ロボットの正体判明
戦闘用ロボットに出会ったら?
もちろん、全力ダッシュで逃げる。
パンパンと破裂音が追いかけてきて、すぐに僕を追い抜く。
銃声――というより砲声といったほうがいいような大口径の火器による攻撃だ。
自分の両目にプラスして、周囲の防犯カメラの画像も取り込んで高速演算する僕の脳なら攻撃のモーションから弾道を予測して発射前から回避行動に移ることも可能だ。
だが。
滑るような挙動で追ってきて、それどころか先回りしようとする。
僕を追い越すか、場合によっては踏みつぶしてもかまわないという勢いだ。
アスファルトの上を単体だと3メートルはあるような鋼鉄製の両足で歩行しているとは信じられない。
右肩をかすめるように戦闘用ロボットが通り過ぎた瞬間、僕は急停止して、いまきた道を駆け戻ろうとする。慣性のついたトランクがブレーキの役目をするが、強引にひっぱる。
これはヤバい。
とんでもなく危険なにおいがプンプンしてきた。
攻撃力も機動力も一級品。
機動外殻としては最大級といえるサイズ。
なのに、鈍重なところはどこにもない。いったい、こんな危険なもののどのあたりがロマン兵器なのか?
しかも操縦者は人を殺すことを躊躇わないようだった。
電話の呼び出し音が聞こえてきたので、両足を最大スピードで前後させながら、左手で大きなトランクを引き、右手で折り畳みの携帯電話を開いて会話してみた。
「いまどこにいるの? メールは見た? 見たなら返事くらいよこしなさいよ」
「見たけど、返信している時間がなかった、ゴメン」
「なによ、それ。どんだけ忙しいのよ」
「ちょっと見てもらいたい動画があるんだけど」
早口でURLとIDとパスワードを伝える。
15のアルファベットと20の数字をランダムに組み合わせたパスワードだが、遺伝子強化体で人類の限界性能の頭脳と思考能力を持っているルイなら暗記できるし、そこを見てもらいたいということも伝わったはず。
僕にとってはキャッシュカードの暗証番号を他人に教えるより抵抗がある、絶対にやってはいけないことの1つだが、サプライズの誕生パーティーが葬式になるよりはマシだ。
「なにこれ? 帽子をかぶってるわけじゃないよね」
飼育委員に支給される帽子に仕込んだ小型カメラの画像とは比較にならない情報量のはず。
しかも、走りながらの画像だからブレているんだけど、見ているものの中心はピントが外れることはない。
人間の目はかなり高性能にできているのだ。
僕の視界はそのままデジタル映像として脳内のパソコンに流れ込み、ネット回線でクラウドに運ばれて保存される。
もちろん、それはパソコンやタブレットといった別の端末でも閲覧可能だ。
さっきルイに教えたのは、そのクラウドのある場所と、アクセスするために必要なIDやパスワード。
「コンペが追いかけられているのはイチロク式ね」
そして、ルイもURLを口にした。
瞬時に僕の脳内のパソコンがネットの情報を吸い上げる。
どうやら八島重工のロボット研究者たちが集まる非公式のフォーラムみたいだ。
問題の機動外殻の画像も貼られていた。
戦闘用ロボットのクラスとしてはⅢ級。
個人への販売は不可。
納入先は各国政府――もっといえば軍のみ。
機体番号は厳密に管理され、紛争地帯への販売譲渡も原則禁止されている。
警備用ではなく、ガチな戦闘用であり、軍用であり、戦車や戦闘機と同等以上の戦闘能力を持ち、マイナス40から200度まで、どんな過酷な環境でも運用できる地上戦用の機動外殻であり、オプションで宇宙戦も戦える……どんだけ盛った万能戦闘用ロボなんだか。
さらに気になる話題として、盗難に遭ったが会社が緘口令を敷いて事件をもみ消したとある。
もちろん犯人は不明。
こういうときお約束だね!
「捕まえたところで、どうせ廃棄予定のコンテナかなにかに詰めて処理されちゃうよね? 犯人は永遠に不明のまま」
いちおう確認しておく。
しかし、ルイは即座に否定した。
『処理したのなら、処理したという噂が流れるけど、今回はそれもない』
「盗まれたこと自体を隠蔽するのなら、窃盗犯がいては困るんじゃないか? だから、なにもなかったことになっている。噂も含めてね、でないと隠蔽工作にならないだろ」
『いや、処理したという噂は大事。隠蔽の証拠を残すのはマズいけど、似たような小遣い稼ぎをしようとする馬鹿が出てこないようにするのはもっと大事だから。例えば……どこかの馬鹿が手を出してはいけないものに手を出して、ファーストが動いた。どこの馬鹿で、なにに手を出したか知らないし、どんな死に方をしたかはもっと知りたくない、というような噂が抑止力になってくれるのよ』
「いま僕の後ろにいるのが盗まれた奴ということでいいんだよね?」
『知らないわよ、そんなの。でも、たぶんそうなんじゃない?』
「いきなり実弾を撃ってきたんだ」
『まあ、軍用だし、当然なんじゃない?』
「街中だぞ! 軍用だと非致死性の弾は積んでないのか?」
『うーん、と……非致死性の弾も少しは装備してるみたいよ、神経パルサーとか』
「それって痛覚神経を刺激して、別に怪我してないのに痛みを感じさせる奴だよね? 気絶するまで全身に激痛が走ってのた打ちまわることになるじゃないか!」
『ううん、その機動外殻が装備してるのは軍用だから痛覚増幅&気絶したくてもさせてもらえない仕様みたいね。のた打ちまわる程度で軽く済んだらいいけど、あまりに痛すぎて脳が焼き切れちゃう場合も結構あるらしい』
「それ、どういう状態なの?」
『どうしても1+1が2だって理解できなくなるレベル』
「非致死だったとしても、非人道的すぎるだろ。いっそ楽に殺してくださいという仕様じゃないか!」
『ご飯を食べるより難しいことを考えたら頭の中がワーッってなるらしいわね』
「メシのことしか考えられないって、非人道的というレベルを超えちゃってるだろ!」
電話がプツンと切れる。
圧縮空気の発する炸裂音を耳にしながら、僕は道路の上を転がった。
いままで体があった場所に矢がブスブスと刺さって、火花を散らす。
おいおい、なんだよ、この矢、
と冷や汗が流れてくる。アスファルトにズブズブとに刺さってしまうのだ、神経パルサーが流れないとしても充分に凶悪な凶器だろ。
こんな太い矢が刺さるくらいなら、いっそ鉛弾のほうが小さく軽い分だけ怪我が軽く済んだり、死ぬ可能性が低くなるような気さえする。
振り返ってイチロク式の頭部のカメラが見えたとき、あれを乗っ取れないかと思った。
なんなら操縦系統全部乗っ取ってしまえば早いんだけど――付近の電波をざっと探ってもイチロク式に送受信しているらしい波はとらえることができなかった。
いまどきの軍用兵器、しかも制御がかなり難しいものをパソコンなしで動かすということはありえない。
スペックからすると操縦手が1名、乗り込んでいるはずなのだが、全部を人間の手でおこなうわけがないだろう。
基本的には人間が操縦し、AIがサポートする形式だろうか。
外部への通信を切っているのか、普通とはかなり違った方法でネットワークにつないでいるのか、なんとかコンピューター部分に触れれば勝ち筋もでてくるのだけれど。




