生徒会にはかかわりたくない!
おはようございます。
戦艦島は今日も快晴!
各クラスにわかれて担任や生徒たちの自己紹介と、そのあとの新入生ガイダンスを無難にこなし、さっさと帰ろうというところで担任から声をかけられた。
「佐藤、生徒会から呼び出しだ」
「えっ、なんで?」
「俺が知るかよ! いい話か、悪い話のどっちかだな」
担任の柿野は30そこそこの厳つい大男で、見た目は鬼軍曹という感じだが、僕の思わず口から零れた独り言を拾い上げて、わざわざツッコミを入れてくる。
生徒にフレンドリーならいい教師というわけでもないだろうが、第一印象としては悪い人物ではなさそう。
なので、僕もツッコミ返す。
「もちろん、いい話か悪い話かのどっちかでしょうよ」
「いや、そういう意味じゃなくて、普通の用事で生徒会が一生徒の呼び出しなんかかけないということ。生徒会役員として指名するとか、校則違反で停学処分にするとか、そんな用事だ、おそらく、な」
確かにいい話か悪い話か、どちらか極端で、その中間はないみたいだ。
しかし、生徒会役員は普通、選挙で決めるんじゃないの?
それから校則違反での処罰は学校の権限だと思うのだけれど、ここでは生徒会が勝手に生徒を停学処分にできるのだろうか?
「生徒会役員のうち、会長、副会長、書記、会計の四役は生徒たちが選挙で決めるが、その4人だけで仕事がまわるわけないから手伝いを下級生に頼むんだ。次期生徒会の役員候補という意味合いもあるな。で、その手伝いも便宜上『生徒会役員』と呼ばれる。会長とか書記といった役職はないから平の役員ということで『ヒラ役』とかね。正式な役員ではないからといって、さすがに『生徒会役員手伝い』とか『生徒会役員見習い』という肩書ではかわいそうだろう?」
「それを僕に?」
「いい話だった場合だな。生徒会役員なら八島大学はもちろん世界中の大学から推薦の話が山ほど降ってくる――というのは少々大袈裟だとしても、まあそれなりに選べる立場になれる。しかし、逆というのもあるな。うちの高校は生徒会の権限が強くて、生徒の処分については刑事事件に該当するものについては学校が対処するが、校則など学内のルール違反については生徒会の担当ということになる。生徒による自治ということだ。もちろん、停学や退学など重い処分の場合は学校側の了解を貰わなければならないが、校内の清掃など軽いペナルティーを課す程度の事件なら生徒会だけで決めてしまってかまわないし、不服がある生徒は学校側に不服申し立てができるが、まず引っくり返ることはないな。生徒会が不公平な判断をすることはまずないし、学校側も生徒会の判断を尊重してるから」
「そういうことですか、詳しい解説ありがとうございます」
「まあ、だから退学や停学レベルはないとしても、便所掃除1週間くらいならあり得るかな?」
と、付け加える。いい人というだけでもないらしい。
いちおう僕も事前に収集しておいた情報があって、今期の生徒会会長はエイトと呼ばれているらしい。
本名は中村英人というのだけど、名前だけでなく、姓のほうも日本で多い名字ランキングで堂々の第8位。そして、学校の成績もだいたい学年でヒトケタ後半、たいてい8位くらいが定位置ということで、そんなあだ名がついたようだ。
生徒会室にいくと、そのエイト会長が待っていた。
キレ者っぽい印象の端正な顔つきで、学年8位くらいが指定席というが、それでもトップクラスの成績には間違いなく、インテリメガネとか、そんな感じがする。
お勉強はできそうだけど……勉強できるバカでないことを祈る。
勉強できるバカは僕の敵だ。
「さあ、中に入って、ドアを閉めて。そのあたりの椅子、どこでもいいから座って」
3人が並んで座れる机が4台ずつ2列、合計8台もあって、生徒会室はイメージしていたより広く、普通の教室と同じくらいのスペースがあった。
そして、どこでもいいから、と言いながらも指しているのは自分の正面の椅子だった。
中央の椅子にエイト会長。
一番奥の席にいるのが弓城副会長だろう。ここからでは背中しか見えないし、パソコンのモニターに顔を向けたままだが、セーラー服を着ているので女子生徒とわかる。
他に書記の成瀬と会計の阿尾の姿はない……別に僕が生徒会の大ファンというわけではない。いちおう事前に八島高校のことを調べたとき、学校のホームページに生徒会役員の顔ぶれが掲載されていたのだ。
その他にまったく知らないわけではない人物も1人だけ。
確か生徒会役員には入ってなかったはず。
こっちに一瞥をくれることもなく黙って部屋の隅の丸椅子に座っていた。
ロッカーの備品になってみたり、椅子の上の置物になってみたり、なかなか興味深い人物ではある。
空席ばかりだから、どこでも座れるのは間違ってないし、ここであえて逆らうという選択肢も考えたが、まあ、最初から反抗的に見える行動をするのもどうかと思うので、素直にエイト会長の正面に座る。
「普通科1年5組佐藤玉です」
「君が俺のことを知ってるかどうかわからないが自己紹介しておくと生徒会長の中村だ。呼び出しをかけたのも俺だ」
「エイト会長と呼ばれてるみたいですけど……」
「うん、後輩からはエイト会長とか、エイト先輩とかね。同学年の連中は呼び捨てか、君づけ。でも、どうなんだろうね。俺はフレンドリーな生徒会長を目指しているし、だいたい1年や2年早く生まれたかどうかなんて人間の本質に関係ないんじゃないんだろうか。例えば俺は中村という名字だが、これもまた符牒にすぎない。ペットボトルに書かれた商品名とかわらないわけだ。サイダーとかオレンジジュースみたいな。それに上下はないよな? 缶コーヒーだってブラック無糖がカフェオレより上という事実は存在しないし、かといって下にカテゴライズされる理由もない。もちろん価格の差はある。通常コーラよりビールのほうが高価だ。ところが味でいうならコーラのほうが好きという人もいるだろうし、アルコールが入っていれば文句はないというアル中は安い缶チューハイで充分満足できるかもしれない」
要するになにが言いたい?
「……で、つまりエイト会長と呼ばれるのは嫌なんですか? 新入生で事情がわかってないので無造作に使ってしまいましたが、例えば本当は本人の前で使ってはいけない綽名みたいな?」
「いや、別に蔑称みたいな意味があって君を咎めているというわけではないよ。簡単にいうなら、俺自身は純粋実力主義だから君が俺と同レベルか、それ以上の力を持っているなら呼び捨てでも君づけでもかまわないという話だ。しかし、まあ、そうはいっても他の生徒がいる前では会長とか先輩とか適当な敬称をつけておくのが学園生活を平穏無事に過ごすコツかもしれないね。勉強で学年1位とか、委員会やクラブ活動で目立つのは学園生活を快適に過ごす切符になる可能性はあるが、新入生が3年の生徒会長を呼び捨てにして悪目立ちしてもメリットは薄いだろうな」
「まさか、入学したての僕が生徒会長と同レベルとか、それ以上とかありえませんよ。もし上のところがあるとしたら名字ランキングがエイト会長が8位で、僕が1位というところくらいでしょうか」
「確かに佐藤という名字が日本で一番多いみたいだね。だったら、俺のほうはファースト後輩とでも呼ぼうか?」
「いや、それは……ちょっと」
「まあ、ファーストと呼ばれる後輩はすでにいるしな。ついでに言えば佐藤という姓は全国1位だけど、君、本名は違うだろう? そっちは別に全国1位というわけではないしね」
エイト会長は軽く笑う。
いや、軽く笑われても困るんですけど。
せっかくネット通販で買った偽造戸籍なのに。
続きは明日の朝にでも。
寝坊しなければ、ですが