死亡。そして冥界“ハデス”へ
初投稿となります。
至らない点、多々あるかと思いますのでご指摘よろしくお願いします。
俺の名前は 一ノ瀬 真央 (いちのせ まお)23歳。彼女なし。
不動産会社の営業マンだ。
小中高と脇目も触れず、真面目に勉強した俺は、そこそこの大学に入学、留年もすることなく4年間で卒業した。
無事就職先も決まり、バリバリ働き、これから可愛い奥さんと出会って結婚し、子供なんかも出来て幸せな家庭を築いて行くのだと、信じて疑わなかった。
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入社式から1ヶ月。俺は気づいてしまった。
意気揚々と入社した会社は……
休日出勤当たり前!!残業三昧!!!
残業手当は手当は雀の涙ほど……。
そう!ブラック企業だったのである!!
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新社会人として働き始めてから約1年。
「なぁ、一ノ瀬聞いたか?田中さん、課長の飲みの誘い断って降格させられたらしいよ。」
そう言って話しかけてきたのは、同期入社の伊藤だ。同期の中では特に仲が良く、親友のような奴だ。
「え!まじか!俺も最近飲み多すぎて出費半端ないから課長との飲み断ろうと思ってたのに…。」
「俺はもう昇進諦めたよ。昇進のために毎月給料の半分近く使って身体壊すとか馬鹿馬鹿しいじゃん?課長のために働いてる訳じゃないっつの!」
伊藤の言う通りだ。このままの状態じゃ悪くなる一方だ。貯金すら出来ないし、結婚どころか彼女作る自信も湧いてこなくなってきている。
「よし!今日こそは断るぞ!」
「頑張れ〜。まぁ、一ノ瀬のことだから断りきれないのがオチじゃないかと思うけど。」
苦笑いしながらそんなことを言う伊藤。伊藤の予想は結構当たるんだよな…。
そんなこんなで今日も仕事が終わりに近づいてきた。
背後からドスドスと足音が近づいてきて止まる。小太りビール腹の課長がいつものように話しかけてくる。勿論、飲みの誘いだ。
なんでも今日は本部長も一緒のようだ。
「今日は本部長も一緒だ。仕事終わったら飲みに行くぞ。」
今日こそは断ってみせる!
「課長、すみません。最近、体調あまり良くないんですよね〜。」
やんわり断る作戦だ。頼むから帰らせてくれ〜。
「なに言ってるんだ!本部長が来るんだぞ!!付き合うのが部下の務めだろ!」
「ハハ。そうですよね……。」(いつの時代だよ!)
なんで強く言えないんだろうか。結局、上司の強い口調に萎縮し、抗えなかった。
昔からそうだ。強く言われると断れない、気弱な性格なのだ。不甲斐ない。
仕事が終わり、居酒屋へ向かう。飲みの場では本部長がいるからか課長はいつも以上に張り切っている。
机につくや否や、慣れない手つきでお皿を配ったり、箸を並べたりしている。
俺も何もしないわけにも行かないので、店員さんを呼んで注文をしたり、運ばれてきたお酒を配ったり、大忙しである。
課長はいつも酔っ払うと昔の自分の武勇伝を語りだし、お前もそのくらいやれと説教をしてくる。毎回そのループだ。
飲み始めて1時間程経過したが、今回は本部長がいるからかそのような事にはならず、代わりに俺にガンガンお酒を飲ませてきた。
課長は自分が本部長から飲まされないようにするために、部下である俺を盾に使ってきたのである。
「今日は俺の奢りだ!飲め飲め!」
上機嫌になった課長はそう言って勝手に注文したビールを俺に渡してきた。
(初めて奢ってくれたと思ったら、勝手に注文しちゃうし、めちゃめちゃ飲ませてくるじゃん!ビール苦手なんですけど!)
結果、飲めもしないビールをたくさん飲まされ、俺はベロベロに酔っ払ってしまった。
(キモチ悪い……。)
上司たちと別れ、家へ向かう途中、公園で一休みしようとベンチに寝転がった。
(少し休めば回復するだろう)
季節は冬、気温はマイナス10度。
しかし、酔っ払っていたせいか体温は高く、キモチ悪さが酷かったため、寒さは全然感じなかった。
その所為か、少し休もうとしただけだったのにいつの間にか、寝てしまっていたのだ。
そして……。
〜 チュンチュン チュンチュン 〜
次の日、朝の公園に散歩に来ていた老夫婦によって凍死した俺が発見されたのであった。
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「やばい!公園で寝てしまった!!今何時だ?」
慌てて起き上がり、すぐに左腕に付けている腕時計を確認する。
「動いてない?電池切れかな。」
時間を確認するため、スマホのホームボタンを押す。画面に表示されていた時間は腕時計と同じ時間で止まっていた。
「スマホも壊れてるのか!?」
幸いまだ辺りは暗い。仕事には間に合いそうだ。
家へ帰ろうとベンチから立ち上がろうとし、手を着いた。しかし明らかにベンチではないツルツルした石のような感触が手に伝わる。よく見ると何かの儀式でもやるかのような台座の上で寝転がっていたことが分かった。
(あれ?俺が寝てしまったベンチは木製だったはず……。まだ酔いが覚めてないのか。いや、それにしてはいつも二日酔いになる時のような胃のムカつきも、ズキズキ響くような頭の痛さもないぞ?)
状況が飲み込めていなかった俺の前に突然、青黒く不気味な焔が俺を囲むようにして燃え始めた。
(なんだこの青いのは!炎なのか?それにしては全然暑くないな、寧ろ寒くなってきたぞ。)
すると背後に気配を感じた。
寒気を感じ、後ろを振り返るとそこには、恐ろしい顔をし、頭から髪の毛のように青黒い炎を纏ってた男の顔があと数cmで口と口が当たってしまう程近くに現れた。
「うわーーーーーーーっ!!!」
思わず後ろに飛び退き、警戒を強めた!
唇は黒い口紅塗ったかのように漆黒。肌は生者とは思えない程青白く、毛細血管が薄っすら浮いているのが見える。
(人間…なのか?)
あまりに人間離れした容姿に圧倒されている。百歩譲って、ハロウィンのコスプレだと言うのであればま・だ・納得がいくが、今は12月。とっくにハロウィンの季節は終わっている。
では、目の前のコイツはなんだ?人間では無さそうに見えるけど。
すると目の前の不気味な人間(?)が玉座に腰掛けながら話しかけてきた。両脇には側近と思われる2人の人物が立っている。
「そう構えるな。我は閻魔。この冥界“ハデス”を統べる者である。お主は現世で死亡し冥界へに送られてきたのだ。死因…は凍死のようだな…。」
閻魔と名乗る男は哀れんだ表情で俺を見ている。今まで恋人も作らず(出来なかった)真面目に生きてきたのに、凍・死・なんてふざけた死に方、納得できない。
「死んだなんて信じられません!現に、今こうやって貴方と話しているじゃないですか!」
「納得できないのも無理はない。しかし確実にお前は現世にて死亡している。その証拠に時間が止まっているであろう。冥界では時間という概念がないからな。どうしても納得できないと言うのであれば、この短剣で己の心臓に刺してみるが良い。」
閻魔はそう言うと、足元に1本の短剣を放り投げた。
(刺してみるがよい。じゃねーわ!そんなことしたら本当に死んじゃうじゃん!)
「そこまではちょっと……。」
俺は自分で心臓を突き刺すなんて常識外れなことを急に言われ、戸惑っていた。
次の瞬間、地面に投げ出されたはずの短剣が、俺の心臓に突き刺さっていた。
側近の1人が瞬間移動でもしたかの様な速さで短剣を拾い上げ、俺を一突きにしたのである。
自分の胸に刺さった短剣を凝視し、血だらけの手で柄に掴む。地面には大量の血溜まりが出来ている。
(痛えぇぇーーーーー!この血の量はまずいぞ、なんかクラクラしてきた。このままじゃ…死ぬ!)
「ゴーズ。閻魔様の前で端ないですわ。貴方のその短気な性格はどうすれば治せるのですの?」
「コイツは閻魔様の言葉を疑い、信じなかった。当然の報いだろう。メイズ、貴様がグズグズしているから俺が分からせてやったんだろうが。感謝しろ、この馬面女。」
「なんですって!言わせておけば!貴方こそそのセンスのない服装どうにかなりませんこと?目がチカチカして適いませんわ。」
朦朧とした意識の中で側近の2人が言い争っているのが聞こえてきた。
話の内容からするに、俺の心臓を突き刺したのはゴーズという男だ。体格が良く頭には牛の角を2本生やしている。。白と黒の班目模様のセットアップを身に纏っていた。髪型は坊主でこちらも同じ様に黒と白の班目模様だった。なるほど、確かに目がチカチカするな。
もう1人は茶髪でポニーテールをしている女性。こちらは頭から馬の耳が生えている。立派な尻尾……いや、ポニーテールがとても良くになっている。因みにスタイル抜群である。
そんな2人の会話を聞いているうちに、意識を失った。
「2人ともその辺で喧嘩はやめにして、そこの青年を起こしてやってくれ。」
「「仰せのままに!」」
2人とも先程まで言い争いそしていたとは思えないほど凛とした面持ちで閻魔の声に応え、青年の元へと向かった。
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「目が覚めたか。それでは脱げ。」
「そういった趣味は持ち合わせていないのですが……。」
「か、勘違いするでない!先程刺された箇所を確認しろという意味だ!」
(そっか!さっき心臓を一突きにされたんだ!)
閻魔にそう言われてから自分が刺されたことを思い出し、傷口を確認すると…
「傷口がない!?あれは確実に致命傷だったはずだ!」
「言ったであろう。一度死んだ者が二度死ぬ事などありえないのだ。これで理解できたか?自分が死んだという事を。」
理解せざるを得ない。ここまで摩訶不思議なことが起きれば、ここが今まで居た世界ではないのが分かる。
「はい。理解できました。ここはあの世なんですね…。」
「そうだ。理解してくれて良かった。改めてようこそ。冥界“ハデス”へ。なにも悪い事をしていないお主が何故天界ではなく冥界には来たかは謎だがな。まあそれは良い。それでお主の名前を聞いていなかったな。」
「僕の名前は 一ノ瀬 真央 です。」
「イチノセ マオ か。これからこの冥界ではお主をマオと呼ぶ。良いか?」
「はい。よろしくお願いします。」
「俺の左側にいるのがゴーズ。右側にいるのがメイズ。2人とも我の側近だ。ゴーズは先程お主の胸に風穴を開けた者だ。悪気は無かった故、許してやってほしい。」
「ゴーズだ。さっきは急に刺しちまったけど、お前が悪いんだからな。これからは閻魔様に対する口の利き方には注意しろよ。」
「メイズですわ。。可哀想にね、頭の悪いゴーズに虐められて。後でお姉さんがヨシヨシして差し上げますわ。」
正直、凄く怖い人達かと思ってたけど案外優しそうだ。
「皆さん、これからよろしくお願いします。」
(俺は死んだ。もうこの冥界で生きていくしかないんだ。冥界では生きていくっていうのも可笑しな話だけど…)
「マオよ。お主、現世に未練はないのか?」
(未練か…。)
「未練ならあります。一度くらい彼女とデートとかしてみたかった。会社でも課長のご機嫌とりばかりしている自分に嫌気が差していました。もう一度生きられるならもっと自分に正直に生きてみたいです。」
「それならお姉さんがいつでもデートして差し上げますわよ。」
「マオ、お前、童貞だったんだな…」
「はいはい、そうですよ!童貞ですよ!なんか文句ありますか!」
少し涙目になりながら答える。
(ったく、わざわざ言わなくても良いじゃん…)
「マオよ、その未練、果たしたくは無いか?通常、冥界へと落ちたものが生き返る事など出来ない。しかし、お主は少々特別なようだ。現世で悪いことをしてきた訳でも無いのに天界では無く、冥界へと落ちてきている。お主なら前と同じ世界へとはいかなくとも、異なる世界へなら転生する事が出来るかもしれん。」
(それってラノベでよくある異世界転生ってやつじゃないか!俺結構憧れてたんだよ!)
「行きたいです!異世界!」
俺は迷わず即答した。
「それは良かった。今その世界では様々な災厄が降り掛かろうとしている様なのだ。ちなみに今は丁度新たなる魔王が誕生しようとしているみたいだな。そんなのが生まれたら大勢の罪なき人間が虐殺される事になるであろう。そうならない為にもとりあえずお主には魔王を討ち滅ぼして欲しいのだ。」
(魔王!そんなのがいるのか!ますます異世界っぽいな!でも俺にそんな力は…)
「でも俺には魔王を倒せるような力なんて無いですよ。今までだって勉強ばかりでスポーツも碌にやってこなかったから運動神経も鈍いですし…」
「ああ、その辺は問題ない。そもそも異世界転生する為にはそれなりの修行をして強くなってからでないと身体がもたないからな。それに此処では時間が止まっている様な者だから転生してから魔王と相対するまで十分余裕があるはずだ。」
(なんだか嫌な予感がする。)
「修行って何をすればいいんですか……」
「大した事ではない。とりあえず冥界落ちとなった罪人が行う試練を一通り受けてもらってから、我を含んだ “十二天” と呼ばれるこの冥界を統べる者達との修行を行ってもらう事になるであろう。なあに、死ぬ事はないのだから安心だろう。」
(どこら辺が大した事無いのか教えて下さい。でも修行に耐え切れば、夢にまで見た異世界転生が出来るのか。頑張らない理由がないな。)
「マオよ、どうする。決めるのはお主だ。」
「俺、やります!必ずやり遂げて見せます!」
こうして俺は現世で一度死に、冥界落ちとなったが、異世界を目指す事になった。