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竜と悪役令嬢だった魔女  作者: 六花さくら
【第三章】竜を想いし永遠に
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 25.竜を想いし永遠に(6)

「……確かに。医学的に見ても、宗教的に見ても、一般的に見ても、死ねば時は止まるわ。でも彼らの願いはそうじゃないってことは、坊でもわかるでしょう?」


「坊はやめてね。でも嬢さんみたいな奇妙な身体を持っていなかったら――不老で生きることなんてできやしねぇ」


 ホーエンハイムの言っていることは、まさにそのとおりであった。


 この世界には、時を止める方法はない。

 そんな薬も技術もない。

 別世界にでも行けば時を止められるかもしれない。

 遠い未来に行けば、そんな技術が作られているかもしれない。


 でも、彼らは()それを求めているのだ。


「一応、患者には点滴は打ってるけど……正直どう治せばいいかわかんねぇ」


「ありがとう。いくつか考えたのだけど、私の見立てを言ってもいいかしら」


「あいあい。付き合いますぜ。嬢さんは紅茶でいいですか? カンパネラは水だよな?」

「ええ。お前の珈琲は濃くてまずいもの」


 珈琲は抽出方法で好みが変わる。医者という仕事は徹夜をすることが多い。


 往診に行ったり、受診をしたり、薬を配合したり、新薬を研究したり――ホーエンハイムの飲む珈琲は眠気を吹き飛ばすために濃く抽出しているから、いつも泥のように真っ黒だった。


 私は出された紅茶にミルクを入れて、そこにちょっとだけブランデーを入れて飲んだ。


「12歳の見た目で酒飲むなよ」

「いいじゃない。別に。こっちのほうが美味しいんだから」


 私は紅茶で口を潤して、無地の羊皮紙を机の上に並べた。


「……私はこれを病というよりも呪いだと思うわ」

「呪いぃ? ……そんな古典的な……って、目の前に呪いのかかってる嬢さんがいたな」


「坊はまだ若いから知らないかもしれないけれど、呪いと医学は密接しているのよ。昔は医者が魔法使いと呼ばれていたし、薬師を『魔女』と呼ぶ人だっていたわ」


「それくらいは知ってるけど……でも、なんで今さら呪いなんだ?」

why(なんで)は、あとで考えましょう。問題なのは、数百年前の呪いが今も残っているってことね」

「つまり、嬢さんみたいな人が、実は数人いるかもとか」

「……そうだとしたら、哀れに思うわ」

「すんげぇ氷みたいな瞳で見ているなぁ」


「坊、お前にはわからないでしょうね。永遠を生きる地獄が」

「わかりたくもねぇっすわ」

「なら……それでいいと思うわ。知ってはいけない境界というものはあるもの」


 永遠を生きる地獄。

 その呪い。

 友人や家族が死ぬのを何度も見た。

 一緒に齢を老えなかったことを何度も悔やんだ。


 あんな地獄をホーエンハイムにも他の人にも、体験してほしくない。


「……んー。これは事情聴取のほうが早そうだな。一応自白剤も作っておくか」

「お願い。話すのは私が担当するわ」


「アーさん、俺は何をすればいいですか?」


 カンパネラはきらきらとした瞳で私を見てくる。


「お前は、そうね。私の後ろに座っていて。もしかしたら話が(こじ)れて、力ずくで――なんてことになるかもしれないから」

「は、はい!」

 カンパネラは意気込んだ。

 護衛にするなら、彼ほど心強い者はいない。


 そして数時間後――


 いつの間にか夜になっていた。

 マルクの目がうっすらと開く。


「……――!」


 見慣れない天井で驚いたのだろう。マルクが身体を無理やり起こそうとする。

 そこをカンパネラが押さえつける。


「落ち着いて。大丈夫。私よ。アナスタシアよ。貴方が勝手に『魔女』と呼んでいる存在よ」

「……ま、魔女殿……」

 マルクは私の姿を見て、ほっと息をついた。


「いま、どのくらいの時間が経ちましたか?」

「4、5時間くらいかしら。もう夜も近づいています……」

「――っ!」


 マルクは突然飛び起きようとした。カンパネラが押さえつける。


「どうしたの? いきなり」

「もう夜だ。彼女は薬を飲んでしまう。飲んでしまったかもしれない。あぁ、どうしよう……もしも彼女に何かがあったら」

 

 マルクは頭を抱える。

「患者が目覚めたってことは医者の問診の時間だ。ほいほい、部外者は出ていってくれ」


 私とカンパネラは首根っこを掴まれて、部屋から出されてしまった。


「ま、魔女殿、お願いです……! ダリアの様子を、ダリアの様子だけ見に行ってください! ち、地図は、いま速攻で書きますので」


「こんな夜中に……しかも幼女に恐ろしいことを頼むなぁ」

 ホーエンハイムがぼそっと呟く。でもマルクはそんな言葉、気にもしていなかった。

 どうしてもダリアが気になるのだろう。


 私はマルクから、ダリアの家の地図をもらった。

 ここからそう遠くない。


「アーさん。今日はいろいろ考えて疲れたでしょう。俺が抱っこしていきますよ」

 そう言って、カンパネラは私をお姫様抱っこした。


 …………。


 ……。


 夜間に少女をお姫様抱っこして歩く青年。

――通報される!


「いいわ。カンパネラは、私と離れないように手をつないで」

「えぇ。でも……」


 どうやらお姫様抱っこがしたかったようだ。

 私はそれよりカンパネラが捕まってロスタイムが生じるほうが怖い。


「じゃあ、私はダリアの元に行ってくるわ。もしも彼女に何かあったら、ここに連れてくるから、ベッドを一つ開けておいてね、坊」

「だから坊はやめろって……」


 私とカンパネラは手をつないで、地図に載っているダリアの家へ向かった。


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