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雲の隙間から薄ぼんやりと下弦の月が覗いている。
日を追う毎に境界線がはっきりとしてくるのを感じた。夜空に朱い血が流れるように。夜行蟲。巨大な顎で月を貪り喰う。
「いつ見てもおぞましい」
自室の窓から夜空を眺め、しばらくしてカーテンを引いた。眼鏡を持ち上げて目頭を揉む。窓から離れ、ベッドに腰を掛けた。
フィディックは考古学が専門だが、最近は専ら【異界】がメインだ。それまで謎とされてきた超古代文明が、この数十年で【異界】との繋がりを示していると考えられるようになったからだ。月生物が現れるようになった昨今、それが定説となってきている。
古代人たちがどの様にして【異界】と関わってきたのかは良く解っていない。
そもそも私たちが普段から見掛ける、あのおぞましく、知性の欠片も無いような月生物に古代人たちは何を見、何を求めたのか。
幾度となく夢想した。しかし、現実に照らし合わせてしまえば、その想像は何時も明るいものに成らない。
ふと、部屋のドアを叩く音にフィディックは意識を引き戻された。
「良かった。まだ寝てなかったみたいだね」
リベットは部屋に入るとソファーに腰を下ろした。
「どうしたんだ、こんな時間に」
そう言ってフィディックも向かいの椅子に座る。
「今日は顔を合わせなかったから、報告だけしとこうかと思って」
「別に明日でも良いだろうに」
「そうだけど。でも早く知りたいんじゃないかと思ってね」
「何だ?」
「今日、僕はミスター白州の所にいたんだけど、そこで幾つかの発見をしたんだよ」
「それで」
「奇妙な一致って感じのね。今日の響主任と月生物との戦い、君も見てただろ」
「ああ」
「その月生物が言葉を発していたんだ」
「何だって?」
「過去の映像も検証してみてね、間違いないと思う」
「……やつらにも知性が有るということか」
「今のところ同一の音声しか分かってないんだけど、もっと多くのパターンを録ってコンピュータに掛ければ、会話も出来るかも知れないな」
リベットはそう言って嗤った。




