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竜と悪役令嬢だった魔女  作者: 六花さくら
【第九章】この国の未来のためにできること
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 71.この国の未来のためにできること(3)

「あ、アナスタシアァアアアアア」

 恨み籠もった声を発したのは、ソフィア王妃だった。


「私を騙したのねぇ! カーチェと一緒に来て! 私の石に細工したのねぇええええ!」


「そんなことしてませんわ。相変わらず虚偽の言いがかりをつけるのがお得意ですわね、ソフィア」


 私は敬称なしに目の前の女を罵った。


「な、なぁ……アナスタシア。俺はこの女、ソフィアに騙されていたんだ!」

「……騙されていたら、何をしても構わないと?」


 私は扇子で口元を隠した。

 唇を噛んで、怒りをごまかす。


「本当は、お前が一番好きだ。アナスタシア。お前も俺のことが好きだっただろう? だから婚約していたじゃないか!」


 一生の恋も冷めるというのはこういう瞬間のことを言うのだろう。


 男の恋愛は新規保存。女の恋愛は上書き保存とよく言うけれど、この王子は、まだ私が彼を好いていると思っているようだ。馬鹿じゃないのかしら。いや、馬鹿だったわね。


「エドアルト! 私を愚弄するの! あんなに愛しているといったのに! 嘘だったの!?」


「ええい、黙れこのアバズレが! お前に騙されなかったら俺はアナスタシアと結婚して、こんな惨めな目に合わずに済んだんだ!」


「何よ! 私だってこんな小さい国よりも、もっと大きな国の王妃になりたかったわよ! そうしたら、もっともっと宝石や装飾品が手に入ったのに! 無能馬鹿国王!」


 ソフィアとエドアルトが言い争っている。

 なんて醜い……。


 こんな者たちが王座に座っていたなんて寒気がする。


「なぁ、アナスタシア。お前は聡明だったな。一緒にこの国を建て直そう。俺は気づいたんだ。本当に好きなのは、愛していたのはお前だということに」


 国王はぺらぺらと喋る。

 心のこもっていない言葉を延々と。


「エドアルト国王?」

「な、なんだ? アナスタシア」


「ごめんなさい。私にはもう、好きな人がいるの」


 そう言って、私は国王からの告白を断った。


「アーさん好きな人いるんですか!?」

 カンパネラが驚いて声を発する。


「あとで、ちゃんと教えるから」


 私はコホンと咳払いをする。

 そして、エドアルト国王の方を向いて、にっこりと笑った。


「エドアルト様は、昔はとても努力家でしたね。たくさんの文献を勉強して、この国の成り立ちや、政治も、たくさんたくさん勉強しておりましたね」


「あ、あぁ。王になるために当然だろう!」


「でしたら何故この惨状になったのか――という話は止めましょう。長くなってしまいますし」


 私はカンパネラの父――竜の王に頼んだ書状を読み上げた。


「『貴国(きこく)に奪われた宝石類の返還を申し立てる。

 それが出来ぬ場合、我が私財で成り立ったこの国の玉座に、竜の跡継ぎである我が子を立てろ』」


 結構簡略して書かれていた。

 簡単に言えば、宝石類を返せないだろう? なら俺の子を王にしろ、そう要求させているのだ。


「そんな……我が家は代々続く王家で――」

「あら、でしたら過去にご先祖様が盗んだ宝石をいますぐに返還してくださいませ? 1000年分の利子をつけて」

「――っく」


 エドアルトは黙る。


「ねぇ、ねぇ、アナスタシア。私達、友人だったでしょう? あなたにはいっぱいいじめられたけど、それも全部許すわ。お茶会にわざと誘ってくれなかったり、物を壊されたり、池に突き落とされたりしたこと、全て許しますわ。ですから、私だけでも――」


「嘘を吐き続けて、それを本当のことのように語る病気の人はいるけれど、あなたはその病気のようね。ソフィア。私は一度もそんな事した覚えはございません。あなたをお茶会に誘うほど仲良くなかったでしょう? 物も自分で壊していたし、池には自分で飛び込んでいたじゃない。覚えてないのかしら? (おろ)か者ね」


 ソフィアはぐぅとも言えなくなった。


「次代の王様――カンパネラ様。どうかご命令を」


 私はカンパネラに指示を仰ぐ。


「アナスタシアの思うがままに」


 カンパネラは打ち合わせ通り言ってくれた。


「エドアルト国王、ソフィア王妃。貴方達は今日から身分を剥奪します」

「そ、そんなことが罷り通るのか!」

「罷り通ります」


 私ははっきりと言った。


「エドアルト国王、ソフィア王妃。悪い王様と王妃様は斬首で処刑されるのが定番ですが、いかがでしょう? いつなさいます? 今日? 明日? 国民はきっと喜ぶでしょうね」


「あ……あぁ……」

 ソフィアは絶望した顔色を浮かべていた。

 もう逃げ場がないと悟ったのだろう。


「ど、どうか、お命だけでも……」

 彼女の足元は濡れていた。きっと失禁してしまったのだろう。哀れな人。

 少しでも国民のことを見たならば、こんなことにはならなかったのに。


「国民は斬首を求めるでしょう。でも、私は血なまぐさい光景を見たくありません。そして、貴方達の子どもたちにトラウマを植え付けることもしたくない……だから、ひとつ提案致します」


 私は一本指をたてて、口元に持っていった。


「最大の温情で見逃してあげましょう。ここでエドアルトとソフィアは亡くなったことにし、名も捨ててもらいます。爵位も、なにもない平民になって、平民の気持ちを理解してください」


「そんなこと、王の俺が……!」

「いやよ! 土まみれになるんて!」

「では斬首で」

「それはもっと嫌! 悪魔! この悪役令嬢! 私は王妃よ!偉いのよ! どうにかなさい!」


 王族というプライドを残したまま死ぬか、全てを剥奪されてそれでも生きることを選ぶのか。


 私は二人の判断を待った。


「1分だけ待ちます」


 懐中時計を見る。ちょうど、一分が経った。


「では、貴方達はどちらを選びますか?」


 私は二人に訊ねた。


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