逃亡記
機動外殻とまともに戦う方法はない。
戦力差を考えると搦め手とか奇襲みたいな手段がとれたとしても勝てそうにない。
これは詰んだ、と思ったら塵芥収集車が見えた。
人が居住する地区にはこういうサービス車両がよく走っている。
ちょうどゴミを積んで走り出すところらしい。
勢いをつけてトランクを塵芥収集車の荷台に投げ込み、続いて僕も飛び乗る。
臭いが、文句は言えない。
塵芥収集車のいいところは重たいゴミを載せるため、頑丈な鉄でできた荷台ついているところだ。
この戦艦島のゴミ収集は産業廃棄物収集と同義語だから、こんな生活ゴミの処理にしてもダンプカーのような大型で、広い荷台がついた塵芥収集者を使っていた。
装甲厚は戦闘用ほどではないとしても、ちょっとした装甲車や戦車みたいな気分が味わえる。
安全安心、しかも無料でZ地区まで乗せてもらえる。
と思っていたら、たった300メートルで停車してしまった。
日本本土でのゴミ収集は作業員が回転板にゴミ袋を投げ込むが、戦艦島では塵芥収集車についた油圧作動アームが専用の大型ゴミ缶を持ち上げて荷台の上で引っくり返して効率的にゴミ収集ができる仕様になっている。
空から腐敗臭を撒き散らしながら生ゴミが降ってきた。
住宅街だから食べ残した食料品が結構あるのだろう。
工場勤務の作業員に関しては食料は僕たち学生生徒と比較して割引価格になっているし、嗜好品も酒や煙草が少し安く買える特典がある。
安いから残して捨てるというわけでもないだろうが、黒光りしたり、足がいっぱいあるような大量の虫とともに、青カビに覆われて硬くなったものやら、逆にドロドロに溶けたものを頭からバサッと浴びせかけられ、首筋から背中や胸に気持ち悪いものが侵入してきた。
そして、頭上で引っくりかえっていた大型ゴミ缶が下に降りていった。
同時にイチロク式の頭部が現れる。
人間でいえば荷台の中を覗き込んだという感じで、目の位置にあるカメラのレンズが僕の方を向く。
とっさにトランクを体の上に乗せて、盾にした。
ドン! ドン! ドン! と思い音がして、トランクが激しく暴れる。
マウンテンイーグルを抜き、頭部に1マガジン乱射した。
軍用の機動外郭に対して22LRの弾薬なんて鉄板にデコピンする同程度のダメージしか与えられないが、銃口を向けられ、鉛弾が自分に向かって飛んできたら人間は反射的に目をつぶったり、伏せようとしたり、顔を覆ったり、なんらかの回避行動をとってしまう――たとえ、その鉛弾が命中したのがカメラで、それを装甲に囲まれた操縦席でモニター越しに見ているだけだとしても。
たとえAIが補助していたとしても、操縦しているのは人間。
本能的な部分はどうにもならない。
3秒か、5秒か、10秒か。
とにかく時間を稼いだ。
神経パルサーの矢がトランクの表面のFRPで止まったのか、それとも中身を破壊したか、まったく気にならないといったら嘘になるが、そんな時間はない。
荷台から飛び降りた。
イチロク式に襲撃され驚いて運転席から転がり出てきた運転手とぶつかりそうなるが、なんとかかわして僕がかわりに運転席に乗り込んだ。
マニュアルミッションか? オートマか? インパネは光っているし、スピードメーターも〇とデジタル表示されたままだから、始動したままのはずだ。
だが、そこで僕の脳内にクエスチョンマークがいくつも飛びかった。
なにしろ、この運転席にはシフトノブもハンドルもないのだ。
訓練所でちゃんと自動車の運転を学んだのに、これでは手も足も出ない。
こういうときは、まず冷静になれ、と自分に言い聞かせた。
その瞬間、インパネに『前進』や『後退』というボタンがついているのに気づく。
反射的に右手が出て『前進』のボタンを押した。
塵芥収集車はスムーズに走り出す。
が、すぐにドンドンと振動が襲った。
銃撃されてる。
重量物を運搬する関係上、塵芥収集車がかなり頑丈にできているが、戦闘用の車両ではない。いや、正確には基本ベースとなっている車体は軍用トラックのものだが、軍用といっても兵站を担う車両に戦闘能力はないし、防弾効果のある装甲板でかこってあるわけではないから、しばらくは耐えられるだろうが、長くは持たないだろう。
スピードアップのボタンはないか探すが、そんなものは見当たらない。
それならジグザグに走らせれば少しでも攻撃を回避できるかもしれない――がハンドルのない車両をどうやってジグザグ運転すればいいんだ。
バックミラーを見ればイチロク式に追いつかれる寸前だった。
塵芥収集車が停止した。
イチロク式が後ろに激突する。
いきなり停止するなんて僕も予想外だったが、イチロク式の操縦者も思ってもみなかったのだろう。
「なんでいきなり止まるんだよ、走れ、走れ!」
必死になって『前進』のボタンを押すが、今度はピクリとも動かない。
いや、動いている。
この振動と作動音はおそらくモーターと油圧ポンプだ。
窓とミラーに視線を走らせる。
なんと塵芥収集車はゴミ缶の隣に停車して、それを持ち上げ中身を荷台にあけようとしていた。
やっとこの塵芥収集車がどういうものかわかった。
ほとんど自動運転になっていて、あらかじめ決められた道を通って順番にゴミを回収するようにプログラムされているのだ。
インパネを順番に見ていくと『キャンセル』と表記されていたボタンがある。
それを殴りつけて続いて『後進』のボタンにも拳を叩きつけた。
ゴミ缶をつかもうとしていたアームがイチロク式に激突した。
二足歩行の機動外殻は戦車と比較すると重心が高くバランスが悪い。
プロレス技でいうとクローズラインというかラリアットといったほうが通りがいいのか、アームでイチロク式の胸のあたりに打撃を加える形になった。
よし、とりあえず1発いれることには成功した!




