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 泥の中に沈んでいるような、水の中で揺蕩っているような、


 指一本動かせないのに、全身の力が抜けているような、ずっとこのままでいたいような。




 柔らかい光が、頬を温めて、目が覚めた。


「っ……おはようございます。お加減はいかがでしょうか」


 体が動かない、目線だけ横にずらすと、三人のメイドが目に入る。


 はくはくと口を動かすが、声が出ない。



「ただいまお医者様を連れて参ります」


 メイドに背中を支えられながら起き上がる、体を起こすと別のメイドがすぐさま背中に大きなクッションを差し込まれた。よく出来たメイドだ。


 水差しを差し出される、そういえば喉が渇いてる。なるほど、通りで声が出ないわけだ。

 受け取ろうと思うが利き腕の方は激痛が走り受け取れなかった、メイドが飲ませようとしてくるが、反対の腕で受け取る。


 それを察してかメイドが水の量を減らして渡してくれた、そのままの量だったらこぼしてしまうだろう。助かる。


 慣れない手つきで水を飲む、喉を通り体に染み込んでいくのを感じた。




「フィン!!!」


 大きな音とともにエリオットが部屋に入ってきた、 メイドがじろりと目でエリオットを叱る。


 その目線に気が付いたエリオットは、無音で、駆け寄って来た。それでも走るのか君は、


「え、りおっと、」


 声が出た、良かった。しかしエリオットは良しとしなかったのか、青ざめて医者を呼びに飛び出て行った。忙しいやつだと笑うとメイドが不服そうに咳払いをした。




 医者が来て診察をし、よく効くといって薬を渡される。その間エリオットはハラハラと医者の後ろから忙しなく覗いてくる。


 薬を受け取り、メイドが水を用意する。 これ、苦いんだよな…と呟くと、医者が


「経験が? 嫌なら二度と飲まなくていいよう気をつけるんですな」


 と優しい口調で怒られた。大人しく一気に薬を飲み干す……… うぇ


「あとは安静にしとれば大丈夫でしょう。若いからといってあまり無理はなさらんように、では」


 医者が荷物を持って出て行き、メイドも片付けをし、1人をドア横に待機させて残りのメイドはいなくなった。



「フィン!大丈夫…じゃない、わよね……こんなになるまで……」


 けふっと咳をすると、起きてすぐよりだいぶ声が出るようになった


「エリオット、えっと……夢じゃないんだよな?」


 未だに信じられない、夢と言われた方が納得する


「夢じゃないわ!!貴方がこんなに頑張ってくれたのに…!夢で済ましてたまるものですか……お父様が手続きとやらをしくじったら……!!」


 エリオットの手が力を入れすぎて白んでいる。ドア前に待機しているメイドの顔は真っ青だ。


「ま、まあまあ、 上手く行ったみたいでよかったよ」


「行くに決まっているでしょう?!私も目を通したわ……あんなに素晴らしい案……貴方は自分自身を過小評価しすぎよ!!」


 あれ、怒りの矛先がこっちに……


「あ、ありがとう… 」

「学園で一度も姿を見ないと思って…心配したのよ!」

「ご、ごめん」

「話を聞いたら部屋からも出てないって言うし…」

「あ、 うん」

「夜もあかりをともしてるの見たわ…寝てないのでしょう」

「うん」

「うんじゃないわ!!顔色もすごく悪くて…」

「ごめん」

「あの後…倒れて……丸一日寝てたの…l

「ごめん」

「…心配したの……」

「ごめん、ありがとう」


 利き手は動かないので、逆の手をエリオットに伸ばす。 サラサラの髪をすくいあげた、はらはらと指の間から溢れる。


「待っていてくれて、ありがとう」


 すくいあげた髪を自分の口元に近づけた、花の香りがする。


「……そこは頭を撫でるところですわ!!!!!」


「す、すみません」


 真っ赤になって怒るエリオットを何度も何度も撫でてひたすら謝った。 こう言う時は謝り続けた方がいい。両親を見て学んでいる。

 …撫でれば撫でるほど赤くなっていくエリオット……相当怒っているようだ……


 

「そういえば、もう夏季休暇には入っているんだよな…?」


 ふと日付を思い出した、いまが何日か俺にはわからない。


「えぇ、入って二日目ですわ」


「寮の外泊届けも帰省届けも出してない……」


 どちらか一つならまだいいが、2つだと退寮になりかねない… よく思い出せないが、部屋もめちゃくちゃになっていることだろう……まさかここまで来て特待も取り消しになったり……


「学園への対応はわたくしがしておきましたわ、でもフィンのお父様とお母様には連絡出来ていなくて……」


「え」


 さすが、対応が早い…… 両親は、ま、大丈夫だろう。あの2人のことだ、手紙がないのが元気な証とかいって今日も仕事に励んでいることだろう


「ありがとう、両親は大丈夫。去年の今頃は馬車に揺られて実家に戻っている頃だし」



 にっこりと微笑むエリオット。


「勝手かと思いますが荷物もまとめておきましたわ、それから、部屋の掃除も」


 にっこりと微笑むエリオット……


「あ、ありがとう、なにからなにまで」


 い、いかがわしいものはない、はずだ、安心しろ、俺の身は潔白の、はず……


「部屋の様子の報告を受けましたの」


 笑顔が崩れないエリオット……… え、いやいや、……え?



「……血の跡が、ありましたわ」


 なんだ、それか。 俺はホッと肩の力を抜いた。


「説明、してくださるかしら?」


 笑顔のエリオットに笑顔で返す、やはり俺の身は潔白だ。


「あぁ、ただの鼻血だよ、いつのまにか出てて……でもその時閃いたんだ!今書いている図もそうだけど二色で書いたらわかりやすいんじゃないかって!だいぶ書き直し作業が増えたけどでもわかりやすくなっただろ? 最初はそのまま血を使おうと思ったんだけど、あれはダメだ。時間が経つと黒く変色して2色使う意味が………」


 気が付いた時には……空気は凍りついていた…… ヤッテシマッタ。



 そこからまたエリオットの烈火のごとき説教が始まった。俺はひたすらに謝る。

 途中、前回の反省を踏まえて頭を撫でようとすると「話を聞きなさい!!」とさらに怒られた。ひぇ



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