31.呪いの塔の魔法使いと令嬢でいたい魔女(2)
「アーさん、塔に見覚えは?」
「ないわ。私が知っている微かな情報だと、ここには一本の木が立っていたわ」
そこに黄金色に光る果実が生っていた。
私は蛇にそそのかされて、それを食べた。
そして不完全な不老の身体を手に入れてしまった。
しかし、目の前の花畑に大きな木はない。
黄金色に光る果実もない。
代わりにあるのは瓦礫のような塔だ。蔦でぐるぐる巻きにされている。
その時、その塔のなかに、ぼんやりと灯りが見えた。
「カンパネラ、なかに人がいるかもしれないわ」
「えぇ、でもここ瓦礫ですよ」
「でも灯りが見えたの。高い位置に。飛ぶことはできる?」
「ええ。アーさんが望むなら」
カンパネラは私のワガママに付き合ってくれた。
そして、人の姿のまま、竜の羽だけを出して空を飛んだ。
塔の中にはベッドがあった。
私はベッドのある部屋に飛び込んだ。
不思議だ。長い間、物を使われた形跡がないのに、塵や埃にまみれていない。
ベッドは天蓋付き。白いベールで埃や日差しが入らないようにされている。
そこには、男性がいた。
一瞬、綺麗な女性かと疑う程、美しい人だった。
見た目年齢はカンパネラと同じくらいの18歳~20歳くらいだろうか。
漆黒の黒い髪は腰元まで伸びている。
この呪いの森で眠っているということは、ここから出られなくなった人か、ここの住人だろう。
もしも後者なら――私の呪いが解けるきっかけになるかもしれない。
私はその男の上に馬乗りになり、右頬をビンタした。
「ひぇぇえ……アーさん流石……容赦ない」
カンパネラが震えている。
ビンタ一発で、男は目覚めなかった。だから、私は反対の頬を殴った。
「うっっ……うぅ……」
そうすると、男はゆっくりと目を開けた。
よかった。死んだわけじゃないのね。
「おはようございます。ミスター。貴方に伺いたいことがあってここまでやってきました」
「……は?」
男は呆然とした表情で私を見つめている。
そしてカンパネラのことも。
そりゃそうか。寝起きざまにビンタされて、知らない人間に馬乗りにされていたら戸惑う。私だって戸惑う。
「少し待ってくれ。目が覚めたばかりで頭が働かない」
「わかりました。それでは半刻ほどお待ちします」
私はそう言って、塔から外に出た。
塔の周りには光る花が沢山咲いていた。この花はこの森以外で見たことがない。何かの薬草に使えるかもしれない。
そう思って、私はコートの下にそれを入れた。
けれど、この風景が『本当の夢』なら持ち帰ることはできないだろう。
花びらも、茎も、根もちぎり取る。
カンパネラも手伝ってくれた。あっという間に半刻が過ぎた。
そろそろ良いだろう。
私はカンパネラに抱っこされて、塔に登る。
先程の男性が眠っていた部屋に戻ると、彼はロングコートを羽織っていた。
艶のある長い髪を耳の下で、一纏めにしている。
目の色は血のように真っ赤だ。
眠っている時から思っていたけれど、とても美しい人だと思った。
「……人の寝ている間を邪魔するなんて、最低だな」
男性は綺麗な声でそう言った。低すぎず、高すぎず、美声とはこういうもののことを言うのか……と納得しそうになるくらい、美しい声だった。
「失礼致しました。ミスター。ですが、私は焦っているのです」
薬(賢者の石モドキ)の効果が切れてしまったら、私はもうここに辿り着くことが出来ないかもしれない。
それはとても困る。
「私はアナスタシア・ユーリヤ・シャターリアと申します。数百年前にこの森に迷い込み、金の林檎を食べたものです」
私はお辞儀をした。
「金の林檎を……あれをお前……食べたのか!?」
男性は憤慨していた。
「蛇にそそのかされ、美味しそうだったもので」
「アレは数百年に一度実る実だ。貴重な実をお前は……」
「……アレを食べてから、私は幼化と老化を繰り返す事になりました。永遠の地獄です。だから、解決法を探しているのです」
「解決なら簡単だろう。お前の解呪条件はなんだ?」
「王子と結ばれることです」
「じゃあ簡単だ。王子と結ばれればいい」
「それが単純にいけるものではないから、こうして相談しているわけです」
「その寝間着。お前は貴族だろう。王子と結婚できるじゃないか」
「でも、うまく行かないのです」
「つまりモテないと」
男がざっくりと言う。
「あーアーさんアーさん。拳解決はよくないです!」
私が拳を握っていたのを、止めてくれた。みぞおちをぶん殴ってやろうかと思っていたのに。
「私が教えてほしいことはただ一つ。
この呪いの解き方。王子と結ばれること以外で、です。ミスター」
私ははっきりそう言い放った。
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