油断大敵
「いや、アンタだれ……むぐっ」
「アルバート様ありがとうございました! ではわたしはレイと帰りますので! 今度お礼に伺わせていただきます!」
顔を突き合わせた瞬間に感じた。
こいつには隠せない。と。
迎えの馬車から降りてきたのは、少しはねた黒い髪に、深い緑の瞳を持つ男だった。
彼がレイ。つまりクローゼとやらの護衛である。
そしてレイは、わたしの姿を見るやいなや、首を傾げ、物凄く怪訝な表情を浮かべながら、挨拶をする前にとんでもないことを言おうとしたのだ。
わたしは咄嗟に彼の口を塞ぎ、そのまま力技で馬車に押し込みながら、アルバートに別れの挨拶をして、すぐに馬車を出発させた。
というか、守る対象に力技で押し込まれるって、この人は大丈夫なのだろうか。
「何すんだよ。っつーかアンタ誰なんだよ」
「わたしは神崎幸乃と言います。クローゼさんの身体をお借りしてる状態だと思います」
「はあ? 召喚は失敗だったと聞いてたんだけど。それってつまり成功してたってことだよな。アンタ司祭とあの王子に嘘ついたのか?」
「嘘をついたのはまだ意識が残ってた時のクローゼさんです。なんで嘘をついたのかはよくわかりませんけど」
「なるほどな。アイツの意識が残ってたって言うんなら嘘つく理由はわかるからいいけどな。あんたにその記憶が残ってないのは、神様方からしても不都合だからだろうよ」
「と、言うことは。貴方はわたしが嘘をつかされた理由をご存知……」
ガタンッ