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ボクの朝は今日も普通だ。
彼は起き上がり、昨日のことを思い出して静寂だった胸が暖かくなり、鼓動が早くなる。
だがこれは恋ではなく、単なる緊張だ。
友達のいないボクが初めて、自分の意思で疑問を持って、話しかけた女の子と小さな約束をしたのだから、緊張は当たり前だ。
机の上に時計を見て、いつも通りの時間六時に起きた。
ボクの生活は何も不自由がないが、それだけで人間は生きていけないのは考えればわかることだ。
どんなに裕福でも余りあるほどのお金を持っていようと、楽しみがなければ何も変わらない。
生きてくために大事なのはお金かもしれないが、本当に大事なのは中身の問題だ。
別に全ての人が裕福な暮らしで満足したいという願いを持っているか分からないが、その基準は人それぞれである。
そう考えていると一つの結論に辿り着いた。
“自分と同じ人間は存在しない”ということだ。
自分の容姿が似ている所謂ドッペルゲンガーなんてものが語られているが、本当にそんな存在がいるなんて証拠はないし、もしそれがいたとしても一つの結末であるドッペルゲンガーに殺されるという話なら一致などしていない。
例え同じ容姿でも心が違えば……。
ボクの頭の中は誰よりも思考を巡らせているかもしれない。
自問自答、よくある脳内会議、一つの議論から話しを派生させていくが、それは全て現実味のある話から、もし、本当は、という仮説を導き出していく。
ボクは制服に着替え、持ち物を確認した。
普通の高校生活というものはボクのようなケースを言うのだろうが、とっくに導き出されたこうゆうケースは世の中に沢山いる、珍しくも何ともないと……。
だからこそ共感してくれる可能性があるが、別に世の中が変わらないなら意味がないと思っている。
下に降りて、母が作ってくれた朝食を食べる。
正直、二人にはボクがこんなになっていることを知らない。
でも別に知ってほしくはない。
話したところで何も変わらない……。
そしてもう一つ“他人を完全に理解することなんてできない”という結論だ。
もしそれが可能な人物がいるとするなら、自分の半身、脳内のイマジナリーフレンドくらいだ。
存在はしているが、中身が何もない。
生きがいがないボクは中身が透明、透明人間と言っていいほどに……。
ボクは早く朝食を取り、家を出た。
いつもの道、いつもの温度、人気が少ない道を通り、ただ足を動かす。
学校に行きたくない、それはもうわかっているが、こうして何も考えずに毎日足を動かしているのだから問題はないと思えてくる。
両親は反対する。
少し、いや本当に頭の固い人達だから、もう何も求めないし、望まない。
これからボクがどう歩もうと……。
心の中が暗いなんて日常茶飯事。
建物を抜け、公園に入る。
少し日差しが熱いと手を顔の前にやる。
もう夏が近づいてきているのか、と心の中で思いながら、いつもの桜並木の道を通る。
生きがい、関連で話始めよう。
たまに見つければいいと言う人がいるか、本当にそれで見つけられると本当に思っているのかと毎回思ってしまう。
それが分からないものを見つけるなんて、この世界のどこかにある財宝を見つけるくらいに難しい。
そもそもそうゆうものって、それくらいで見つけられるものなのだろうか。
成功した人間だからそう言える、としか考えられない。
まぁ、世界が理不尽なんてとっくの昔に気付いてる。
だから優しい世界になってくれなんて非現実なことは言わない。
だがそれで悩んで、心の中を彷徨っている人は思わずにはいられない。
何もないから、存在するものに縋りたいのは本能的行動の一つだろう。
そう思いながら歩いていると機能、あの子と出会ったベンチが目に入る。
何もない人、なら彼女はあり過ぎるのかな。
今気づけば、ボクは真反対な人に声をかけてしまったのかもしれない。
中身が溢れてしまうキミと中身が空っぽなボク……。
でも違和感とか、嫌悪などはなかった。
中身が溢れてしまうキミを嫉妬なんか抱かなかった、真反対なら嫉妬とか抱きそうだが、ボクはそんなものはなかった。
いや分からない。
まだキミを知らないから嫉妬なんて抱かなかったのだろう。
もしキミの中身を垣間見れば……だけど自分でも分からない。
「はぁ~……」
行き詰まり、ため息を溢すが、足は止めることなく学校へ向かう。
家から学校までニ十分くらいで着く。
学校では誰にも関わらないので何も考えずに教室へ向かう。
日常は変わらない。
まぁ、学校だからだろうか、行事以外は全く変わることのない場所と言える。
教室にいる陽キャと言われる人、普通な人、陰キャの人に分かれているが、ボクは本を読んだりしない。
今は仮想に浸りたい状況でもない、そんなことをしたって、嫌な現実というものは背後に存在する。
生きている限り、それは離れないし、受け入れなくてはならない。
ボクはいつもと同じで重く椅子に座る。
頬杖をついて窓から外を眺めるが、何も抱くことはない。
ただの何もない人の形として……。
全て持論だが、今の人は哲学を語ら過ぎる。
考えるのはボクのように生きがいが、生きる理由がない人が考えること……。
今や人の周りに物事が多すぎる。
人がこれからを考えても、人が哲学を語ろうと……今生きる時代で変化など到底起こることはない。
だからこれも無駄となる。
それでも続ける理由はそれしかないから……ただ働こうと、無心で行動しようとそれが生きる理由に……。
でもボクはそんなの嫌だ。
ただ働くだけが人生に染まるのなら……後は後悔か、最低でもいい思い出などはない。
こんな、世界……。
何かを呟こうとしたが、気付くと瞼が降りて、真っ暗になった。
「――ぇ」
「――ねぇ」
「――ねぇ、起きて!」
その声は昨日のあの子。
そう気づき、ハッと目が覚めて上半身を起こす。
「え……」
ボクは言葉を失った。
そこは教室、だけど他の人がいない。
更に背景が全て水色、青に塗りつぶされていた。
それはまるで鉛筆で背景を描写し、色を水色と青で塗ったかのような世界が目の前に広がる。
その驚きは久しぶりだ。
でも彼の思考はすぐに声が聞こえたあの子を探す。
教室には誰もいなかった。
教室を出ると青い世界が広がり、本当に全てが青に染まっていた。
これは奇妙な状況だが、何だが心が躍り出す。
まるで子供が見たことのないものを見たように、彼の足取りは軽く、その階の居室を覗く。
青という色々が、影も現している。
本当に青い世界……。
この階は誰もいない。
なら下に降り、二年生、三年生の教室を見ても無人。職員室、音楽室、美術室……全て見たが誰もいない。
なら最後は一つしかない。
最上階、ボクは言ったことはなかったが隅々まで探してみるしかない。
「はぁ~はぁ~」
彼はいつの間にか彼女を求めていた。
昨日の約束を知りたくて……。
小さい動機が彼を突き動かす。
ガタンと勢いよく屋上の扉を開く。
「ッ――」
そこにはあの子が古い椅子の上でノートにペンを走らせていた。
そして彼は彼女を見つけたことで最初の疑問に返ってくる。
「ねぇ、ここは何?」
「ここは、私の世界……現実の狭間に存在するあるかもしれない世界の一つ――」




