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「あ」
リベットが何かに驚いて声を上げた。
酒のお代わりを注ごうとボトルに手を伸ばした白州が気付いて声を掛ける。
「どうした」
「今、そこの壁際に一瞬」
「ああ……観測者か?」
「私もたまに見掛けますが、新月の夜は珍しいですね」
山崎がほろ酔いな体で言った。
「偶々だろう。もともとそこら辺に沢山いるんだからな」
白州は興味を失くしてボトルを空ける作業を再開した。
「最近の研究では月生物の可視性は太陽光の月面反射による可視光の関係だと言われている。月光、それも満月時がエネルギーの波長が高く、観測者たちの波長に合うのだろうとね」
「その最たるものが“侵略者”や“航海士”ですか」
「あれは満月にしか姿を現さないからな」
「侵略者が死んだ後に可視化したままの状態に成るのは?」
「まだ仮定の話ですが、分子レベルで性質が変化するんじゃないかと」
世界を構成する十七の素粒子。しかし、それは我々人類が認識している範囲でしかない。我々人類が暗黒粒子と名付けたモノの中には月生物たちを構成する何かが在るのだろう。
「酒が足らんな」
白州が自身が持ってきたウィスキーをハイペースで空け、リベットが飲んでいたワインのボトルに手を伸ばした。
※
この不毛な会を始めてからだいぶ呑んだかも知れない。ボクの周りをチカチカと、ビュンビュンと電子たちが不規則に飛び回っていた。ボクはグラスの酒を喉に流し込む。液体は記憶と記録をまるで光の早さで、からだの中にある何処か遠くへと押し流していった。
「……つ、まりだなぁ、ヒトを、こ、構成する半、分の要素が、ウイルスなんだ。お、お多くの、微生物の、集まりでもある。野生動物、は、殆どが、絶滅しちゃったけど、さ、幸いにも、微生物は無事、だからなあ。研究たい、たいしょうには事欠かな……い」
「そういえば月生物の迎撃システムは主任が手掛けたのでしたっけ」
金髪の生物がくふり、と唄う。
「ベ、基本は、所長と山崎だよォ。ボ、ボクがやったのは、」
世界がぐにゃり。
ボクの、粒子の波が、床が、迫ってきてーープツリと意識が途切れた。




