7.傍にいてほしい
自死が突破口ではないと知りホッとして。
同時にわからなくもなる。
ならばどうやって、このループを抜け出せばいいのか。
そもそもループとは何なのか。
私は膨れ上がった疑問を、先生に吐き出す。
「先生……ループって何なんですか」
「わからない。さっきも言った通り、私が調べた限りでは原因にたどり着けなかった。ただわかっているのは、ループには条件があること。そしてこれは、私たち自身の力ではないということ」
私たちの力じゃない……?
「先生、それは」
「うん。私も最初は、自身に新たなスキルが発現したのかと思った。しかしそんなものはなかった。次に考えたのは魔術だが……これも外れだ。少なくとも現時点では、私たちには何も変化がない」
「じゃあつまり……私たち以外の誰かが、ループの力を施している?」
私の憶測に先生が頷く。
「誰が何の意図をもって、そんなことをするのかは知らないけどね。あとは、世界そのもの影響を受けている可能性もある」
「世界から?」
「うん。でもこの可能性は低いかな。世界にしろ神にしろ、一個人に嫌がらせみたいな小細工をする理由がない。私以外の誰かのループに巻き込まれていて、それを近くでいるだけという考えもあったけど、君と会ってその可能性もなくなった。今のところ最有力は……」
「誰かが私たちにループをしかけている」
「そういうことになるね」
先生と私で考えを募りまとめていく。
誰かが私たちを、ループの中に閉じ込めているとして、一体誰がそんなことを出来るのだろうか。
そんなことをする理由は?
逆に疑問のほうが多くなっているような気がして落ち着かない。
「誰がそんなこと……」
「さてね。少なくとも、ただの人間にはできない芸当だ。魔術師なら、私と同等かそれ以上の使い手だろうね」
「先生より……そういえば先生は、元宮廷付きだったんですよね?」
私は不意に思いついた疑問を口にしていた。
「ん? そうだけど」
「どうしてやめちゃったんですか? 研究とか調べ物をするなら、王宮のほうが便利ではありませんでしたか?」
「便利だったよ。でも残念ながら、もうあそこで調べることは残っていないんだ。それに、あそこは人が多すぎる。誰かが敵かもしれない……そう思ったら、他人の輪の中で生活することが怖くなったんだ」
そう言って先生は悲しそうに目を伏せる。
誰が敵かわからない。
一緒にいても不安しかない。
その気持ちはよくわかる。
私も……屋敷では同じだったから。
一度は誰かに殺されて、次に目覚めたら目の前にいたりする。
叫ぶことも、嘆くこともできない状況で、普段通りに過ごす。
今から思うと、私はよく耐えていた。
「さて、話のまとめはこのくらいでいいかな」
「はい」
「話を聞いてくれてありがとう。お陰で少し、スッキリしたよ」
「私もです。今まで誰も……信じもらえませんでしたから」
信じてくれたと思っても、最後には裏切られていた。
そうして私は次第に、信じることを諦めていたんだ。
心の底から他人を信じるなんて、もう出来ないと思うほどに。
「先生。私……先生に出会えてよかったです」
「私のほうこそだ。君を見つけて、こうして話すことが出来て、とても幸せだよ」
幸せなんて言葉を、誰かに言ってもらえるなんて夢みたいだ。
それに私自身も、幸せを感じられている。
このループは……ううん、今回の人生は違うのかもしれない。
先生に出会えて、何かが変わったのかも。
そう思える。
「それじゃ、そろそろ夕食にしよう。今日は君も疲れているだろうし、支度は私がするよ」
「あ、あの! 私にも何か出来ることはありませんか?」
「いいよ。今日くらいは私に頼りなさい」
「そ、そうじゃなくて。いえ、それもお手伝いしたいですけど」
勢い余って声をかけたから、うまく言葉が出来る前に口だけが動いていた。
あわあわと慌てる私だったけど、先生は急かすことなく待ってくれる。
言いたいことは決まっている。
少し恥ずかしいけど、ちゃんと言わなきゃと思う。
私は大きく深呼吸をして、先生に言う。
「先生のループを解くために、私がやれることはありませんか? 私も先生の役に立ちたいんです」
「なら、これからも私と一緒にいてくれるかい?」
「え? そ、それはもちろん」
「だったらそれで十分だよ」
そう言って先生は、私に背を向ける。
「何度も言うけど、私にとって周囲の人間は敵かもしれない相手ばかりだった。でも君は、君だけは違う。同じ境遇に身を置いた君なら、傍にいても安心できる。だから――」
「先生?」
彼は振り返り、優しくも力強い声で言う。
「私の傍にいてほしい。その代わり、君は必ず私が守る。君は絶対に、殺させはしないよ」
先生の声が、私の中で響く。
胸の奥が震える。
瞳と見ているだけで、ドクドクと心臓がうるさい。
ああ……そうか。
いつの間にか私――
「はい!」
先生に、恋をしていたんだ。
ブクマ、評価はモチベーション維持、向上につながります。
【面白い】、【続きが読みたい】という方は、ぜひぜひ評価☆☆☆☆☆⇒★★★★★をしてくれると嬉しいです!
【面白くなりそう】と思っった方も、期待を込めて評価してもらえるとやる気がチャージされます!