40.王族とのパーティ
とうとうやってきてしまった。
王子・ジークフリード殿下の社交界デビューの日が。
彼と顔を合わせるのはかなり久しい。
そういえば、最近ジークフリードに親しい女性がいるとか。
私はジークフリードの婚約者候補でしかない。
しかもジークフリードはエドアルトの子だ。
――アナスタシア・ユーリヤ・シャターリア。お前との婚約をここで破棄させてもらう。
最悪な記憶が蘇る。
あんなことがもう一度行われるのなら、婚約者になる前に辞退させてもらう。
「アーさん、大丈夫ですか?」
カンパネラには、私の側近として同行してもらった。
「そんなに顔色が悪いかしら」
「……ちょっと緊張している感じがしますね。ほら」
カンパネラはそう言って、自分の腕を指さした。
私は、無意識にカンパネラの腕にしがみついていたのだ。
そっと離れる。恥ずかしい。年下に甘えるなんて……。
「そのままでもよかったのに」
カンパネラは残念そうに言った。
「…………」
私は恥ずかしくて何も言えなかった。
そして――ジークフリード殿下が入場する。
まだ正式な婚約者はいないから、付き人を連れて。
ジークフリードは、たくさんの人から祝いの言葉を頂いていた。
私も行かなければならない。
「ジークフリー……」
「ジークフリード様ぁ! お待ちしておりました! 本日は本当に本当におめでとうございます! その衣装も素敵です! 見てください。王子に合わせて、同じ色のドレスを選んだのですよ」
私の順番は、嵐のように現れた女に邪魔された。
甘ったるい声。私の見た目年齢と同い年くらいだろうか。
それにしても媚の売りすぎではないか?
私の順番を抜かしたり、大声で喋ったり、淑女としての礼儀をわきまえてないのだろうだか。
私はあの人を思い出した。
『ソフィア男爵令嬢』
彼女もこの子のように、甘ったるい声で王子を陥落させた。
ジークフリード王子はエドアルト程、馬鹿ではないと思うけれど――彼は愛に飢えている。
王家としては、きちんと妃教育を受けたご令嬢を迎えるのが当たり前だ。
だけど――ジークフリードは『愛してる』と連呼してくれる人がいてくれたら、そちらになびくかもしれない。
国王としての尊厳か、一人の男としての愛をとるか。
エドアルトは後者だった。
まだ10歳の男の子には重い話かもしれない。
けれど、これはいつか彼が背負わなければいけない問題だ。
「こほん」
咳払いを一回。
すると彼は私の方を向いてくれた。
「ジークフリード様。社交界デビューおめでとうございます。本日会えることを楽しみにしておりました」
私はドレスの端をつまんで、お辞儀をする。
「ありがとう。アナスタシア嬢。貴方がいてくれるだけで、心が落ち着きます」
彼はほっとした表情を浮かべてくれた。
そして、次々といろんな方々が王子に挨拶をする
爵位を持つものや、爵位はないが、貿易で儲けている者など――
そこに――ルイス・ベイカーがいた。
ルイスは王子に挨拶をし、そのあと他の人々と話していた。
そういえば彼は貿易商だった。
まだ若いのに、交流関係は広いらしい。
彼の黄金色の瞳は野心で燃えている。
儲けている貿易商と仲良くするのは王子的にもいいことだ。
ただ、きっとルイスは王子目当てで、この社交界に来たわけではないだろう。
国王と王妃はささっと挨拶を済ませて、どこかに行ってしまった。
せめて息子の社交界デビューくらい見届けてあげてほしかった。
私は他人だ。
だけれど、人として、やっぱり両親に祝福されないのは悲しいだろう。
どうすれば、この状況を脱することができる?
国王はとっとと降ろして、王子に告白する?
でも、そういえば私、生まれてから数回しか告白をしたことがないわ。
「……練習しないと」
私は明日から練習をすると決め、パーティーは終わり、カンパネラと家に戻った。
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