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「ん、ここは……」
ボクは目覚めた。
でもおかしい、目覚めることがないと思った最後だったのに……水で敷き詰められた大地に横たわっていた。
あの巨大地震で崩れたと思われる東京スカイツリー、体感で感じたのは足場がなくなり、下へと落下する感覚だった。
ボクは起き上がり、これ以前のことを思い返す。
周囲の状況はある程度思い出し、突如と横切ったのが想無零の涙を流し、苦しそうな姿だった。
まるでトラウマのように目の雨に現れたのは、それが最後に見た光景だからだろう。
そんなにキミは苦しんでいた。
そしてキミはずっと嫌だった世界を……。
だとするなら、ここは……。
瓦礫で視界が塞がれている。
恐らく東京スカイツリーとその周囲の建物全てが崩壊し、瓦礫という壁が出来上がっている。
人間の目線ではもう空しか見えない。
「そうか……」
そうここでボクはキミが目的が始めたことを再確認する。
そしてキミがボクに言った言葉、これからの私を許して……。
その言葉が耳から離れない。それはボクの耳に刻み込んだ。
「れい……」
身体が痛い、でも東京スカイツリーが崩壊して前進の痛みだけで生きているなんて……またしても非現実的な力の作用が関わっている他ないだろう。
ボクはすぐにキミを探すために崩壊した場所を歩き出す。
足元が悪い中、キミを探す。
だけど見つからない……何故ならあの世界はキミの承諾があったから入れたのだろう。
じゃあ今はキミの承諾がなければ、無理だ。
だけど……モーティ・ディー二アの言葉が横切った。
「誰かを信じる前に……自分を……そして、自分の力を……」
自分の中にあるとされる力。
そもそも力というのは自覚しているようなものだが、ボクはこの状況でも平常心が保てているのだ。
これはもう常人からしたら、異常であり、所謂サイコパスという所だろうか……。
しかし俺の中にはキミを探すことしかない。
キミのせいで巻き込まれた人を救うことじゃなくて、この世界のどこかにいるキミの場所へ……。
数分、数十分、一時間くらい経ったが、ボクは歩き続けている。
ボクが進む道は道ではなく、あてもなく彷徨っている。
すると――
ドゴォォォンッと凄い音と衝撃波走る。
ここだけじゃなく、世界の崩壊は続いているらしい……本当にキミは初め、世界全ては無理だと思うが、この国、この県だけでも、か。
そこまで本気、いやそうゆう問題ではないのだろう。
キミが感じていたものは、他人には分からないが、質量に置き換えれば、想像もできないほどの苦しみになるだろう。
人として生まれたのに、生きるということに苦難する。
それは自分が、他人が、生命以外も……そんなこと想像しただけで嫌になる。
多くの人はそんなこと思わないが、それを思えば、沼にハマるように果てしない海に沈むように人々は精神面の話を簡単に捉えるが、それはただ無知な人達だけだ。
無知は幸せとかどこかで聞いたが、実にその通りだ。
「はぁ~……はぁ~……」
自分の疲労など感じていない。
それよりキミのことだけを考え、ボクは今進んでいる。
キミはこれを覚悟した……でも恋した相手であるボクから嫌いになってほしくないということなのだろうか?
でも、これほどの惨状を予想したキミはボクがキミを許すと……いやそれを信じていたのだ。
唯一恋したボクには嫌われたくはなかった。
それでもキミはこれを引き起こした。
それほどに嫌いだったということだ。
「零……」
キミを想うとボクも胸がだんだんと熱くなる。
これがキミが感じていたものなのだろうか?
キミは今、何を感じているのか? 何を考えているのだろうか?
もうキミは……。
目の前から消えたキミに問い掛けるともう君はいないのではないかと思いついた。
「嘘だ……」
ふと思ったものが口から零れ落ちた。
それを境にどんどんと前まではありもしなかったものが溢れ出すように次々と心から生み出され、外へと出ていく。
「嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ!!」
キミはもういないのか? もうキミとは出会えないのか?
想無零は自分も他人の世界もずっと嫌いだった。
だけど恋をした針美守のことは嫌いではなかった……だからこそ、彼に嫌われることを恐れて最後にそう思った。
彼女なりの告白であった。
「零、零!!」
ボクは叫ぶ。
まだこの世界に君はいると信じて……。
一歩一歩と再び足を動かし、力を辿る。
今、世界は亀裂が広がったことで現実世界に影響を与えている。
亀裂は塞がっているわけではなく、通常ならこの世界からは認識できない概念であり、それを関わりを持てるのが、力という者なのだろう。
この一件で物理法則に当てはまらない力の証明になりそうだが、それはキミとボクだけが知り得ることだろう。
彼は自分の力にある力を探る。
何かあるとするなら、自分自身の力しかない。
だけどそう簡単に見つけられるものではない。
その時、モーティの言葉を思い出す。
他人を信じる前にまずは自分を信じること……その言葉を頼りにするなら、自分を信じることでキミを見つけられる。
自分を信じると簡単に言うが、自分を信じるとは結局なんだろうか?
自分自身を信じることで何かをきっかけを生み出すことができる。
「自分を……信じる」
一つ口にし、唯一という言葉を思い出す。
本当なのかまだ分からないが、あの夜空のようなものは決して嘘なんかじゃなかった。
人にはあれほどの輝きが詰まっているのだと……証明されて正直嘘だろうと思ったが、それが自分には何もないと思っていた紛れもない自分の中に存在したのだから信じるしかなくなった。
最終的に思い込みでもいい!
でも今はこの唯一に賭ける!!
そして針美守は自分を信じ、心の中にあるある光が目に付く。黒い背景に無数の星が散らばっている夜空に一際、強く光り輝く白い光に目が留まった。
白、それはボクの場合、何もないを象徴している。
白、それは白紙であり、無色ということ……無は何もないということは理屈が通る。
この光が自分の中に存在した力であり、ボクが自分自身として信じられるもの……。
ボクは精神の中で手を伸ばし、その光を掴む。
「えッ――」
驚いた。
それを掴んだ瞬間、内側から何かが溢れ出す。
それは白い光を放ち、周囲に広がる。
「ぐす……うぇぇ……」
これは、泣き声。
しかも聞いたことのある声、これは想無零の声だ。
彼は立ち上がり、辺りを見渡すが彼女は見えないが、声の方向へ足を進める。
まだ彼女は生きている。
「零……零!!」
この惨状の中でただ一人を探して叫ぶ。
瓦礫の中を歩き、空間の亀裂らしい狭間を見つけた。
「あ――」
それは遂に現れた。
この非現実的な現象、空間の亀裂がそこにあったのだ。
それを見た瞬間、彼女の力だと確信し、針美守は世界の狭間へと飛び込んだ。