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「せかい、そうぞう……」


 それは正にチートの代名詞と呼べるもの……文字通り、世界を創造できる。

 だが彼女曰く、それほどの範疇を超えていれば、世界はとっくに終わっているとのこと……それに読み方というか、認識が違うらしく零さんは訂正する。


「せかいそうぞうのそうぞうの部分、それは創る方の創造じゃなくて、想うの想像だからね。だからここは私の世界だけど現実には見えない。この世界は物理的だけど範囲とか制限はあるけど、細かく設定できる。例えば――」


 そう言うと彼女はノートにペンを走らせる。


 するとザァーザァーと水、波の音が聞こえる。


「え……」


「ふふ」


 戸惑うボクを見て、キミは笑い、フェンスに近づき僕を手で招く。


「ほら、見て!」


 彼女と一緒に下を見ると、この世界の大地だと思われるところは海が広がっていた。

 そのノートは普通のノートだが、想像するために補足として文字や絵をノートに書き写して明確に想像できる。

 つまりは設計図である。

 だから無我夢中になるのは、間違いないが教室でのことを彼女に聞くとそれはこの世界に言っているだけで皆には認識されないということだが、何故かボクには認識されたと内心本当に驚いていたという……。

 自分の世界にいる時は現実の自分は周りから認識されないから教室にいないということにもならない。


「せっかくだから遊ぼ、子供みたいに!」


 彼女は嬉しさが舞い上がったのか、ボクの手を握って階段を駆け下りる。

 自分の力を次々と披露する。

 ノートに書くものなら何でもであるが、制限の一つ目は無機物だけで有機物、食べ物は想像可能だが無機物として想像される。


 だけど可能なことは多く、無機物なら何でも創造ができ、この世界の法則も変更可能らしい……。

 二人は外へ出て、裸足で駆け回る。

 水も現実のように冷たい。

 深さは踝くらいで外にはこの世界の先には白石の建造物の一部が転がっている。

 古い学校の椅子に座りながら、二人はその風景を眺める。


 それは正に幻想的な風景であり、ずっと見ていたいくらいだ。

 彼女が言うにはこの世界は現実の狭間に位置しているため現実世界の何かしらの力を借りて存在していると言った。


「この力を知ったのは物心がついた頃だった。当時はイマジナリー系なの何かだと両親は聞き流していたけど、小学校になってから私は普段と変わらず、現実とは別の世界を垣間見ることができた。だから私は精神病院に一度連れて行かれて、そこから私のこれは普通じゃなくて異常なんだって気付いて、私はもう言わなくなった。中学校は学校が嫌でいつもこの世界にいた。ずっと家にいたのに両親はおかえりって言ってきたからその時にこの世界に居る時には自分はいい意味でも悪い意味でも認識されないって気づいた。多分この世界は生まれた時からだと思う。なんかそんな感じがする……」


 彼女の人生は思った以上に波乱だった。

 まずこのような力を持った時点で普通の人生を送れるか分からないのに彼女は自分だけの秘密にして今まで生きてきた。

 

「それは凄いことだね……」


「え、と……」

 

 語彙力皆無で彼女を励ますが、当然彼女には伝えたいことを認識されない。


「え~……ボクならここまで生きていられないよ。キミだからできたことだと思うよ?」


 その言葉は少々危険だ。

 その意味は“キミは異常だから”という意味と“キミは特別だから”という意味がある。

 もし前者の意味で捉えられたらせっかくの関係性が崩れてしまう。


「えっと、補足すると零さんは特別だねっていう」


「あは……そう、かな? こんな力を持っているけど自分が特別だっていう自覚はないんだよね」


 想無零そうむれいは笑う。

 自分がそんな重大そうな人間ではない、特別なものではないと……でも現に非現実的な力を持っている。

 本人曰く生まれた時から……まぁ、物語でもあるけど、平凡な人が急に救世主と言われても現実味は皆無だし、信じられるわけがない。

 自分は人として生まれたのだから……人間は根本的なことを言うと特別ではない。

 だから自分では自覚などできないし、本当だとしても信じられるわけがない。





「でも私はこの力に助けられた。だから私はこの力で生きていく」


 想無零そうむれい針美守しんびまもるの目を見て、話す。

 その瞳からは想像以上の強い意識を感じ、彼女が今まで生きてきて積み重ねた覚悟の上で成り立っているものだ。

 それを自分と比べてしまう。

 僕にはそんなものは一つも存在しない。

 だから彼女に憧れるが、自分では不可能だと言うことを知っている。

 未来が見えなくても分かってしまう。

 何故か……。


「キミは凄いね。僕とは真反対だね」


「キミにはないの?」


 僕には――

 改めて考える。

 でもいくら心の中を掘っても、目的の者は見つからない。

 だから見つけなくてはならないが、僕はそれを宝島と同じだと思っている。

 現実でどこか財宝が眠る宝島を見つけようとするとの同じだ。

 理由を述べるなら、もう取り尽くされて残っていない。

 それはこれと同じで必要な人間が取っていき、後の人間は望まなくてもこの現実に生まれ、生きる意味もなく歩んで行く。

 生きる理由や喜びなどは皆無なまま。


「じゃあ改めて私と友達になってくれない? 針美守しんびまもるくん――」


「今思ったけど、いいの? こんな僕で……想無零そうむれいさん――」


 不安と言う感情が心の中を埋め尽くしているボクに彼女は微笑んだ。


「うん、いいよ」


 それは何も不満のない表情だった。

 女神、天使、それらに該当するほどの美しさであり、これが惚れるという感情なのだとボクは気付く。

 まさか異性に惚れる時が来るなんて思いもしなかった。

 これが好意というものなら……。


 彼は胸に手を当て、その感じに浸る。

 暖かい、かつて冷めていた心が謎に発生した暖かさが心、身体へと広がる。

 惚れ、好意はこのような感じなのか、生きているという実感が湧いてくる。


 人間っていうのは、単純だ。

 だけどその単純や小さなことが人間にとって生きる理由になることもあるのだと彼は思った。


 そして彼女に向かって、今にも崩れてしまいそうな表情でお礼を囁くように言った。


「あり、がとう……」




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