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竜と悪役令嬢だった魔女  作者: 六花さくら
【第四章】呪いの森と、瓦礫の塔と、魔法使い
32/81

 31.呪いの塔の魔法使いと令嬢でいたい魔女(2)

「アーさん、塔に見覚えは?」

「ないわ。私が知っている微かな情報だと、ここには一本の木が立っていたわ」


 そこに黄金色に光る果実(りんご)()っていた。

 私は蛇にそそのかされて、それを食べた。

 そして不完全な不老の身体を手に入れてしまった。


 しかし、目の前の花畑に大きな木はない。

 黄金色に光る果実(りんご)もない。

 代わりにあるのは瓦礫のような塔だ。蔦でぐるぐる巻きにされている。


 その時、その塔のなかに、ぼんやりと灯りが見えた。


「カンパネラ、なかに人がいるかもしれないわ」

「えぇ、でもここ瓦礫ですよ」


「でも灯りが見えたの。高い位置に。飛ぶことはできる?」

「ええ。アーさんが望むなら」

 カンパネラは私のワガママに付き合ってくれた。

 そして、人の姿のまま、竜の羽だけを出して空を飛んだ。


 塔の中にはベッドがあった。

 私はベッドのある部屋に飛び込んだ。

 不思議だ。長い間、物を使われた形跡がないのに、塵や埃にまみれていない。


 ベッドは天蓋付き。白いベールで埃や日差しが入らないようにされている。


 そこには、男性がいた。

 

 一瞬、綺麗な女性かと疑う程、美しい人だった。

 見た目年齢はカンパネラと同じくらいの18歳~20歳くらいだろうか。 

 漆黒の黒い髪は腰元まで伸びている。


 この呪いの森で眠っているということは、ここから出られなくなった人か、ここの住人だろう。

 もしも後者なら――私の呪いが解けるきっかけになるかもしれない。


 私はその男の上に馬乗りになり、右頬をビンタした。


「ひぇぇえ……アーさん流石……容赦(ようしゃ)ない」

 カンパネラが震えている。


 ビンタ一発で、男は目覚めなかった。だから、私は反対の頬を殴った。


「うっっ……うぅ……」

 そうすると、男はゆっくりと目を開けた。


 よかった。死んだわけじゃないのね。


「おはようございます。ミスター。貴方に伺いたいことがあってここまでやってきました」

「……は?」


 男は呆然とした表情で私を見つめている。

 そしてカンパネラのことも。

 そりゃそうか。寝起きざまにビンタされて、知らない人間に馬乗りにされていたら戸惑う。私だって戸惑う。


「少し待ってくれ。目が覚めたばかりで頭が働かない」

「わかりました。それでは半刻ほどお待ちします」


 私はそう言って、塔から外に出た。

 塔の周りには光る花が沢山咲いていた。この花はこの森以外で見たことがない。何かの薬草に使えるかもしれない。

 そう思って、私はコートの下にそれを入れた。

 けれど、この風景が『本当の夢』なら持ち帰ることはできないだろう。


 花びらも、茎も、根もちぎり取る。


 カンパネラも手伝ってくれた。あっという間に半刻が過ぎた。


 そろそろ良いだろう。

 私はカンパネラに抱っこされて、塔に登る。


 先程の男性が眠っていた部屋に戻ると、彼はロングコートを羽織(はお)っていた。

 艶のある長い髪を耳の下で、一纏めにしている。

 目の色は血のように真っ赤だ。

 眠っている時から思っていたけれど、とても美しい人だと思った。


「……人の寝ている間を邪魔するなんて、最低だな」


 男性は綺麗な声でそう言った。低すぎず、高すぎず、美声とはこういうもののことを言うのか……と納得しそうになるくらい、美しい声だった。


「失礼致しました。ミスター。ですが、私は焦っているのです」


 薬(賢者の石モドキ)の効果が切れてしまったら、私はもうここに辿り着くことが出来ないかもしれない。


 それはとても困る。


「私はアナスタシア・ユーリヤ・シャターリアと申します。数百年前にこの森に迷い込み、金の林檎を食べたものです」


 私はお辞儀をした。


「金の林檎を……あれをお前……食べたのか!?」

 男性は憤慨していた。


「蛇にそそのかされ、美味しそうだったもので」

「アレは数百年に一度実る実だ。貴重な実をお前は……」


「……アレを食べてから、私は幼化と老化を繰り返す事になりました。永遠の地獄です。だから、解決法を探しているのです」


「解決なら簡単だろう。お前の解呪条件はなんだ?」

「王子と結ばれることです」

「じゃあ簡単だ。王子と結ばれればいい」


「それが単純にいけるものではないから、こうして相談しているわけです」


「その寝間着。お前は貴族だろう。王子と結婚できるじゃないか」

「でも、うまく行かないのです」


「つまりモテないと」


 男がざっくりと言う。


「あーアーさんアーさん。拳解決はよくないです!」


 私が拳を握っていたのを、止めてくれた。みぞおちをぶん殴ってやろうかと思っていたのに。


「私が教えてほしいことはただ一つ。

 この呪いの解き方。王子と結ばれること以外で、です。ミスター」


 私ははっきりそう言い放った。


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