44.この国を変えるために大切なこと ルイス視点
「きみはこの国に復讐をしたいのかい?」
ペスト仮面を着けた男が、言った。
そうだ、と俺は答えた。
「その対価に君は何を差し出す?」
私財を、と俺は答えた。貿易で稼いだ金がたくさんある。
「足りないなぁ」
ペスト仮面の男は呟いた。
この男は何を欲しがっているのだろうか。金ではないのか?
「この石はまだ完全な物質じゃないんだ。だから足りないものがある。それを君には集めてもらいたい」
「足りないもの……?」
「命だ。3つ、用意してほしい。どんな命でも構わない。そのへんの路地に寝転がっている者の命でも、高貴な者の命でも。
あぁ、それから、その命が高貴な魂を持つ者の命なら、もっと良い効能が出せるだろう。そうすれば、君は革命家になれる。自分の領土や一国の主になれるかもしれない」
ペスト仮面の男の言い分に失笑してしまった。
命を集めろ?
そうしたら、この国を変えられる?
バカバカしい話だが、成り上がりである俺には『賢者の石』というものが喉から手が出るほど欲しい。
「3つ。魂の集め方は?」
「簡単だ。吸い取ればいい……いや、これは私だからできることだな。君のような者が集める簡単な方法は一つだけ」
「……どんなことを?」
「殺せ。剣でもナイフでも銃でもなんでも構わない。この『賢者の石』を身に着けた状態で、人を殺せ」
そう言って、男は赤い石を俺に渡してきた。
これが『賢者の石』。
おとぎ話などでよく聞いたことがあったが、実物を見たのは初めてだった。
同じ赤い石のルビーなんかとは輝きが違う。
もっと禍々しく光る石だった。
命なら無数にある。
パーティーに行って感じた。貴族は下を知らない。
下の者が何を考えているのか、どんな想いを胸に抱いているのか知りもしないだろう。パンを食えずに砂利を食ったこともないだろう。
――そうだ。捧げるなら貴族たちの命を捧げればいい。
奴らの命なら無数にある。
ゴミを潰して、俺は成り上がる。革命家に、王に。
この国は国王に食いつぶされてしまっている。
だから、俺のように革命をする者がいないといけない。
そして一人じゃ足りない。
不満を持つものを集めて、実行する。
けれど、仲間にこの賢者の石について悟られてはいけないと思った。
山程の金や宝を見た時、人の気は狂う。
それと同じような価値をもつ石は、俺のように意思の強い者が持つべきものだ。
ある日――男爵令嬢を攫った。
「たすけて、だれか、たすけて、おねがい、おとうさま、おかあさま」
彼女の喉をナイフで切った。
山程の血が溢れ出た。
血は赤黒かった。やはり貴族の血は汚れきっている。
粛清しなければ。粛清しなければ。
そしてまたある日――次は子爵の子息を攫った。
「やめろ、俺を誰だと思ってやがる。くそ、ゆるさない。絶対に……絶対に」
同じ様にナイフで喉を切った。
山程の血が溢れ出た。
失血死した遺体は炭になるまで焼いて、山へ埋めた。
そして――最後の人をどうしようかと思った。
その時、ペスト仮面の男の言葉を思い出した。
『高貴な魂を持つ者の命』
思い浮かんだのは二人。けれどそのうち、一人はこんな事件に巻き込みたくない。
一人はシャターリア家の令嬢。アナスタシア。
彼女は他人とは違った雰囲気を持っていた。
まだ幼いのに美しく、可憐さも持ち合わせ、そして何よりも聡明であった。
彼女の命なら、きっと賢者の石も満足するだろう。
しかし、彼女は伯爵令嬢だ。
だが、最近はよく護衛の男を一人だけつけて、街を歩き回っていると聞く。
きっと護衛はパーティの時に居合わせたあの青髪の男だ。細身で背の高い男だった。
元騎士の俺なら、あんな護衛の一人くらいなんとかなるだろう。
俺は、俺たち願いのためならなんでもやってやる。
もう俺は二人の人間をこの手で殺めた。手は血で汚れきってしまっている。
だから怖いものなんてない。
あと一人。
あと一人を殺せば、俺は革命家になり、王になれる。
だから、恨みはないが、アナスタシア……俺の願いのために死んでくれ。
ルイスの死亡フラグしか立ってない……。
気に入っていただけましたら、★★★★★評価お待ちしています。
またランキング参加もしておりますので広告の下にあるボタンをぽちっと押して頂けると励みになります。
コメント・感想・誤字脱字報告も随時募集しております。