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竜と悪役令嬢だった魔女  作者: 六花さくら
【第三章】竜を想いし永遠に
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 23.竜を想いし永遠に(4) マルク視点

マルク視点です。

「きみは一瞬を永遠にしたいのかい?」

 ペスト仮面を付着けた男が、言った。


 そうです、と私は祈った。


「その対価に君は何を差し出す?」

 仮面の男が嘲笑う。


「この命を、私の持つ私財を全て」


 彼女の病が治るのなら、私はこの命くらい捧げてみせる。

 こうして話をしている間にも、彼女は少しずつ死へ向かっていっている。


 私はそれを止めたい。

 この命をかけても構わない。

 私の命も記憶も、全部捧げてやる。


 彼女のために。

 彼女の願いのために。




 彼女に出会ったのは二年前。

 髪を短髪に揃えていたので、最初は男の子だと思っていた。


 彼女は本当の性も年齢も明かしてくれなかった。


 そして彼女の近くに保護者はいなかった。彼女は夕暮れになると教会に帰っていく孤児だったのだ。


 彼女の知識や仕草、すべてが大人と近く……私はいつしか彼女の姿を目で追っていた。


 ある日、彼女は劇団に入った。


「劇で花形になれば、たくさんの人を魅了することができるだろう」

 そう言って笑う彼女は、太陽よりも眩しく輝かしい存在になっていた。私も追うように劇団に入った。

 彼女は演技力で、私は見た目でのし上がり、最初の舞台の千秋楽が終わった。


「酒だ、酒をもっと!」

 彼女はまだ若いのに、酒を浴びるように飲んだ。


「ほら、マルクももっと酒を飲もう! 今日はいい日だ! このまま死んでも構わない! それくらいボクは幸福を感じているんだ!」


 彼女はにかっと笑い、私のジョッキにエールをどばどばと注いだ。

 注ぎ方が下手で泡だらけになったエールを、私は一気飲みする。


「万歳! 万歳! この舞台に、今日という日を大親友のマルクと迎えられたことを!」

 彼女は完全に酔ってしまっていた。けれど潰れなかった。意外と酒に強かった。


 そして1時間後、閉店時間になった店に、私達は追い出された。

 私たちに怖いものはなかった。

 誰もいない路上で、朝が来るまで飲み明かした。


「ビバ! ビバ! って、どこの言葉だったっけ。 万歳って意味だったよなぁ。はぁ、マルク、ほら、もっと飲んで」


 彼女は笑いながら、空になったジョッキにエールを注いでくる。


 こうして何度も何度も乾杯をして、私達は本物の親友になった。


「やぁ、マルク。よぉ、マルク。なんだ? ぐにゃっと歪んでるじゃないか」

「だいぶ飲んだからね、ほら、この指は何本に見えるかい?」


 私は二本指を立てて、彼女の前に差し出す。


「17本かな!」

 かっかっかっと笑いながら、彼女は答えた。


「相当酔っているね」


「いやぁ、あはは、マルク、ボクは怖くて仕方がないよ。こうやってボクらは今、酒を交わして交流を深めているのに、世の中には男女の友情は無いというじゃないか。ボクは君とずっと友人でいたい。でも、君が妻を持ったら、きっと嫉妬に狂うだろう。いいなぁ、マルクは」


「酔ってるのかい?」


「そうさ。ボクは酔ってるんだ!」


 彼女は空を仰いで笑う。


「男女の友情は永遠にならない。

 でも決して君と恋仲になりたいわけじゃない。

 一生の親友でありたいんだ。君と二人で、ずっとこうやって馬鹿騒ぎをしたい。

 でも、ボクらはどんどん大人になっていって、そんなことができなくなってしまう。

 大人という義務が課せられてしまう。ボクはそれが悲しくてたまらないんだ」


 彼女は笑いながら大粒の涙を流した。


「ボクが男なら、こんな感情を持たなくてよかったのかもしれない。

 ボクは君に何をしてほしいんだろう。君に幸せになってほしいと思うんだ。

 でもボクは女になりたくない。大人になんてなりたくない。

 少しずつ胸が大きくなって、くびれができて、ボクの身体は女になっていく。

 いくら筋肉をつけても、男の身体にはなれない」


「君は――男になりたいのかい? それとも私の親友でいるために男になりたいのかい?」


「どっちもだ。ボクは永遠の存在になりたい。

 女になんてなりたくないんだよ。君と馬鹿騒ぎをしたい。

 ずっとずっと、永遠に――あぁ、時が止まればいいのに」


 いつしか彼女は笑うのをやめて、大粒の涙を流して、年相応の子供のようにわんわんと泣いた。

 友人として一緒にいたい――それなら死ぬまで一緒にいると誓う。伴侶も作らないように誓う。

――でも、彼女が求めているのはそんなものじゃない。

 男同士の永遠の友情を。

 いまこの瞬間を――永遠に続かせることを。


 生きることは病だ。

 身体を変化させ、老い、死んでいく。


 もう彼女に時間はない。

 彼女の男装にはすでに違和感が出始めていた。


 前は男として通していたが、今は男形として話を通している。

 そのパンフレットを観るたびに、彼女は悲しそうに笑う。


 そんな笑顔を見たくなかった。


 だから、私は彼女の時を止めるために、悪魔と契約をする。


「……どうか、時を止める魔法を――」


 私はペスト仮面の男に頼る。

 男はくすくすと笑った。


「魔法なんてないさ。この世界には。あるのは現実だ」

 ペスト仮面の男は、私をあざ笑っていた。


「この薬を飲ませればいい。そうだな。酒と一緒に飲ませたらもっと効くだろう。たくさん飲ませるんだ。例えば対象の飲むもの全てに混ぜても良い。そうしたら、その者の時は永遠に止まるだろう」


 そうして、私は悪魔と契約をした。


――時よ止まれ。君は美しい。


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