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リバーシ

作者: 葉月あかり

 濡れた缶ビールとキーボードを前にひとり画面を見つめながら一日を振り返る。ご飯、食べた。洗濯、した。いつもはクイックルワイパーで済ませる狭い部屋の床掃除も今日は気が向いたので掃除機までかけた。明日はいつも通り仕事があるし、朝は夫の隣で目が覚めて職場へ向かい、買い物をして帰宅して少しの会話と少しの笑顔を交わして並んで寝る。不穏なことなど何もないような毎日だ。

 私のスマホの中では幻獣と戦う英雄が元気にクリティカルヒットを連発。もう2年毎日ログインし続けているタワーディフェンス系のゲームだ。ギルチャは賑やかでギルメンのイベント参加率は鯖の中で1、2位をキープしている。新しい装備も手に入ってご機嫌なギルメンの愉快な掛け合いに草。いつも通りの対抗ギルドへの穏やかな宣戦報告。不穏なことなど何もない。

 缶ビールを傾けて一口。病院からの通知は今日もない。あるわけなんかないのに何かを待っている自分に気づいてまた缶ビールを煽る。きっと電話一本で私の人生は変わると思う。私が動かざるを得ないような出来事が起こればいいのに。

 不妊かもしれないと思い始めたのは結婚してから1年経った頃だ。夫とは仲良しのままなのに一向に妊娠の気配がなく、原因は私かもしれないと不安から婦人科を受診した。何度か通って検査をした結果何も異常がなかったことを夫に告げると、そう、と困ったようにつぶやいた。それだけだった。

 妊活にお金がかかることは少し調べれば医者に聞くまでもない。生活に困窮はしていないけれど夫には自分の店を出すという夢がある。そのための貯金を、成功するかわからないものに使うのは躊躇われた。職場の先輩には500万円と3年かけてようやく子どもを授かったという夫婦がいるが、私たちも妊活をしてそれと同じだけの金額を払えば確実に子どもができるとも限らない。月経が来る度に、誰かにお前は母親になる資格がないと責められている気がした。子どもができないという不安が大きい。

 私は入社してもうじき10年になる。仕事は順調で最近ようやく管理職への社内試験に合格し次の組織編成で昇格も視野に入れているところだ。同僚にも恵まれて課の成績は社内でも上位をキープ。そう、不穏なことなどまるでないように。

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