表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/60

そのころ僕は




 病院に入院していて、お見舞い客と書いて……なんてルビを振ればいいのだろう? この戦艦島にきたもともとの原因と向き合っていた。


「ひさしぶりだな、試作品プロトタイプ


「自分の子供を試作品なんて呼ぶな」


「ムスコよ、元気だったか……いや、愚かな質問だったな、忘れてくれ。高圧電流で脳が焦げて手術をしたばかりの患者が元気なはずないな。しかし、本来の質問の趣旨としてはワタシと最後に会って以後どうであったかということでな、正直なところムスコが元気でも病気でも結構どうでもいいのだが、脳の一部をコンピューター化した試作品のデータがあればちょっと見たい気持ちがなくもない」


 約10年ぶりに会った父親はちっとも変わってなかった。いい感じにイカれている。


 よし、脳は治っているようだから、もうコイツは用済みで、今後のことも考えると殺しておくほうが得策だ、と思ったのだが、指先をピクリと動かすこともできない。


 まだ麻酔が効いているのか、麻喜の薬の後遺症か、脳手術の直後だからか。


「データもなにも、10年も24時間パソコンを稼働させてればポンコツもいいところだし、サポート終了のOSはウイルス感染のリスクが高過ぎるし、電気ビリビリで簡単にショートするし完全な失敗作だよ、僕は」


「知り合いが生体電気で作動するコンピューターの開発に成功したから、脳の一部と交換したらどれくらい人間の性能が上がるか実験したくなっただけの話だし、独自のOSまでは時間がなくて。せっかく手に入ったから早く使いたかったし、そもそも試作品に大した期待はしてないよ」


 そう言いながら父さんはギクシャクした動きで病室に入ってきて、ベッドの横にあった椅子に腰掛けた。


「腰か膝でも悪くしたの?」


「ん? ああ、これか。もちろん、ファーストの仕業に決まってる。おまえの手術を頼まれたから、ちょっと意地悪してじらしたら足の指を2本ほど切り落された」


「足の指を切り落された?」


「手の指だと手術に差し支えるが、足の方なら問題ないだろう、と。ボルトカッターを持って近づいてくるファーストを見て、もちろんワタシはすぐに手術をすると大きな声で約束した。しかし、あいつは聞こえなかったふりをして、そのままワタシの右足の小指をパチン! と。手術する手術すると何度も言ったのだが、もう1本いっとく、とかなんとか呟いて、隣の薬指をパチン!」


「でも、そもそも父さんはホテル・アヴァロンに宿泊中だったんじゃないの? 探したんだけど、どこにあるかわからなくて、彼女にも尋ねたんだけど、そのときは知らないと言っていたんだけどな」


「なにがホテルだ、世界で最低レベルの秘密刑務所じゃないか。しょせんはスペースコロニーにすぎず、そんなに隠す場所がいくつもあるわけじゃない。で、場所がわかればファーストならどうとでもする」


「万能キーだけでなく、無断進入許可証でも持ってるの?」


「どんなタフでマッチョな門番でもファーストを見ればたいてい通してくれる」


「秘密刑務所なんかに侵入しようとしたら、すぐに撃ち殺されそうだけど」


「ファーストは八島グループの保護対象となっている。なにしろ貴重な遺伝子強化体のたった1つの成功例だから。もし殺したら言い訳が大変だ。正当防衛を主張しても、おまえみたいな門番の命よりファーストのほうが重い。黙って殺されればよかったのに、と門番が囚人にジョブチェンジだ。看守が刑務所に入るとイジめられて大変だぞ」


 ウンコ食わされるらしい、と僕のお勉強はできる馬鹿の父親は下品な笑い声を立てた。


「それで父さんに僕の手術を頼んだわけだ」


「脅迫したというのが正しい。それともワタシのムスコも誰かにお願いするとき指を切り落すのかね?」


「最初から引き受ければよかったのに。どうせ暇だったんだろうし」


「窓には鉄格子がはまっていて、鋼鉄のドアには頑丈な鍵がかかっているが、室内は研究室になっている。ムスコよ、八島グループはドケチなんだから、無駄飯を食わせてくれるわけがない」


「研究さえやってればいい環境って、父さんにとってみれば刑務所じゃなくて本当に理想郷じゃないか」


「いや、ワタシはやりたいことを自由にやった方が成果を出せるタイプの研究者なのだが、八島グループの連中はそこのところがよくわかってなくて、研究テーマを押しつけてくるんだ。そして、それに沿った研究しかしてはいけないし、いろいろ興味のある結果が出て、これはおもしろくなってきたと思っても、中止の命令が出ると即日終了なんだ」


 それはそれは……研究馬鹿のマッドサイエンシストとしては天国のような見せかけで実際には地獄のような環境だろう。




 ザマアミロ。




「どうせくだらない実験だろう、全部。ファーストにも、ミミィにも、マダラにも、セカンドと呼ばれるはずだった少年にも会ったよ」


「全部が成功したとはいえないが、人間という生物の限界はもっともっと先にあるということだけはわかったな。もっと強く、頑丈に、知的になれるはずだ」


「正式な名前は知らないけど、トカゲ人間にも会ったよ。そういう意味では、あれは成功じゃないの? 車で轢いても平気だった。なにをどうしたら、あんな化け物が作れるんだか」


「3メートルはあるような巨体で、鰐のような顔をした奴のことか?」


「たぶん、それ」


「ワタシの作品ではない。というより、むしろその対極だな。そいつは地球を侵略しようという宇宙人だよ。ワタシはそいつと戦うために人類を強化してるんだ」


 マッドな科学者というだけでなく、人間としてもマッドみたいだ。


 どうやら僕の父親はしばらく会わないうちに妄想の世界に旅立ったらしい。


 その妄想に付き合わされたルイやミミィやマダラのために、できるだけ近い将来こいつは殺す。


 僕が決意を新たにしていると、2人の屈強な男が僕の病室に入ってきて、父親に手錠をかけた。


「そろそろ時間だ」


「さあ、戻ろうな」


 2人はやさしく父親に話しかける。


 もちろん、父親は文句を言う。


「手術してやったんだから、お礼とかないのか?」


「この手術は八島グループが依頼人ではない。ファーストが連れ出して、上のほうにかけあって手術中だけ保釈を勝ちとったんだ。お礼に欲しいものがあるらファーストか、飼育委員会か、そのあたりに言うんだな。おまえの息子も飼育委員だろう。なにかあるなら言うだけいっておいたらどうだ? 叶うかどうか保証しないが」


「自由を、研究の自由を!」


 僕の方にすがるような目を向けてくるが、さっさと死刑にしてくれと思う。


 それが無理なら、せめて終身刑とか。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ