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竜と悪役令嬢だった魔女  作者: 六花さくら
【第三章】竜を想いし永遠に
30/81

 29.竜を想いし永遠に(10) マルク視点

 その日――俺は彼女と待ち合わせをした。

 劇団の稽古は(しばら)く無い。

 だから今日は空いているだろう。俺はダリアに思いきって声をかけた。


「マルクから誘われるなんて思わなかったぞ! アフタヌーンティーといきたいところだけど、昼酒といこうか。昔みたいに」


 そう言って、ダリアは笑みを浮かべた。


 あぁ、本当に彼女は変わらない。

 容姿が変わったとしても、彼女の本質は揺らがない。


「いいなぁ、昼酒。是非とも行こうじゃないか」


 俺はそう言って、彼女と馴染みの酒場に顔を出した。

 そしてたくさんのことを語り合った。


 あの劇団員がうまくておいつきたいとか、あいつは下手だとか、くだらない話をずっとずっと話した。


 元々酒に強くないのに、ガバガバ飲んで、彼女はジョッキを空にする。

 彼女の目指す男らしさに、ジョッキを飲み干す男というのもあるのかもしれない。


「なぁ、マルク。昔は楽しかったよなぁ。飲んで飲んで飲みまくって、店から追い出されて、路上で酒飲んで、万歳万歳言ってさ、ほんとアホみたいだけど、楽しかった」


「いまでもできるだろう?」


「今のボクがしたら、花形から降ろされてしまう」

「そりゃそうだな、はは、そうだ」


 俺たちはいつの間にか、何も持たない者から、色々なモノをもつ者になってしまった。それが肩書だったり、知名度だったり、金だったり。

 何もないときは笑い合えたけど、もうそんなことはできやしない。


 あの時、彼女が言っていたことは真実だった。


――女になんてなりたくないんだよ。君と馬鹿騒ぎをしたい。

――ずっとずっと、永遠に――あぁ、時が止まればいいのに。


 俺もずっとずっとそう思っていたよ。ダリヤ。


「昔、マルクに言ったことあるんだけどさ、ボクはマルクの一緒の親友になりたいんだ」


「言ってたな」


「それを魔女殿に言ったんだよ。そしたら『恋』じゃない?って言われてさ、慌てて否定したんだよ」


 酒を飲んでいるからか、彼女は非常に多弁だった。

 すらすらと話を続ける。


「なぁ、マルクはボクらのことはどう思う? 友情だと思う? 恋とかそういうふんわりしたものだと思う?」


「俺は、友情であればいいと思う。永遠に君と仲良くしたいからな。欲にまみれた感情に穢されたくない」


「そう! そうなんだよ! さすがマルク! わかってるなぁ!」

 どんどんっと、強い力で背中を押される。


「愛には欲がついてくる。でも友情にはついてこない。だからボクは君と永遠の友人でいたいんだ」

「そうだな……永遠の――」


 あぁ……なんて俺は愚かなことをしてしまったのだろう。


 何もしなければ、こうして彼女とずっと酒を飲めたのかもしれない。


 彼女の願いは叶えられないけれど、飲み友達として、親友としてずっとつるんでいられた

かもしれない。


 俺は結局、命の無駄遣いをしただけだった。


「よーし! マルクと一対一で喋るのは久し振りだからね。追い出されるまでは行かなくても、閉店まで酒を飲んで話をしまくろうじゃないか!」


 かっかっかと笑うダリア、彼女は変わらない、昔から。


 そして何時間かが過ぎ、外がぼんやりと明るくなってきた頃、彼女はほぼ潰れてしまっていた。


「マルク、なぁ、マルク。そこにいる?」


「ああ、いるよ」


「ボクは、散々時を止めたいと言ってきたけど、最近ちょっと、気持ちが変わりつつあるんだ。なんていえばいいんだろうなぁ。根幹は変わりたくない――なんだけど、変わっていって、たくさんの人と交流をもつのもいいなぁと思うんだ」


 机に突っ伏したダリアは話を続ける。


「スポットライトの光、音楽、薄っすらと見える観客の歓声に拍手。そして幕がおりたあとのカーテンコールでみんなが幸せに笑っているのをみると、ボクはもうなにもかもどうでもよくなるんだよ。この瞬間も、あの瞬間も、たくさんの瞬間を切り取りたいって。……なぁ、マルク。思い出ってこうやってつくっていくのかなぁ」


 俺は彼女の言葉を聞いて、そうか……と自分で納得した。

 彼女は前を見ている。

 いやだいやだと駄々をこねる子どもを卒業して、新しい未来を見つめている。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「……でも、やっぱりマルクと一緒が一番安心する……また、飲もうな」


 ダリアはそう言って、すぅすぅと眠りについた。


 俺は彼女を背負って、家まで送った。

 ボロボロと流れた涙のせいで、服はぐっしょりと濡れていたけれど、彼女に見られなくてよかった。


――今夜、俺の命は終わる。もう後悔はない。

 どうか、真実は彼女に知られないでほしい。

 猫のように何処かに消えてしまったと思ってほしい。


 あぁ、どうか。彼女が一瞬をたくさん残して、悔いのない人生を送れるように。

 心から応援しよう。

 万歳。万歳。

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