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所長とボクはテーブル越しに奪う合うようにウィスキーのボトルを自分のグラスへと傾けた。
なかなか口当たりの良い酒だ。所長に飲ませるのは勿体無い。しかし、まあ、普段酒などめったに飲まないから、少し酔ったかも知れないが。まあ、こうして気楽に過ごせるのも新月の時だけだしな。
同じようにワイングラスに口を付けながら皆と雑談を交わしていたリベットが、再度のアラームで思い出したように自動調理機から料理を取り出しにへと席を立った。リベットがそれをテーブルまで持って来ると、山崎が手を伸ばして甲斐甲斐しく受け取る。
これまでそんな気を使う山崎の姿を見たことがあったか?
ーーいや、断じて無い。明らかにグレン兄弟がウチの研究所に来てからだ。
ボクは山崎にゴミムシ視線を送りつつ声を掛けた。
「……まさか君たち、ゲイじゃないよな?」
「え?」リベットが驚く。「何言ってんですか」山崎が眉根を寄せてボクを睨み付けた。図星か。
「ダメだぞ。人類は今、絶滅の危機に瀕しているんだからな。非生産的性嗜好は種を滅ぼすぞ」
「人を性的少数者みたいに言わないで下さい!」
「あーーっ山崎。お前、今の言葉を人権派どもが聞いたら口から泡吹いて騒ぎ出すぞ」
「それはお互い様じゃないですかっ」
くっくっくとリベットが笑った。
「お二人は仲が良いんですね」
ボクは山崎と顔を見合わせた。
「何でそうなる。言語学者ってのは言葉が分からないのか?」
「空気を読むのは下手かも知れませんね。でも言語化学にコミュニケーション能力は必要ありませんから」
「空気を読めなきゃ言葉解らないんじゃないの?」
「それは言語化学ではなく、語学ですね。全くの別物ですよ」
「ふーん。そうなのか。にしても随分と畑違いな専門家が研究所に来たもんだな」
「スコットランドの研究所本部では僕たちみたいな分野の研究に力を入れてるんです。異界生物との共存が出来ないか、とかね」
共存といっても度合いによる。一方的に捕食されるだけじゃ共存とは言えない。




