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竜と悪役令嬢だった魔女  作者: 六花さくら
【第五章】革命家と反逆者
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 42.リリィ・ヴィユノークという女(1)

 王家のパーティーが終わった数日後、ヴィユノーク子爵の令嬢から手紙が来た。


 どうやら訊ねたいことがあるらしく、私の家に訪問したいということだった。


 父上宛や母上宛なら分かる。

 けれど宛先は何故か私になっていた。


 馬車でやってきたのは、二十代前半の女性だった。

 私の見た目年齢よりも、母とのほうが歳が近そうだった。


「はじめまして。アナスタシア様。突然の訪問を失礼いたしますわ」


 ピンクブロンドの髪をなびかせて、彼女は丁寧なお辞儀をしてくれた。

 瞳の色は黄金色。とても綺麗で美しい瞳の女性だった。


 手紙が来てから、ヴィユノーク子爵家について急いで調べた。

 シャターリア家とはほぼ関わりのない家だ。この間の年明けパーティーでもいなかった。

 それなのに、何故、しかも私宛に連絡が来たのか……。


「はじめまして。ヴィユノーク様」

「いえ、私のことは気軽にリリィと呼んでくださいませ」


「そんな、年上の女性に言えません。では、間をとってリリィ様と」

「はい」


 リリィの笑みは花よりも可憐で美しかった。



 貴賓室でメイドがお茶とケーキスタンドを用意してくれていた。

 今日のケーキはアップルケーキだった。残っていたらあとでカンパネラにあげよう。きっと喜ぶ。


 リリィの瞳に曇りはない。

 何か裏で企んでいるというタイプでもなさそうだ。


「あの、先日の王家のパーティーで貴方と話していた人について、少し気になって……」

「……私と、ですか?」


 王家のパーティーではたくさんの人と挨拶を交わした。


 王子の婚約者候補の筆頭だったから、私に挨拶する人はたくさんいた。


「エクエスという男性のことなんですが……」

 と彼女は顔を赤く染めて言った。


 エクエス……? そんな名前の人はいなかった。


「失礼ですが、そのような方はおりませんでした」


「いいえ、いました! 名前を変えてるかもしれません。あのシルクハットを被った、英国調の男性です。30代くらいの……」


 彼女はあたふたとしながら必死に伝えようとしてきた。


 シルクハットを被った英国調の男性――30代くらい。

 ひとり、思い当たった者がいた。


「ルイス・ベイカー様のことでしょうか?」

「……ルイス、今はそう名乗っているのですね。おそらくそうだと思います」


 彼女は俯いてしまった。


「ルイス様について、私はあまり存じません。貿易商ということと、元騎士であることと、お名前くらいしか……」

「貿易商……そうなんですね。よかった。ちゃんと生きていてくれたのね」


 彼女はほっと胸をなでおろした。

 どうも話がわからない。


「あの……リリィ様、答えにくければ答えなくてもいいのですが……ベイカー様とはどういったご関係で?」

 もしかしたら、怨恨の相手かもしれない。

 うっかり口を滑らせて、名前と職業を教えてしまったから、一応聞いておかなければいけない。

 もしも明日ベイカーが消えたら、私のうっかりさが原因になってしまうかもしれない。


「そうですね。面白い話ではないのですが、彼は昔、私の家で働いていた使用人だったのです。私にとってエクエス……いいえ、ルイスは歳が近かったから、私にとっては兄のような存在でして……」


 彼女の頬が少しずつ赤く染まっていく。

 手遊びが多くなる。


「ある日、彼は失踪しました。突然いなくなったのです。私は事件に巻き込まれたのではないかと心配で、何年もずっと探していて……」


 ほろっと、彼女の瞳から涙が溢れた。


「もう、諦めかけておりました。もう亡くなってしまったのだと、両親には説得されたのですが、私は一縷(いちる)の望みを抱いてました。そうしたら……先日のパーティで彼に似た人を見かけて……」


 彼女の涙は、堰をきったようにぼろぼろと溢れ出した。

 綺麗な刺繍の施されたハンカチで彼女は涙を拭う。


「別人かと思いました。けれど、あの人はどうみても私のエクエスでした……。目つきも表情も別人のように変わり果てていましたが、きっと、いえ絶対に、エクエスです」


 リリィはハンカチを握りしめて、断言した。


「アナスタシア様、どうか、彼との連絡を取り次いでいただけませんか? 私はエクエス――いいえ、ルイスと話がしたいんです」


「事情はわかりました。でも……どうして母や父ではなく、まだ幼い私なのですか?」


「彼は子どもが好きなんです。……あと、おおごとにしたくないのです。貴方のお父様に頼んでしまうと、家と商人の話になってしまいます。貴方のお母様に頼むと、もしかすると、変な噂がたってしまうかもしれませんし……」


 お母様に不貞の噂がたってしまうかもしれない。


 女性が突然男を呼び出すのはあまりよろしくない。それが貿易商であっても。

 それに母は今、妊娠中だ。いらぬ気を回させたくない。


「わかりました。では、私から彼に手紙を出してみます。子どもからの手紙なので、イタズラかと思われるかもしれませんが」

「……お願いします。あぁ……エクエス……」


 彼女は、ほぅっとため息をついた。涙で濡れた目元をハンカチで拭う彼女の姿は、どう見ても恋する乙女だった。


「それにしても、やはり噂通り、アナスタシア様は聡明な方ですね。とても12歳とは思えません」

 ……どきんっと胸が跳ねる。


「ち、父の教育が厳しいので……よく言われます……」


 と、私は言葉を濁しておいた。


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