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竜と悪役令嬢だった魔女  作者: 六花さくら
【第五章】革命家と反逆者
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 35.シャターリア家の新しい命

 昼間に眠って起きた時、珍しく父と母から呼ばれた。

『今夜一緒に食事をとらないか?』という手紙を侍女から渡された。


 眠りにつくのは夜遅く。

 私はカンパネラも連れて、両親との食事会に参加することになった。


 私と両親の関係は歪だ。


 そもそも、私は彼らを『両親』と呼んでいるが、実の両親ではない。

 私を産んだ両親は、何百年も前に亡くなっている。

 私の弟が跡を継ぎ、その子どもがまた跡を継ぎ、私をこの家で過ごさせてくれる。


 何代も重ねて、血が薄まろうとも、彼らと私はシャターリア家という血を分けた家族であることは間違いない。


「どうだい? 姉さ――いや、アナスタシア。最近は」

 現在の私の『父』である人は、昔の名残で、たまに私のことを姉様と呼ぶ。


「……いつもどおりです。お父様。できれば王子ともう少し近づきたいのですが」

「手順は踏んでおくよ。ただ、最近妙な噂を聞いてね」


「妙な噂……ですか?」

「ジークフリード殿下が、ある女性を気に入っているとかで……」


「……それが私というオチは?」

 私はぐいぐい訊ねてみる。


「どうだろうか」

 とため息が返ってきて、私も一緒にため息をついた。


 私の横では、カンパネラが綺麗にご飯を食べている。

 彼は貴族にまぎれてもおかしくないほど作法をわきまえていた。

 彼は本当に良い人に育てられたのだろう。

 

「……あの、アーニャ、一つ報告があるの」


 お母様がじっと私を見つめてくる。

 私はなんとなく察していた。女の勘というものだろうか。


 先程からお母様は酒類に手を伸ばしていない。飲み物はグレープフルーツジュース。

 食事にもあまり手をつけていない。


「私、妊娠したわ」

 母はとても嬉しそうに報告をしてくれた。

「おめでとう。そうだと思っていたわ」


 私の現在の『母』は、シャターリア家に嫁いできた時、私の存在に畏怖(いふ)を感じていたらしい。いつまでも死なない存在。


 元々そこで産まれた――私の『父』のような者なら、私の存在を『そういうもの』と扱うことができるけれど、外部の人間は別だ。


 私自身をおぞましく思っても仕方がない。

 けれど『母』は、私を受け入れてくれて、本当の娘のように接してくれた。


 そして、ようやく彼女に自分の子が宿った。


「あまり無理はしないでね、重いものは従者かお父様に持たせて……もし万が一、赤子を取り上げる医者がいなかったら、私がとりあげるから安心してちょうだい」


「あら、アーニャ……そんなことまでできるの?」


「姉さ――アナスタシアはすごいぞ。この私もアナスタシアにとりあげてもらったんだ」


「それに万が一野盗が入ってきたら、最強のボディーガードのカンパネラがいるわ」


「アーさんの家族様なら、喜んでお守りしますよ」

 カンパネラは笑顔で答えた。本当に彼も新しい命を歓迎してくれているようだ。


「ふふっ、なら、何があっても安心ね。どうかこの子がアーニャのように立派な子になるように祈っててね」


「えぇ。男の子なら(たくま)しくなるように、女の子なら(しと)やかになるように、教育してみせるわ。あぁ、弟か妹か早くわかれば嬉しいのに」

 私がもどかしがっていると、母は驚いた表情を浮かべた。


「……私ね、本当はアーニャが懐妊を喜んでくれないと思っていたのよ?」

「何故? 子が産まれることは良いことよ」


「でも……アーニャに疎外感を与えてしまうかもしれないと思って……」


 なるほど。

 母は母なりに気を使っていてくれたのか。


「私のことを家族と呼んでくれるなら、私は疎外されたなんて感じないわ。だから、どうか弟か妹を抱かせてね」


「えぇ……。ありがとう。ありがとう、アーニャ」

 母はポロポロと涙を流していた。



 両親との食事会が終わり、私は森を歩きやすい服を着て眠りにつくことにした。


 もちろん靴も履いて。

 侍女に見られたら卒倒されそうだから、扉には鍵をつけている。


 ファウストから貰った赤色の宝石を握る。

 きっと自室にいるカンパネラも同じ様に宝石を握っているだろう。

 私は意識を手放し――夢の世界に入り込んだ。


 薄暗い森。ぼんやりと白く光る花と、真っ白な月。

 よかった。呪いの森に戻ってこれた。


「アーさん、アーさん」

 カンパネラはもう先にやってきていたようだ。


「珍しい木の実を拾ったので持ってきました!」

 彼が持ってきたのは赤い実。クコの実に似ているけれど――ここは呪いの森。

 持って帰ってホーエンハイムの家で研究しないと。


 今回は森の出入り口ではなく、塔の目の前に飛んでこれた。

 彼――ファウストがいるのは、塔の一番上だ。


「……」

 登るのだるいな。


「あ、アーさん、俺の背中に乗ってくださいな。送りますよ」

「ありがとう」


 カンパネラは私の言いたいことを察してくれた。

 うん、やっぱりこの子はイイ子だ。

 人の顔色を見ることができる。


 私は竜になったカンパネラの背に乗って、塔の一番上に行った。


「こんばんは。ファウスト。今日は月が綺麗ね」


「それはなにかの比喩か?」

 と、ファウストが訊ねてきた。


 『月が綺麗ですね』――それは告白の言葉によく使われている。


「いいえ、ストレートに綺麗なことを伝えただけよ」

 と私は返した。


 ファウストの姿は、昨日と比べると全く違っていた。

 まず長く伸ばした髪をばっさりと切っていた。

 そして、金の装飾を施された深緑色のローブを羽織って立っている。


「一日で随分変わったわね」

「髪を切っただけだ」


「とても似合ってるわよ。顔もよく見えるし」


 私はカンパネラから降りて、塔の中に入った。

 カンパネラは人間の姿に戻って、私の隣に立つ。


「……ねぇ、貴方、どこかで出会ったこと無い?」


 髪を切った彼は、誰かに似ていた。けれど思い出せない。かなり昔の記憶かもしれない。


「――さぁな」

 ファウストはそう言って、笑った。

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