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「単なる交流会ですよ。そういうのは日本では珍しかったりするんですか?」
リベットは椅子から立ち上がり、ピアノの上に置いた瓶の中の酵母の様子を見ながら答えた。瓶の中の液体からは小さな泡がプツプツと弾けている。
「そんなこともないけど。ボクらは市民でもないし、そんなに暢気なことする立場でもないしな。それより交流会って言うなら、他の面子も呼んだんだろ。まだ来ないのか?」
ボクはこのやり取りに厭きて訊いた。
さっきから小一時間? いや数十分か? 好きでもない男のピアノを聴いているんだ。あくびを噛み殺すのが苦痛極まりない。ようやく演奏が終わったところで、ツマミも酒も皆が揃ってからなんて言われてしまっては手持ち無沙汰も甚だしいと云うものだ。
「勿論です。所長はそろそろ来ると思いますよ。山崎さんにはお使いを頼んでしまったので少し遅れるかも知れませんね」
リベットがピアノから離れボクの座るソファーへとやって来た。少し離れて座り、ピアノの譜面台から持ってきたグラフをテーブルに置く。
ボクより頭一つ分は大きい体は、細いが華奢という程でもない。長い脚を優雅に組んで足先でリズムをとっている。貧乏揺すりもキザったらしい。
「ところで響主任は平時は何を研究されているんですか」
テーブルに置いたグラフに眼を落としながらリベットが訊いた。
「主に寄生虫とか微生物だな」
「遺伝子操作なんかも?」
「少しは。ま、そういうのは山崎が得意なんだけどね」
そういやコイツにはまだスプートニクに会わせてなかったな。
専門分野が違うから、これからも地下ブースに来ることもないだろうし。
ま、興味があるようなら、そのうち山崎にでも案内させるか。
リベットが口を開き掛けたとき、玄関のブザーが鳴った。「失礼」と言って席を立ち、出迎えに行く。
玄関先で二言三言、言葉を交わした後、恰幅の良い初老の男が両手に酒を持って現れた。
「おう、響。待たせたな」
白州はそう言ってキッチンカウンターに手土産の酒を置くと、空のグラスに持ってきた酒を注いでソファーのクッションへと身体を沈めた。




