7
思い出した。
その感情は彼女と一緒だった時の感情、初めて話しかけた時、彼女の秘密を知った時、子供のように遊んだ時、そもそも彼女と共にいる時……。
ボクは確かにこの暖かさを感じていた。
この想いを感じていた。
キミは、何を信じている?
「一人の女の子……つい最近出会って、仲良くなって……ボクは彼女と友達になりました。今は彼女を信じています」
「へぇ~なるほど。キミらしいね……」
ただ一人の人はその誰もが自分を信じることは出来ず、他人を信じ、知らずに依存という形がその人の在り方であり、習性、本能と言っていい。
それが、根源が無である人の在り方……人の身、その魂で何かに触れて、生まれた者達の末路……。
「ボクはこれで正解なのでしょうか?」
「今のところはね。後はキミ次第だよ……それを信じて前を向く。今はそれだけでいい……私の占いとしてはその挑戦はそう遠くはない。一つは占い師っぽいことを言わないとね」
「あ、はは……」
っぽいって、本業じゃないのか?
確かに何かムードのあるような話になったが、結果的に信じるものを見つけることができた。
これは感謝しなければならない。
「ありがとうございます……」
「いいのいいの、それくらいはお金を取るほどでもないし、まぁ今回はそもそも無料だし……そういえば、貴方の名前を聞いていなかったわね。ここまで話したんだから教えてくれると嬉しいな!」
確かに……。
この人は常時、明るい。
まぁ、こんな所にいる人が明るくなかったら、人気が少ない所が無人になってしまうかもしれない。
「ボクは針美、針美守です」
「へぇ~、針美君ね。私はモーティ、モーティ・ディー二ア。巷では“運命の女神”と呼ばれているんだ! 名前の通り、出身は違うんだ。ここに来て五年だね。ここは噂通りに良い国だからね~」
本当に外国人だった。
それにしては日本語が、日本人と遜色ないほどに上手いし、日本人とのハーフかと思ったが、容姿が外国人一色だ。
こんな綺麗な人がいるのかと改めて思う。
その時、また地震が発生した。
「おっと、最近は頻繁に起きてるね~」
「そういえば、この地震について占うことは出来ませんか?」
「うん? 何か心当たりが?」
「え、何でそう思うんですか?」
ボクの反応にモーティは嬉しそうに笑う。
「そりゃ、キミが何かに興味を示すということはそうゆうことでしょ?」
確かに、当然のような反応をしたから笑われたのだろう。
ついさっきのボクの状態を見れば、誰だって占いをする前もなくわかるだろう。
それに気づき、少し自分の事が恥ずかしくなる。
「ふふ、それが少し分かりずらい人間性ですね。人は恥ずかしい時には物事を上手く考えることが出来ませんから……まぁ、当たり前ですけど、恥ずかしさも人間の証です。そして地震についてですね。まず物理的にこんなに頻繁に地震が起きることは今の地層じゃ考えられない。つまりこの地震は単なるプレートのずれではないということ……」
モーティは文末でボクを何かを知った目で見た。
「ッ――あなたは知って?」
ボクはモーティが何を訴えているのか分かる気がした……まさか、本当にボクの気になっていることが正しいのか?
もしそれが本当なら彼女になんて伝えれば……。
「正直に言うとね。私は二つ名の通り、運命を視認できる女神……そうすれば貴方が今考えていることも分かる。確かにそれが正しいし、残念だけど、それが原因だ。ここでキミが私と出会ったのはただの偶然じゃなく運命。地震の原因として彼女の力が関係してくるね。世界の狭間、なるほど……私も今知ったけど、力の何かが分からなくてもこれは関連があると思っちゃうね。世界の狭間、それはここに存在する世界に狭間を創り出し、世界を詰める。イメージとするなら、世界という設定された容量の中に無理やり、空間を作り、更に容量を詰め込むということだね。世界の容量は常時満たしているということが重要だよ?」
モーティの言葉でボクは結論を出す。
「普通に考えるなら、無理やり容量を詰め込んでいるならこれ以上やると無理やり詰め込まれている世界が……」
「そう、多分ここで空間的破裂が起き、不可思議な災害が起きる。だけど……」
モーティは話しながら頬杖をつき、目を細める。
そして運命の女神は彼を通じて知った想無零を見て、真実だと思われることを口にした。
「恐らく、彼女はこの地震の原因もこの先のことも知っているみたいだね。最低でもその力の何たるかは分かっているはずだから、世界の狭間というものは自然に出来たものではないことは自覚しているはずだし……彼女はそれを知るだけの技術を得ている。その力も私の知っているものと一緒なら、ゲームと同じ熟練とを上げて、知っていくはず……」
モーティの言葉に半分はついて行けないが、半分は突ついて行こうとしている。
認めたくはないが、認めざるを得ない。
でも彼女はボクの目の前でそんな素振りを見せたことはなかったはずだが、自覚しているのなら、隠していたのだろう。
「だから彼女は知っていた。それが成されれば、首都を含めたここら辺一帯が、崩壊することになる……」
それは本当に非現実的な話だったが、自分の目で見て、自分のそうではないかと疑ったことを信じられず、手放すことはできない。
何せ、彼女がやっていることでこの世界が……。
「ッ――」
そう、彼女は知っていた。
でも躊躇いはないだろう。
何故なら彼女、想無零は現実に未練もなければ、ボクのように生きがいも価値も見出していない。
だからこそ、世界を壊そうと……。
「そうだよね。ボクももしキミと同じならそう思っただろう……キミは悪でも何でもない。ただそう思ったからやっただけ……」
「……悪でも何でもない、か。それは違うよ。私が認識する悪はこの世界を揺るがす者、端的に言うなら秩序の破壊だね。大まかに言えば、悪の定義はとても広い。判断基準は曖昧で光か闇かの問題ではないからね。でもキミに止められる? 彼女はキミの予想以上に力を熟知しているはず……」
「でもボクしかいない。ボクがやらなければならない」
「それは何のため?」
「え……」
「その理由、何のためにそう決断したの? 世界、人類……」
それはもう悩むことはない、決まっているのだから……。
「彼女のためです。例え、世界がどうなろうと……あの子を、一人の友達、想無零を救うためなら……」
「……そう、ならもう一つアドバイスを……誰かを信じる前に自分を信じること、それが他人が自分を信じることに繋がる。だから自分の中にある力を信じて……何が何でも前へ走り、掴んだものは離さないこと……それが運命の女神からのアドバイスだよ」
もうモーティ・ディー二アが運命の女神だと受け入れている。
それくらいのことをしてもらった。
ボクという存在を明確にしてくれた。
「分かりました」
「もうそろそろだね……健闘を祈っているよ!」
そして自分の携帯が震え、取り出して見てみると彼女からの電話だった。