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そのころルイは




 ルイは生徒会室のドアをそっと開けた。


 そうだろうと思った通り、エイト会長しかいなかった。


「質問、いいかな?」


「拳銃を頭に突きつけて質問?」


 エイト会長は額に銃口を突きつけているのに、慌てた様子はない。こういう展開を予測していたのか、撃つわけがないと高をくくっているのか。


「コンペに振ったバイトはなんなの?」


「荷物の運搬だけど」


「爆弾の運搬でしょうが」


 コンペが精神パルサーで焼かれた後、事情があったとしても依頼された仕事は完遂しておかないと今後の評判にかかわると、運んでいたトランクを回収した。実際のところはコンペが個人で請け負ったわけだが、飼育委員の一員が仕事を失敗したと評判になるのはあまりおもしろくはないから。


 イチロク式に襲撃され、荷台からアスファルトの上に投げ出された黄色のトランクは矢や銃弾も刺さっていて、かなりひどい状態だった。


 蓋もひしゃげて、中身がこぼれそうになっていた。


 その中身が問題で、どう見ても時限爆弾だ。


 ちゃんと調べると時限装置ではなく、かわりにGPSが内臓されていた。爆弾のほうは誤解も訂正もない。これだけのREX軍用爆薬があればコンペを月までブッ飛ばすこともできそうだ。


「GPS内臓の爆弾で、指定された座標は港。港まで運ぶアルバイトで、そのゴール地点で爆弾が破裂する仕様になってるのはどういうこと? 納得できる言い訳するか、撃たれるか、ジブンはどっちでもいいけど」


「生徒会は仲介だけで運搬物までは関知しない。だから、俺が言い訳を並べる必要はないと思うが」


「つまり仕事の内容も、依頼主の信頼度も、なにも精査することなくコンペに仕事を振ったと言いたいのね。それなら質問を変えて副会長はどこにいるの?」


「ちょっと島を離れてて、数日で戻ると思うけど」


「死んだんじゃなくて?」


 ルイは3枚の写真を机の上に放った。


 1枚はミミィを買い取りたいとコンペに持ちかけて最後は自爆した鈴木英子の、その自爆寸前の姿をとらえた防犯カメラから。


 もう1枚は生徒会室の奥を見ているコンペの両目がとらえた画像で、弓城副会長は背を向けているがパソコンのモニターが切り替えかなにかで一瞬暗くなったときに、そのモニターの表面に鏡のように顔が映っているもの。


 最後の1枚は吸着爆雷で破壊されたイチロク式のコックピットで死んでいたパイロット。


 別人のはずなのに、まったく同じ顔をとらえた3枚の写真。


 機動外殻に追いかけられたコンペはインターネット上のクラウドの場所と、そこに入るパスワードを伝えてきた。


 それを見ても最初は意味がわからなかったが、すぐにコンペの見ている光景や、必要を感じて集めた防犯カメラや飛行船からの画像を保存したものだと気づいた。


 ここ3日ばかり、ルイはそのクラウドの中身を調べていたのだ。


 あるいはコンペの視点で今回の出来事を見直していたともいえる。


「自爆したときに気づくべきだった。これは全部、使い捨てにできるよう安く大量生産したクローン体ね。量産型女子高生とでもいえばいいの? で、問題は生徒会がミミィやコンペをなぜ排除しようとしているか、だね」


 ちなみに、これも使い捨てのクローン体なの? とルイはエイト会長の額を銃口でコツコツと突きながら質問した。


「オリジナルだよ、できれば壊して欲しくないんだが……」


「それなら、なんでミミィやコンペを排除しようとしたのか、わかりやすく解説して」


「君はこの戦艦島が存在していること自体がおかしいと感じたことはないのか? 大規模に武器を生産するだけでなく、例えば君のような遺伝子強化体を生産しようとしていることについての疑問が。なにも戦艦島に対して正面切って派手に戦争を仕掛ける必要はない。こっそり工作員でも潜り込ませて、コロニーの外壁に穴でも開ければおしまい。日本政府にしてもなりふりかまわず止めるわけでもないし、中国や韓国みたいなアジアの国は戦艦島のことを非難するけど、実力行使するところまではいってない。アメリカやロシアだって兵器市場ということでいえばライバルになるんだし、もっと本気で潰そうとしてもおかしくない」


「それとコンペがどうかかわってくるの?」


「ただの背景説明だよ。この世界には戦艦島を排除したくてもできない事情があるんだ。例えば、人類共通の敵、それも強敵がいる、とか」


「昔から人類の敵は人類だと思うけど」


「八島警備保障に作戦支援部なんて事実上の戦闘部隊があるけど、その作戦支援部には陸上課と海上課と航空課の他に宇宙課があるのはなんでだろうね? 宇宙で戦争する以外に、そんな戦闘部隊はいらないのに」


 いったい宇宙でなにを相手に戦争してるんだろうね、とナイン先輩は笑った。


 楽しそうな感じは一切なく、むしろ嫌らしい笑い方だった。


「この戦艦島には都市伝説みたいなものがあって、恐竜を復活させたとか、それに食われて行方不明扱いになっている人がいるとか、そういう話を聞いたことないか?」


「さっきからなにを言っているのかわからない。ジブンはコンペについて質問しているの」


「爬虫類型の人間を見たことない? 身長が3メートルくらいで、手足に鉤爪がついてて、全身を鱗で覆われている」


「……ある」


「俺はリザードマンと呼んでいるが、それが宇宙人で人類の共通の敵だと言ったら信じる?」


「信じない」


「でも、本当のことなんだ。リザードマンたちは月に拠点を持っていて、そこから地球を攻撃してくるのを防ぐために、地球と月の間に戦艦島がある。ここは最前線なんだ。そして、そこで新型の武器を試したり、君のような遺伝子強化体や、君が戦った機械化改造体が通用するか実験している」


 どういう性能の武器が作られ、それがどれぐらい効果的だったか、俺たちはその情報が世界各国で共有されるべきだと思っている。地球人類の共通の敵だから当然だよな、とエイト会長は嘯いた。


「結局コンペ君はやりすぎたんだよ。せっかく手に入れたリザードマンの一部、手だけど、すぐに取り返すし、リザードマンそのものを捕獲したと思ったら、逃してしまうし。あれ、捕まえるのに何人食われたか知ってるか? さらには賞金稼ぎの真似事をさせても優秀で、あんなにも次々と手持ちの資産アセットを捕まえられてしまうと、それはそれで困る。つまりバランスを欠いてるんだね、彼は」


「あの機械化改造体とも繋がっているのね? で、ジブンたちの側は適当にスパイを捕まえるのはいいけど、捕まえすぎるのは禁止ということ?」


「察しがよくて助かる。できれば、もっと早く空気を読んで、コンペ君を制止してくれればもっと助かったんだが」


「馴れ合いしないから殺す、と?」


「共存共栄、みんなで幸せになってなにが悪い?」


「ジブンも空気が読めないとよく言われるよ」


 ルイは拳銃弾をエイト会長の頭に2発、心臓に2発撃ち込んだ。









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