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勝ち筋が見えない




 塵芥収集車を乗り捨てるタイミングが近づいてきているのは確実だ。


 タイヤが被弾。


 外からの視点や、上空から俯瞰していれば、いつどこで乗り捨てたらいいのかタイミングを計るのも簡単だが、いまは運任せ。


 勘でやるしかない。



 もう少しスピードが落ちたら。


 そのとき機関砲の弾が僕の肩のすぐ上を通過した。直撃ではなく、かすっただけなのに皮膚が裂けただけではすまなくて肉までもっていかれる。


「ぐわっ、うわっ……」


 あまりに痛すぎて言葉にならない。


 血がドクドクと流れる。


 このままでは殺されるだけだ。


 再起動したパソコンの調子は安定している。


 思い切って視神経との接続を復活した。


 飛行船がいい感じに塵芥収集車の真上を飛んでいる。すでにZ地区のはずれまできているようだ。




 そして……。


 塵芥収集車は塵芥収集者の形をしてなかった。


 上空からの俯瞰風景だからタイヤやホイールの状態はわからないが、もうそんな場合ではない。


 イチロク式は荷台の四方を囲む鉄のゲートを両手で引っぱって破壊していた。


 さっきからやたらと揺れると思ったのはタイヤだけの問題ではないのだ。


 荷台はなくなって、骨格のようなフレームが剥き出しになり、いまイチロク式はその上に飛び乗ろうとしているところだった。つぎは操縦席まわりを破壊するつもりだ。


 乗り捨てるタイミングなんて計っている時間はない。


 僕は慌てて運転席から飛び降りた。


 時速20キロから30キロといったところだが、走っている車から飛び降りるのは勇気がいる。


 しかし、この場合、勇気なんかなくてもかまわなかった。飛行船から送られてくる画像はイチロク式が腕を振り上げ、いままさに運転席を殴りつけようとしていたのだから。


 とにかく頭だけは守ろうと両腕でかばい、受身といえるようなものではないが、地面を転がる。


 それでも着地の瞬間は痛いを通り越して痺れるような感覚が全身を貫き、本来ならすぐに逃げなければならないところなのに、走るどころか、立ち上がることすらできない。特に負傷した肩が痛い――いや、痛いを通り越して痺れている。


 グチャ、と運転席が潰れた音が響く。


 重量があり、角や尖った部分さえあるような産業廃棄物を運ぶ荷台はかなり頑丈にできている。


 それに対して運転席は雨風を防ぐことができれば充分なわけで、イチロク式のゲンコツ1発で粉々だった。


 運転手が手で触れるところは最低限だったものの、操縦系統の詰まった運転席を潰されたことにより、塵芥収集車は停止した。


 それも急に止まるわけでも、しばらく惰性で走ることもなく、運転席がなくなった瞬間、普通にブレーキをかけたような挙動で停止したのだ。なんらかの安全装置がついているのだろう。


 その間に僕の方も一息ついて、やっと立ち上がる。


 しかし、全身を地面に叩きつけられたダメージがちょっと深く息を出し入れしただけでおさまるわけもなく、骨も筋肉も悲鳴を上げていた。


 無視して廃車の山を目指して走った――気持ち的にはダッシュだけど、じっさいはマラソンとジョギングの中間くらいのスピードだ。


 バシュという空気が破裂する音したとき、ちょうど事故でフロントが潰れた車の陰に隠れることができた。矢が車体にブスリと突き立ち、てのひらが痺れる。


「あっ! アルミなのか……」


 僕がが身を隠した廃車はアルミボディーのものだったらしい。鉄ほどではないが通電性がある。


 車体に触れていた右手にジンジンと痺れるような痛みが残った。


 まあ、スチールボディーだったら痺れる程度ではすまなくて、いまごろ脳内のパソコンは焼けるし、神経もやられて指先かすら動かせない状態だったはずだ。


 括約筋が弛緩してパンツの中が悲惨な状態になっていたかもしれない。


 二の矢、三の矢を警戒して、自分の体と機動外殻の間に廃車を挟んで防御壁とし、しかし、その廃車からは距離を取った。


 ババババババババババ!


 事故前は高級車だったと思われる大型のセダンが躍る。


 2トン近いはずのボディが前後左右に揺れて、激しく軋んだ。


 実弾――機関砲だ。


 地面に伏せている僕の上を廃車とはいえ自動車1台分をさほどの抵抗もなく貫通してきた弾がヒュンヒュンと唸りながら通過していった。


 軍用ロボットであれば暗視装置インテンシファイア熱線暗視装置サーマルイメージャーは標準装備だ。


 そして、熱線暗視装置ならば廃車の向こうにいる人間の体温の熱分布を表示するのはたやすいだろう――もちろん、照準して撃ち殺すことも。


 生身なら神経パルサー。


 障害物に隠れるなら貫通した弾で殺せるように実弾。


 僕を倒すという一点だけを狙っているのは確実だ。生きていても、死んでしまっても、とにかく活動停止に追い込むことが目標で、その目標達成以外は何も目に入らないかのように。


 そのとき、イチロク式の背後に高速移動する人影が見えた。


 飛行船、防犯カメラと視点をどんどん切り替えていくと、ルイとミミィが駆けつけてきたことがわかった。


 いまミミィだけが先行してイチロク式に襲いかかろうとしていた。



 無謀だ。


 操縦者の両目だけでなく、機体のあちこちにカメラやセンサーやレーダーがついているはず。


 詳細なスペックは知らないが、軍用の最新型ならこっそり後ろから近づいて奇襲をかけるなんてつまらない手段が通じるわけがない。


 子供の鬼ごっこじゃないんだ。


 同時にもっといい作戦があるか、と問われれば、それもない。


 どうやらルイが囮になってイチロク式の注意を惹いて、その間にミミィが背後に取り付くという作戦のようだが――遺伝子をイジった程度で人間が、攻撃力も防御力も戦車レベルで、機動力は何倍にもアップさせた機動外殻に戦えるわけがないのだ。


 本当に保険のつもりで実際に使うつもりはなかったのだが、どうしょうもない。


 僕は麻喜からもらった無針注射器を心臓の上に押しつけて体内に注入し、同時に脳を限界までクロックアップした。


 思い切って廃車の隙間を駆ける。その隙間が狭いところはドアや窓に足をかけ、過激なトレイルランニングみたいになりながら、イチロク式に僕を追うよう仕向けた。もちろん、軍用の機動外殻と徒競走をして勝てる人間なんていない。


 一気に距離を詰められ、神経パルサーの矢が次々に飛んでくる。


 その1本が僕の足に刺さり……あとは視界が真っ黒になった。


 最後に見た景色はミミィがイチロク式の背中に取りつくところだった。右手に茶色の円錐形のものを持っている。形状からすれば理科の実験で使う三角フラスコみたいだが、底部の直径が30センチ以上ありそうな大きなものだった。




 吸着爆雷だ。




 これで勝った、と思ったのが僕の最後の記憶だった。







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