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≪システム起動。認証データ……アクセス……響薫、適合率99,96%……入室を許可します≫
「この認証システム、何とかなんないの。本人だってのに、いつも100%にならないんだよね」
「まあ、寝不足で顔がむくんでたりしてもそうなりますから」
「近い内に絶対直してやるんだ。何かあってからじゃ遅いしね」
「何かって?」
「太ったりしたらさ」
「あー。主任、お菓子ばっか食べてますもんね」
次の言葉をいう前にボクは一言多い助手の口を右の拳でゴツンと塞いだ。山崎が顎を押えて悶えている内に部屋の扉が開く。
ボク達が中に入ると、セーフモードだった各機種が一斉に起動した。山崎がぶつぶつと不満を洩らしているのを無視してボクは持ち場へと移動する。
部屋の中央には、ひと一人が通れるだけの穴が開いてあるガラス張りの円型の【コネクトブース】がある。
この穴を潜るのは何度目になるだろうか。中にはゼリー状の物質が円型の部屋一杯に充たされていて、中に入ると、それが身体中に肌を伝って纏わりついてくる。
コンソールへと手を差し入れる。
コントロールパネルを呼び出しながら、山崎が何かまだ不満気に呟いているのが口の動きで見て取れた。幾ら文句を言っても、言われた通りに手を動かしてくれるなら問題は無い。
ボクの身体中の穴という穴からゼリーが侵入して来た。呼吸が止まり、こめかみに強い圧迫と痛みを感じる。それでも息苦しいのは束の間。直ぐに呼吸も楽になり、神経が冴え渡る。
≪ウェルカム・バック・キャプテン≫
脳に直接響くかの様な機械的な言葉。
“行くよ”
ボクは誰に向かってともなく、そう応えた。
制御室の真上から赤黒く明滅した管が二重の螺旋を描いて伸びる。
やがてその先から紫色の連なった粒状の物が中空へと流れ出し、建物がすっぽりと収まる程の大きさに拡がると、徐々に中央へと集束して厚みをもって行く。
それは見る間に、淡く光る巨大な紫猿となった。