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目が覚めた時、ボクは白い天井を見上げていた。
今度も闘いの途中でボクは記憶を失ってしまった。 毎回のように山崎は「主任は自分で医務室に来て、ベットで寝ていますよ」と言う。まあ、嘘ではないのだろうが、覚えが無いから現実味も無い。
左腕に刺さった点滴の針を抜いて、身体を起こした。いつも通り。全身が怠い。痛みや吐き気は無い。昨夜のことを思い出そうとする。良いところまでいったのは覚えているが、その先からは記憶がボヤけてしまう。
「まったく。そんなに戦闘狂だったか、ボクは」
伸びをしてベットから降り立ち、医務室を出る。パソコンを前に何やら作業中の医務員は、ベットから脱け出たボクを横目にしても特に何も言わなかった。
扉を開けて部屋の外に出ると、丁度ストレッチャーを押しながら通路を行く疲れた顔の助手の姿が見えたので声を掛けた。
「ああ、主任。気が付きましたか」
「今さっきね。何を運んでるの?」
「これですか。先ほど主任が倒した月生物の一部を生体サンプルとして回収した物です」
「ワニのサンプルだったら、前に回収したのがあるだろ」
「まあそうなんですが、フィディック博士が是非とも診てみたいと言うので」
「今回も生捕りに出来なかったな」
「まあ、簡単には行きませんよ」
「前から言ってるけど、戦闘員の増援てさ、頼んでくれてるの?」
「してますよ。適応者がいないってのが本部からの毎回の返答でして」
「ふーん。そんなに難しいもんかね」
山崎は苦笑を浮かべた。
「他の施設はどうなってんの」
「ウチと似たり寄ったりですよ」
「戦闘員は一人じゃなきゃ駄目って訳でもないだろうに」
ボクがそう愚痴ると山崎はまた苦笑を浮かべた。
山崎って起きてるときは眠そうにしてるか苦笑いしてるかどっちかだな。
「まあいいや。一仕事終ったんだし、所長の奢りで焼き肉食べに行こうぜ」
「良いですね。でも、主任は今日一日は調整室ですよ」
「それ、毎回やんなきゃ駄目なの」
「駄目です。規則ですし。月生物から変な菌もらってたらヤバイでしょ」
「今までそんなことなかったじゃん。……まあ、しょうがないか。じゃあ焼き肉は明日だな」
「ええ。では明日」
ボクはストレッチャーを押して行く山崎の背に向かってヒラヒラと手を振った。