ハッキング
ひっくり返ったイチロク式が起き上がり、攻撃の態勢を整えるのに何秒かかる?
まずインパネに端子がないことを確認。
コントロールを奪われてテロや犯罪に使われることを阻止するには、そもそもウイルスがぎっしり詰まったUSBやSDカードが挿し込めない仕様にしておけば確実だ。
しかし、保守点検はもちろん、別の担当区域に使いたい場合だって出くるだろうし、プログラムの書き換えができないのでは不便で困る。
この場合は無線で接続するのだろう。
どんな回線を使ったところでやっぱりハッキングの可能性は残るのだが、そこはちゃんとコントロールできる自信があるのだ。直接的な手段で乗っ取られることを避け、腕のいいインターネット・セキュリティーの専門家を雇って対応ということ。
しかし、僕は戦艦島のセキュリティーに一つ穴を開けてある。
まともに入学試験を受けても絶対に合格できない高校だから、ネットを駆使して答案用紙を埋めていったのだ。その後も監視カメラや飛行船、無人飛行体の画像をいただくのにも使っている。
探せ、探せ、と脳をフル回転するイメージ。
僕の脳内のパソコンはスペックでいうと10年前の最新型であり現在はジャンク品に近いし、CPUやメモリーの性能を気合とか根性でカバーして処理スピードが上げるなんてことあるわけないのだが。
戦艦島の基幹システムの中にゴミ処理の項目があり、そこを掘っていくと塵芥収集車のプログラムに行き当たった。
すぐ近くの監視カメラの画像を見ると、僕の乗っている塵芥収集車の横には大きく『19』と書かれている。
19号車のプログラムを書き換えるには……いや、短時間では無理だ。
ここでも乗っ取られる可能性を減らすためだろう。
いろいろなルートを通るプログラムから選択するシステムになっている。
どれかを書き直して別のルートを通るようにするとか、選択肢を増やして自分のいきたいところを指定するとか、かなり難易度が高く、僕の能力でも不可能ではないが時間が結構かかる。
そして、いま時間がない。
さらにいうと事前に特定のルートを通るようにプログラムすることはできても、自由に運転できるようにすることはできない仕様だ。
もっとも、操縦席にハンドルもシフトレバーもなく、緊急停止用のブレーキだけは足で踏むペダルも手で押すボタンも備わっているが、足元にはアクセルペダルのない車両をどうやって運転するんだ、という話で、ソフト上だけでなくハード面でも自由に運転することはできないようになっていた。
選べるルートのうち、一番被害が少なそうなのは……いきなり視界がブラックアウトする。
ほんの0・2秒で元に戻るが、緊急事態に緊急事態が重なったようなもの。
しかし、選択肢はもうわかっている。
一番下のプログラムを選んだ。たぶん緊急用なのだろう。すべてのゴミ収集作業をキャンセルして、最短距離&最高速度でZ地区に移動するというものだ。
とにかく最高速度というのが気に入った――もっとも、この車の最高速度は30キロくらいらしいが。
Z地区ならイチロク式がどれだけ暴れたところで周囲に壊れて困るものがあるわけでもないし――僕は除く、だが。
再び視界がブラックアウトして、今度は0・5秒で復旧。
いよいよ僕の脳が本格的に壊れかけている。
残念だが飼育小屋にいくことは断念しよう。
こんなのを連れてサプライズパーティーに参加するわけにはいかない。
ルイにしてもミミィにしても人間としては規格外の戦闘能力を持っているが、素手で戦車を撃破できるわけがない。
機動外殻はジャングルや森林地帯、あるいは細い路地が入り組んだ市街地など、戦車では行動できない場所で、戦車と同等クラスの攻撃力を持つ兵器として開発され、運用されているのだ――そういう開発目的となっている。実戦でどこまで使える兵器かわからないが、都市で人間を相手にする程度なら無双できるだろう。
またしても視界がブラックアウトした。
そして、そのまま復旧することなく目を瞑ったような状態が続く。
脳内のパソコンを再起動させ、同時に視界から切り離す。
これで僕が見ることが出来るのは自前の水晶体がとらえた光景だけ。脳の処理能力も普通の人間より確実に落ちてしまう。
再起動で状態がよくなるかどうかはわからないが、よくなることもある――悪くなることもあるが。
「こんなときに……」
と呟くが、壊れかけを騙し騙し使っているのは僕自身だから文句を言える立場ではなかった。
塵芥収集車はサイズが大型でゴツイ割に電気モーターで駆動しているから普通のトラック用のディーゼルエンジンのような振動もなく、すべるように滑らかに加速するのだが、いまは深いな揺れが何度も襲っている。
イチロク式が機関砲でも撃っているのだろう。
防犯カメラも、無人飛行体も、飛行船も自分の目のかわりに出来ない僕としては運転席で身を小さくして我慢する以外にできることはない。
もし弾が貫通してきてもシートにできるだけ伏せていれば当たる確率が低くなる――当たるときは当たるんだろうが。
急に乗り心地が悪くなり、左によれて元に戻り、左によれて元に戻るような感じになった。
おそらくタイヤが被弾してホイールで走っているのだろう。
それでも、いちおうは道路を走っているのは自動運転の基本システムが優れているからだ。僕が金持ちで投資対象を探しているのなら迷わず八島重工の株を買ってしまうだろう。
しかし、なにが起こっているのか外からの視点がないというのは大変に不便だ。世間の皆様はどうしてこんなので生活できているのだろう?
さらに車体の振動は酷くなって、よれ方が左ばかりでなく蛇行に近くなってきた。複数のタイヤ、ひょっとしたら全部のタイヤが被弾してホイールだけでなんとか走行しているのか――場合によったらホイールすらなくなっている場所もあるかもしれない。
塵芥収集車を乗り捨てるタイミングが近づいてきているのは確実だ。




