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おいしいアルバイト?

おはようございます!



 僕が偽装の戸籍で高校に潜り込んだことが生徒会にバレていた――ということは、学校側も知っているのだろうね。


 まさか生徒会長が1人で調べたネタで、どこにも漏らしてないなんてことないだろうし。


 こういう事態になった場合、軽く済んだとして尋問されて退学、ことによっては拷問まがいのことをされた上、書類上は病死とか事故死みたいな感じも覚悟していたのに、エイト会長の提示したのは意外にもアルバイト。


 まあ、アルバイトといってもハンバーガー屋やコンビニではなく、スパイ狩りだけど。


 この戦艦島は最新の軍事機密の宝庫。研究所や製造工場はもちろん、こういう学校でさえ諜報活動の舞台となる。


 もし八島高校の生徒という身分を手に入れて、かなり優秀という評価を得られれば、どこかの研究所が共同研究を申し入れてくることもあるらしい。


 ほどほど優秀という評価だったとしても、研究助手のようなアルバイトが舞い込んでくるのも珍しくないようだ。


 高校生にとってはスキルアップと人脈ができ、戦艦島としては人材育成に繋がるから、双方ともに悪い話ではない。


 ウインウインな関係という奴だね。


 同時に、それは八島重工の機密事項を高校生でも盗むチャンスができるということだ。


 大金を手にするチャンス!


 そういう場面で、どうやら命をベッドする宝くじを買ってしまう生徒もいるらしい。


 報酬は金とは限らないようだけど。かわいい女の子に懇願されて、とか。


 もちろん、反対に女子生徒がイケメンに狙われることもある。


 それに対抗するため、戦艦島の学校には校内で防諜活動をおこなう機関があるという噂があったが――あくまで噂だ。


 まさか堂々と校内に『防諜対策委員会』とか『対スパイ研究部』などと看板を掲げて、他の委員会や部活みたいに活動するわけにはいかないし、ことの性質上メンバーが誰かすら秘密にしておかなければならないだろう。


「どこの委員会や部活がなにをしているか具体的に教えるわけにはいかないが、校内には数人ほどの部隊ユニットがいくつもあって、それを生徒会が統括していると思ってくれ。小さい部隊で活動させるのは例えば敵に身柄を拘束されたときに漏らせる情報が少ないほうがいいからな。もし人数が必要な案件があるなら、その小部隊を何組か合わせればいいんだしね。昨夜も25人ほど集めて作戦をやった」


「つまり僕が捕まったとして、超スゴい拷問とか、しゃべらずにはいられない自白剤を注射されたとしても、エイト会長と彼女の2人の名前しか上げられないわけですね」


「そうそう、だいたいそんな感じ。といっても、高校生のやることだから管轄としては校内とか、その周辺で、敵対勢力も高校生として潜入している連中が相手だから、とことんえげつない尋問まではいかないと思うが……しかし、それも半分は希望的観測という奴だな」


 いままで死亡者や重傷者がいなかったわけじゃないんだし、とエイト会長がサラッと怖いことを言う。


 しかも、記念すべき最初のミッションはイレギュラーなもので、拘束対象ターゲットは生徒ではなく成人男性2名とのことだった。


「もちろん、昨夜の連中だ。通常なら八島警備保障に丸投げするような事件だが、目撃した佐藤君や、実際に戦ったファーストのほうが拘束対象の確認および攻撃能力の分析が正確じゃないかと思ってね。特に君は相手の顔をちゃんと覚えている」


 エイト先輩は似顔絵のコピーを僕に見せてくれた。


 もちろん知っている、なにしろ僕が描いたものだから。






 昨夜、八島警備保障に保護されたとき、そのまま彼女を引き渡して帰宅と言うわけにはいかなかった。


 当然どんな事情か質問――というより尋問された。


 拷問でないだけマシだと思え、というような容赦なく、執拗な取り調べだったが、襲撃犯のことを尋ねられた僕は紙をもらい、この似顔絵を描いて渡した。


 おそらく彼女にも見せて、また供述内容も相互チェックして、若干の齟齬があったとしても少なくとも意図的に嘘をついているわけではないと判断したのだろう。


 防犯カメラの画像も僕の供述と、似顔絵の出来を裏書してくれたはず。


 そのあと身柄の拘束を解かれた。


 絵心はそこそこだけど、記憶力がいいから――本当はメモリーが優秀だから!






 そのときの機械化改造体を探し出して身柄を確保しろというわけだ。


「佐藤くんは飼育委員会に入ってもらう。ここにいるファースト――初穂友華はつほともかが委員長だ。周囲には今日の呼び出しは飼育委員会のメンバーとして誘われたと言っておいてもらいたい。今後の活動も表向きは飼育委員としての仕事ということになり、報酬もそこから払われると思ってくれ」


「表向きの身分偽装を飼育委員の活動ということにするのは理解できますけど、学校の委員会活動が表向きのアルバイト?」


「一般的な学校の飼育委員が世話をする動物は生徒たちの情操教育のためとか、そういう目的になるんだろうな。しかし、この高校については実験用の小型動物、例えばマウスやモルモットが多いかな。場合によっては犬やチンパンジーといった、もう少し大型の動物を使うこともあるし、逆に小さなものとしては遺伝子の研究にショウジョウバエを使うことも。そういうものの世話については飼育委員が担当し、ちゃんと手当が支払われる規定になっているんだ。まあ、世話といっても動物商から仕入れて実験をやるまでの数日だけとか、そんなに長期になることはないんだがな」


 ただし、猛烈に面倒なことらしい。


 実験動物の飼育は照明や餌を一定に保つ必要があるとか。別々の実験ならかまわないけど、同じ実験に使用するマウスはできる限り同一に近いものを揃えないと信用できるデータにはならないと聞かされれば、なるほどと納得するしかないが、何百とか何千のマウスに同じ餌を同じ量だけ与えるのは大変だと想像がつく。


 ついでにいうと実験終了後の『処分』も飼育委員の仕事に含まれるそうだ。


 あまり気持ちのいい仕事とはいえないから、比較的高額な手当が設定されている。


 さらに近隣の研究施設から委託されて実験動物を預かったり、実験終了後の処分を頼まれることもあり、面倒だったり、臭かったり、キツかったりするので、まったく人気はないがそこそこ稼げるアルバイトとして生徒たちの間では認識されているとエイト会長は説明してくれた。


 他に報酬がよくて、スキルアップにつながったり、卒業後の進路で有利になるアルバイトはいくらでもあるし。


 もちろん、逆もあるけれど。


「この戦艦島に法律なんて存在しないからね。宇宙空間のコロニーで、どこかの国に所属しているわけではないし、企業が王様なんだから労働基準法ってなんですか? と本気で首を傾げるブラックバイトも多いし、もちろん最低賃金もないから時給100円なんてものもリアルにあるんだ。そういう意味では賃金がまともなアルバイトは貴重だけど、宇宙服みたいな防護服を着て致死性のガスや細菌が付着した100万匹のマウスを焼却処分するのは無理って生徒が多くてね」


「裏の仕事よりもキツそうだ」


「そうか? 防護服での作業は暑いかもしれないし、長靴だと足が蒸れて臭くなったり、水虫が悪化するかもしれないが、裏の仕事と違って腕や足がなくなったり、うっかり命を落っことしたりすることはないぞ」


 ついでに、時給が安いアルバイトだと、スキルアップやコネクションなど、金銭以外の報酬がついてくるパターンがほとんどと教えてくれた。金銭的には報われなくても、将来を考えると悪くはないようだ。


 その一方で飼育委員のアルバイトは実験動物の安楽死のスキルがアップしたり、研究所の雑用を担当するオッサンとコネができたりする。


 言うまでもなく、裏の仕事のスキルアップやコネはろくでもないものばかりだから、もっと使えない。


「ちなみに現在の飼育委員は委員長1名のみで、いま新入生が1名志願してくれたので合計で2名になった。他の委員はいない」


「えっ、いままで委員長1人だけでやってきたんですか?」


「あ……なんというか……1名じゃなかった期間もあった、と言っておこう」


「………………うっかり手足や命を落としたときには、アルバイト中ということで労災にしてもらえるんですよね?」


「だからさ、労働基準法なんて日本の法律なんだよ。超ブラック企業の八島グループは仕事ができなくなったらポイ! 使い捨てさ。扱いとしては情報機関員インテリジェンスオフィサーではなく協力者エージェントだしな。もし殺されたら火葬の手配くらいはするし、遺骨は宅急便で遺族に送ってあげる。それにかかる諸費用が退職金のかわりだ。この戦艦島には墓なんて余分なものを作るスペースはないからね。カラスの餌にならないだけ幸運だと思ってもらいたい」


「死んだら終了ですから、別に動物の餌でもいいですよ。それより稼げるというのはありがたいですね」


「あと直接指令を受けた仕事以外にも、手配されているスパイを捕まえると報奨金が支払われるから、稼ぎたいのなら、いくらでも仕事はある」


「手配犯というと、まるで賞金稼ぎみたいですね」


「名前がわかってれば指名手配するし、わかってなくても防犯カメラの画像とか遺留品の指紋や靴紋、DNAやにおいなど、あるだけの証拠を添えて手配書を作成するんだ。そいつを上手く捕まえてくれれば報奨金が支払われるわけだから、まあ、賞金稼ぎといえば賞金稼ぎかな? その場合は雇用関係ではなく、請負とか契約とか、そういう形になるわけだから、労災にしなくても八島グループがブラック企業ということにはならないのか……」


「労災は諦めましたから、もういいです……賞金は八島グループから出るんですか?」


「報奨金な。もちろん、八島グループが出す。セキュリティーに関する必要経費の一部だ。アフリカは延々と大陸のどこかで戦争やってるし、アジアはキナ臭くなってるし、南米はハジけて熱い。本体の八島重工は派手に儲けてるから支払いは心配いらないよ」


「しかし、どこもあまり金のありそうな地域じゃないですけど。どこから戦費が出てるんですかねぇ」


「埋まってるか、生えてるさ」


「なにが埋まってるんですか?」


「いろいろ。石油、天然ガス、石炭、鉄鉱石、ボーキサイト、金、銀、ダイヤモンド、希土類金属(レアメタル)その他。地下資源がなくても、例えば農業に向いた土地なら大麻や芥子みたいな、トウモロコシやジャガイモよりも換金性の高い麻薬植物を栽培するとか――なにか命がけで奪い合うだけの値打ちがある利権が存在するよ。もし金にならない土地しかなければ、そもそも戦争にならないから。せいぜい飢えた現地人が援助物資を積んだトラックの周囲で拳骨を振りまわして小競り合いをする程度さ。一グラムでも多く米よこせー、ってね」


 エイト会長はおもしろそうに笑った。


 ニコリともせずファーストこと初穂飼育委員長が僕の前に立つ。


 飼育小屋に案内するから、ついてきなさいと言った。




次話は明日の予定です

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