予備計画(プランB)発動
うさんくさいかな、と最初から感じていた仕事がプンプン臭い出したからといって、なにも慌てる必要はない。
こんなの想定内だ……なんてクールに決めることができればかっこいいのだけれど。
クールな男はイケメンが演じてこそ、だ。
僕がイキってみてもギャグにしかならないので、ここはすぐに応援を呼びたいところ。
危ないときには、ちゃんと助けて、と泣きつくのが僕のやり方。
しかし、そろそろ昼食会は終わったのかな? 終わっているのなら飼育委員会のキューマルをまわしてもらうことも可能だが――いやいや、やっぱりやめておこう。
予備計画(プランB)はどうしようかな?
飼育小屋から持ち出したのは拳銃だけでなく、万能キーもだ。
ピッとボタンを押すだけで電子錠はたいてい開けることができるから、どこかの部屋に隠れることもできるし、自動車を盗むことだって簡単だ。
さすがファーストと呼ばれるルイに元々は支給されていた万能キーだけあって八島重工の関連車両だけでなく、八島警備保障のパトロールカーや装甲車でもドアを開けた上でエンジンをかけることができる――と彼女から聞いている。
さすがに自分で試したことはないが。
悪用厳禁とルイに厳しく言い渡されている万能キーだが、この場面で使うのなら許されるだろう。
ただひとつ問題があるとすれば、どこの鍵を開ければ僕の助けになるかわからないところだけだ。
A地区を抜けてB地区に入る。
工場勤務の作業員たちの宿舎ばかり集まった地区だから、出勤退勤の時間だけは道に人が溢れるが、いまは誰もいない。
いたところで助けを求めるわけにはいかないし、求めたところで相手が困るだけだ。エアツールや電動ドライバーを扱うのはプロフェッショナルでも拳銃なんて撃ったこともない人ばかりだろうし――似たような形してるんだけどね。
今週夜勤の人たちが部屋で寝てると思うが、工場の勤怠表にアクセスして昼勤の人の名前と、社員名簿から住所を割り出す。一番近いアパートに行き、万能キーで不法侵入して身を隠そうとしかけて携帯電話に3通のメールが着信していることに気づいた。
ルイから『18時に飼育小屋にきて』と用件のみの簡素なもの。
ミミィから『ぱてーやるぞ。さぷらいずぱてー。さぷらいずってなんだ?』と意味不明なもの。
もう1通きてて、こっちは『さっきのはなしね。ひみつだって。すぐにわすれて』と無理なお願い。
ぱてーとは? ネットで検索しても出てこないミミィ用語。
さぷらいずのほうはSurpriseだろう。不意打ちとか、なんとか、そんな意味だが、日本ではびっくりさせる嬉しい計画みたいな感じだろうか。
ミミィからの2通目にある秘密とも整合性がある。
そういえば今日は僕の誕生日だ。
つまりサプライズの誕生日パーティーが開催される、とそういうこと?
飼育小屋から閉め出されていたのは、こういうこと?
誰もいなかったのではなく、こっそり秘密のパーティーの用意をしていた?
18時まで残り時間は30分もない。しかし、いかないという選択肢もない。
いっそトランクなんか捨てて身軽になって全力ダッシュで会場となる飼育小屋にいきたいところだが、まさか生徒会を介して紹介されたアルバイトを途中放棄するわけにはいかないだろう。
しかも、その理由がサプライズの誕生パーティーに参加するため、なんてエイト会長に言ったら殺されかねない。
ルイにしたところで渋い顔をするだろう。
トランクの届ける期限は明日の17時だからパーティーを楽しんで、それから出かけても充分に間に合う。
ここらへんのB地区は安普請のマンションが立ち並ぶ地域で住んでいる人は多くても、道路は通勤時間以外に人影を見ることは少ない。
防犯カメラや、上空を無人飛行体が旋回して警戒している戦艦島で目撃者の有無もいまさらだけど、犯罪心理学的には目撃者の多いところでは違法な行為をしにくい。
もし選べるなら人通りの少ない場所にするはず。
それに繁華街に出たほうがバスの便もいいし、タクシーも通るから学校に戻るのに便利。
のはずが。
B地区のはずれ。もうすぐC地区というところで戦闘用ロボットに捕捉されてしまった。
八島重工で製造しているものは『機動外殻』と呼ばれているシリーズだが、wikiによると2足から8足で歩行し、機関砲や、擲弾発射器や誘導噴進弾などで重装備したものから、ゴム弾頭や催涙弾を撃ち出す警備用まで各種製造しているらしい。
また、八島警備保障も似たようなものを装備しているが、ここまでの大型機ではない――海外で表沙汰にできない作戦をやっている連中がどんなものを使っているかは知らない。
法執行機関といういより軍用モデルのように見える。ざっと脳内で画像検索をかけると――ヒットなし。
まさか八島重工製以外の戦闘用ロボットがこんなところにあるとは思えないんだが……普通なら不完全なものであったとしても、どこかに情報があるはずだ。
試作機か、特殊部隊専用の秘密の機体とか。
頭のいい連中の集まっている戦艦島でも、さすがに工作の好きな子供が夏休みの自由研究で個人で作れるようなものではないし。
そもそも兵器を2足歩行させるメリットは薄い。全高が低いほうが敵に発見される確率が少なくなるし、撃たれても直撃を食らう可能性も低いのだから。
重心が低いほうが大砲などを搭載したときに安定するし、発射の反動にしても重心が低ければ低いだけ制御が易しくなる。
せめて服のように着て戦うパワードスーツみたいなものなら、人間以上の機動力や腕力がある上に、武器も人間用を使いまわしできるし、防弾能力も高くできるので死傷率を下げられるのだが……この機動外殻シリーズは軍事の専門家からは八島重工製のロマン兵器などと揶揄されているという噂。
しかし、はっきり言おう。見た瞬間、絶望に囚われる――こんなのと戦って勝てる気がしない。




