予定が全部潰れたな……

 ………ちょっとまて、もし、もしエリオットがもうこちらに戻ってきてるとして。


 俺からコンタクトを取る手段は無いのでは…?


 思い返してみると、いつだっていつのまにか手紙が届いて、そこに行くとエリオットがいて、次会う約束をしていた……

 今更学園で喋りかけるのも不自然だし、殿下がエリオットに怒鳴った事件以来男子生徒はエリオットに近づかない……


 え?もしかして俺…情けないのでは?


 エリオットが行動しなくては会いにもいけない……


 吸った息を全てため息に変えながら寮へ戻る………



 寮に戻ると、寮長の手伝いをしたのが噂になって談話室に資料やら教科書やらを抱えた生徒が数人いた。俺のことを待っていたらしい。

 寮長の時みたいに何か発見があるかもしれないと、快く相談に乗る。 


 相談に乗った生徒は皆満足そうだった。無礼な態度は取っていないだろうかと心配になったが、みんな大丈夫、また頼むと言ってくれた。


 前はこう上手くいかなかったんだけどなと、廊下で肩をぶつけられた時期を思い出す。



 次から次に相談に乗っていると、案の定と言うか、不甲斐ないと言うべきか、手紙が届いた。

 開けて読んでみると「カフェで」とだけ書いてある。あまりの簡潔さに笑ってしまった。



 いそいそと身なりを整えてカフェに向かう。行く途中でガラスに映る自分を見て何度も前髪をいじってみた。代わり映えはしない。

 心配をよそにカフェは営業していた。相変わらずお客は入っていなさそうだけど…

 

「エリオ……ゔんッ……エリアス」


 うっかりエリオットと呼びそうになるのを慌てて言い直す。愛しのアクアブルーの瞳がこちらに向けられる。


「フィン!久し……ぶり」


 笑顔だったエリオットは俺と顔を合わせると顔を曇らせた。一体どうしたのだろう…テーブルについてコーヒーを注文する。


「………フィン、顔色があまり良くなってないようだけど……まだ体調は戻らない?」

「えっ あ、いや、大丈夫!ゆっくり休んだよ」


 俺の顔色のことか、治ったんだ、治ったんだけど………


「でも…」

「本当に大丈夫、これは……ちょっと家族と……」

「家族??」

 

 店員がコーヒーを持ってくる、相変わらずいいにお……いや、とてもいい匂いだ、原価を上げて大丈夫なのかこの店は。


「婚約者の話をしたら、大騒ぎになっちゃって……悪い意味じゃ無い!!悪い意味じゃないから!」


 俺よりもエリオットの顔色が真っ青になる、誤解を与える言い方をしてしまった……


「その…歓迎というか、もっとしっかりしなくてはと言うか、更なる努力をというか…」


 歓迎の言葉でエリオットの肩から力が抜ける、


「そんな、フィンは充分努力しているよ」

「ありがとう……認めてくれない人もいるんだよ……」

「…厳しい人なんだ…?」

「普段は優しいんだけどね………」


 またエリオットの顔が曇る、また誤解を与えてしまっただろうか


「歓迎すぎて、大騒ぎだったよ。婚約者に釣り合うようにってみっちり勉強させられた」


 エリオットの目が見開く。


「早く婚約者に会いにいけって勉強が終わったらすぐに学園に送り返された」


 エリオットの頬が少し赤らむ。誤解は解けたようだ。


「早く来たはいいものの、婚約者に自分から連絡を取る手段がなくて……反省したよ」


 また出てきそうになったため息をコーヒーで飲み込む。


「……まあ、いいんじゃないかな、もう休みはないし……」


 エリオットは口元を隠しながら窓の外を睨んだ。まつ毛なっっが。

 たしかにもう休暇もないし、いつも通り休みに日にこのカフェに来れば会える……


「そうだ、エリアス。君は卒業制作?それとも試験?」

「ん?なんで?両方やると思うけど……」

「よければ手伝うy「いらない」……え」


「フィンが頑張ったんだから、僕だって頑張る」


 力強いエリオットの目に、第一作戦の失敗を悟る。


「そ、そう。何かできることがあれば言って」


「うん、ありがとう」


 エリオットの笑顔で母さんとの勉強会がどうでもよくなる…


「そういえばフィン、寮で大丈夫だった?」

「………大丈夫?って、なにが?」


「変に絡まれたりしなかった?」


 エリオットの質問に首を傾げる、意図が読めない。


「別に何とも…寮長の卒業制作の手伝いをして、その流れで何人か手伝ってくれって頼まれて手伝ったけど…」


 エリオットはため息をついた、やれやれと言った様子だ。


「情報が早い貴族は、君が卒業制作を終わらせたこと、それにボークラーク家が一枚噛んだことはバレてるよ」


 思ってもいなかった情報にコーヒーを持つ手が固まる。


「え」

「え、じゃない。この先君と関わりを持とうとする人は増えるだろうね」

「え」

「えじゃない。今気が付いてるのは聡い人たちだからいいけど、この先はあまり聡明でない人たちが動き始めるから…」

「……え」


 エリオットはもう一度深い深いため息をつく


「フィンは頭はいいのに……」

「ご、ごめん」


 これっぽっちも思っていなかった可能性……俺と関わりたいなんて……

 違うか、ボークラーク家と関わりがある俺と関わりたいのか……


「………婚約したこと後悔してない?」

「まさか!!!!」


 思ったより大きな声が出て自分でもびっくりした、 店内を見渡すが、他に客はいない。


「してないし、この先も絶対しない」


 きっぱりと言い切る。絶対にありえない。


「してないけど……俺は貴族のやりとりが苦手みたいだ…」


 貴族にあるまじき苦手分野だ、


「…また、なにかあったら教えてほしい」


 自分の不甲斐なさに切なくなってくる。はぁ……


 落ち込む俺と対照的に、エリオットは笑顔で「任せて」と微笑んだ。はぁ……。



 

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