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  カチャカチャといつもは騒がしい夕飯に1人分の食器の音が響く


 リクエスト通り熊の肉が並ぶ、美味しいか美味しくないかと聞かれたら、美味しくない。

 やはり熊肉は冬の方がうまい、硬いし臭いし硬い。でもこの臭みが肉を食っていると言う気持ちにさせてくれる。


 しかし母さんの腕はやはり良い、臭みが気にならないように下処理がしっかりとされていて、香りが強い野菜と調理されていてあまり気にならないようになっている、旬と比べたら美味しくないというだけで十分食べれる



「……フィー、」


 茫然自失とした母さんが俺を呼ぶ、父さんは何一つ話を理解できていない顔だ。


「それで、つまり、うちに……フィーのお嫁さんに公爵令嬢が来るって事……?」


「うん」


 冷静になると、『お嫁さん』は恥ずかしい、まぁ、でも、。うん、お嫁さんだ。へへ


「…わが家に?」

「うん」

「この、辺境ど田舎貧乏領に?」

「うん」

「頭がいいのは取り柄だとは思うけど社交性のない息子に?」

「…うん」

「あの、高貴で礼儀作法も完璧で頭も切れる完璧淑女と名高い公爵令嬢が?」

「うん」

「わが家に?」

「うん」

「…………なぜ」


 食べかけの熊肉にまたフォークを伸ばす、またの小っ恥ずかしい話をしろと言うのか、

 モグモグと咀嚼をすると母さんは頭を抱えて考え込んでしまった。


「フィン?」


 今度は父さんか


 父さんは心配そうに頭を抱える母さんをの背中をさすっている


「父さんよくわからんが、お前が結婚するって事だよな?」

「うん」


 父さんはにっこり笑う。


「いつ頃かもう決まってるのか?」


 その質問にフォークが止まった。エリオットが婚約破棄するまでだ、でもそれがいつなのか


「わからない」


 現状、エリオットとの結婚はほぼ口約束だ。結婚になった時に困らないような書類は用意したが()()()()()()はない。公爵家の気が変わったり、王家の気が変わったり……そもそもエリオットの気が変われば………


「そうか、うんうん、わかる、わかるぞフィン」


 10秒前までわからないと言っていたのに、呆れ顔で父さんを見る


「父さんも母さんと結婚するまで不安だった」

「はあ」

「いろんなことを考えたさ、母さんの気が変わるんじゃないかとか明日空から太陽が降ってくるんじゃないかとか」

「はあ」

「不安な日々を過ごしたもんだ」

「……はあ」

「その様子なら、夏季休暇の後は学園に戻った方が良さそうだな」


「……はあ?」


 頑張れよ!!と親指を立てる父さん…は?何を…


「最初卒業が決まったって聞いた時は、最終学年は自由出席だからもう学園に行かないで家にいてもらおうと思ったが」


 あ  そうか、そうだった。後は出なくちゃいけない行事にだけ出席すれば、学園に行く意味はないのか


「だめよ!!!!!」


 母さんが強めにテーブルを叩く、テーブルに乗っている食器が少し浮いた。もれなく俺と父さんも少し浮いた。


「そんなのダメよ!愛想を尽かされてしまうわ……フィー!!結婚が決まるその時まで気を緩んではだめ!その子をうちに連れてくるまで貴方のできる限りをしなさい!!」


 鬼のような剣幕の母さんに「俺少し前まですげー頑張ったんだけど」の言葉は出番を失った。


「学園に戻って会う約束はしたの?それとも戻ってこなくていいとか?」


「…約束はしてないけど、休暇の後はどうするのかって聞かれた、かな」


「会いたいって事よ!!貴方が戻らなかったら会うタイミングがもうないんだから!!!それで!フィーはなんて返したの?!」


「……………今年の冬までには除雪案を何個か出したいから、中央図書館で検討したいって……」


 バターンと母さんが倒れそうになるが床に着く直前で父さんが抱き上げる


「…この子は…」


 父さんに抱き上げられていたと思ったら見た事ない速さで俺の元まで詰め寄り、襟を掴んで揺さぶられる、


「かっ母さんっ…!くるしぃっ…!」


 足は床についていない。


「なんて子なの!! 卒業制作手伝うよとか君に会いに帰るよとか言えないの?!!!それを自分のことばかりで!!……まさか、まさかそれを手伝えなんて言ってないでしょうね?!」


「……………」


「ぎゃーー!!!空気の読めなさはお父さん譲りだって言うの?!!その頭の良さを少しは活用しなさい!!!」


 激しく揺さぶられ、先ほど飲み込んだ熊が込み上げてくる。必死の思いで父さんを見るが「母さんが元気でよかった」と笑っている。この男に似ていると言うのか俺は……!!


 掴んでいた襟を離され床に放り出される。息が、できる…!


「フィー今すぐ荷物をまとめて学園に戻りなさい。


 って言いたいところだけど、これから三日間は母さんと勉強会をするわ」


「ゲホッ…… べ、勉強会?」


「ええ、この先貴方が愛想を尽かされないように、やれることはやらなくては」


 母さんはメラメラとやる気に満ち溢れている。その勉強会を想像して、顔に出てしまった。


「 文句があるのかしら? 」


「イエ、マッタク」


 

 そのあと騒がしい夕食を終わらせ。怒涛の勉強会が始まった。



 ダンスレッスン、詩、口説き文句、花言葉、カラーコーディネート、女性を映えさせる立ち振る舞い。


 それらはまだいい。なんて言ったって答えがあるから、勉強しセオリーに基づいて行動するのみだ。


 だがしかし、


 些細な変化に気づいて褒めるべきである、しかし「かわいい」など安直な褒め方だと「以前は可愛くなかったと言うことか」と勘違いをされる、とか


 女性の大丈夫は「大丈夫」であっても「気を使わなくていい」ではない、とか


 すっぴんの方が可愛いと言うと怒ることがある すっぴん「も」可愛いねと言うべき、とか


 好きな紅茶は日によって違う、とか


 同じ口説き文句を使うな、とか



 実家なのに全然休まらない!!



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