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竜と悪役令嬢だった魔女  作者: 六花さくら
【第四章】呪いの森と、瓦礫の塔と、魔法使い
34/81

 33.呪いの塔の魔法使いと令嬢でいたい魔女(4)

「つまり、貴方は眠っている間に、泥棒に大切なものを盗まれるうっかり屋さんなのね」

「うるせぇ。さっきの嫌味返しかよ。……ったく」


 ファウストは頭をかき、深い溜め息を吐いた。


「お前たちは、そのまがい物の賢者の石を持ってここに来たんだったな。誰から手に入れた?」


「……知人よ。不老になれる薬だと言っていたわ」


「そんじゃあ、そいつが盗んだのか?」


「……いいえ。彼はそんなことする人じゃない。でも彼はもう――」


 私はマルクのことを思い出す。

 彼の呪いは治せなかった。彼はダリアに会いに行って姿を消した。

 きっとその後は――


 私は服の袖をぎゅっと握りしめる。


「彼はそれを財産と命を対価にして、売ってもらったと言っていたわ。そして彼には呪いがかけられた。命をとられる呪いをかけられて……」


「……つまり、俺の発明品を使って、無断で儲け話をしてるヤツがいるってことだな」


 ドンッと、鈍い音が響いた。ファウストが壁を殴っていた。


「しかも紛い物の対価が命だ? ふざけるにも限度がある。ボッタクリすぎだろう」

「ねぇ、ファウスト。盗んだ人に覚えはないの?」

「俺はここで数十年寝てたんだぜ? この時代を生きているヤツで、知り合いなんていない。心当たりのあるヤツなんていねぇよ」


 言われてみればそのとおりだ。


「……売っている側は命を集めて、何をするつもりなのかしら」


「本物の賢者の石を作るか、不死になるか、国王になるか、ただ遊んでいるだけか。そいつの野望は知らねえけど、俺のモンに手を出したんなら、筋を通してもらわなきゃならんな……」


 ファウストはめちゃくちゃ怒っている。


「アー……んっ、姫様、また明日ここに来てくれ。それまでに用意をしておく」


「私は姫じゃないわよ?」

「いつか姫になるんだろう?」


 そう言われると、何も言葉を返せなくなる。


「わかったわ。明日の夜にまた来る。カンパネラも連れてきていいかしら?」

「カンパネラ――ああ、竜か。もちろんだ」


「言われなくても、アーさん一人で来させませんけどね」

 カンパネラは何故かファウストに対抗意識を向けていた。


「あと、それから100年程の歴史本を持ってきてくれ。あとここ最近の国についてまとめた本を」

「……がっかりしないといいわね」

 私は皮肉を込めて笑った。


 ファウストが眠りについたのは、エドアルトが国王になる、ずっと前。


 さて、私はファウストという知人を手に入れた。


「ねぇ、ファウスト、貴方は何なの? 賢者の石ってことは錬金術師? それとも医者? 科学者? それとも――魔法使い?」


「俺は自分から自分の身分を名乗ったりしたことはねぇ。だけど、周りからはいつも『魔法使い』と呼ばれるぜ」


 やはりそうか。


 コート掛けにかかっている、黒いコートに翡翠の色で刺繍されたものは、どう見ても魔術師系統の服だ。


「そうだ、お前。一応忠告しておくけど、ここは夢の世界なんかじゃない。現実と夢の狭間(はざま)だ。だからお前たちはここで過ごしているってことは――眠れてないってことだ。しっかり寝てからまた来い」


 まだ寝起きで本調子でないというファウストの言う通り、私達は一旦出直そうと思った。


「ねぇ、どうやって帰ればいいの?」

「そんなんお約束だろ。かかとを三回鳴らしたら、家に戻れる」


「わかったわ。それじゃあカンパネラ、一緒に帰りましょう。明日も来るわね、ファウスト」


「……あいあい」

 ファウストは絶妙に嫌そうな顔で言った。


 私とカンパネラは恐る恐る、かかとを三回鳴らした。

 すると、元のベッドに戻っていた。


「お嬢様、朝ですよ~」


 侍女がカーテンを開ける。


「おはよう。良い天気ね」

 そう言って私は起き上がる。


「はい、洗濯物がしっかり乾きそうな天気――で……あ、えっと、す、すみませんー!!」

 侍女の子は顔を真っ赤に染めて、走り去ってしまった。


 どうしてかしら……と思ったら、人間姿のカンパネラが私の横で寝ているのを見たからだろう。

 また侍女たちの話のタネになってしまう・


 起きたときから握っていた手を離すと、そこには真紅の石があった。


「やっぱり夢じゃなかったのね」


 よかった。ここまで明確な夢かとは思わなかったけど、万が一ということもあった。

庭で引きちぎった光る草なども、ちゃんと手元に残っている。


 カンパネラはまだ眠っている。

 そういえばファウストは、あの夢と現実の狭間にいても、眠っているわけではないと言っていた。


 強い眠気が襲ってくる。

 行儀よろしくないけれど、私は机の上にメモを残して、二度寝をすることにした。


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