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空が凪いでいる。どんよりと黄色く。
風が在る日は黄色い粒子がさざ波のように、ときおり青空がその波の隙間から覗くのだが。今日は何時もより胞子量が多いようだ。
研究所から市街地までリニアバイクで三十分。中心街まで更に数十分。
今日は山崎チョイスの店。どうせ所長の奢りだし、タダで食えるなら何だろうが文句はない。
満月の夜が過ぎた翌日からは徐々に晴れ間が覗くのを知ってか、平日の昼間なのに高級料理店にも関わらず一般客がそこそこいた。
「悪くないね、この肉」
山崎の頼んだものに遅れてようやく来たステーキにボクは噛りついて言った。 ワザワザ言うほどに、まったく悪くはない。
「そりゃ、高級店ですから一応。値段相応の材料使ってますよ」
山崎は自分が頼んだ串揚げを頬張りながら答えた。
「そりゃなんだい」
「これですか? チーズハトッグですよ。いま若者の間で人気なんです」
何でも変異牛の乳で作った発酵製品に衣をつけて油で揚げたものらしい。
「どこら辺が人気なんだ?」
「鳩のエキスが入ってるって話です。まあ、眉唾でしょうがね」
「ふふん」
「最近は何でもかんでも鳩、鳩、鳩です。こないだの件以来」
ロシアからのニュースが世間を騒がせていた。卵が堕ちて、鳩が孵ったのだ。それも大量に。
「そういや、世紀末教の奴らも騒いでたな」
「地上生物が絶えてから、二世紀以上経ってますからね。神の奇跡だとかでお祭り騒ぎですよ」
「アレの本当の姿を知らないで暢気なもんだよ」
「そうかも知れませんね……ですが、普通の人間は何かにすがらないと生きていけないものですから」
「ふーん。そんなもんかね」
「それより、どうです、その肉」
「ん? さっきも言ったけど美味いよ」
何だ。何が言いたい。
……あ。
「もしかしてコレ、お前が創ったやつか」
「ええ」
出来の悪い生徒がようやく答えに辿り着いたというように、ニヤリと嗤う山崎。
「牛と豚のDNAを掛けて大豆を元に培養しました。納得いくものが出来るまで苦労しましたが、こうしてお店も繁盛してる様ですし、主任にも満足して頂けてるようで努力が報われたようですね」
「……まあ、この店のソースが美味いってこともあるしな」
「ええ。上手く肉の旨味を引き立ててます」
こいつ。
ムカついたので残りのステーキを一気に頬張った。むせ返りそうなのを無理やり水で流し込む。
味への感想はもう言うまい。




