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お見舞い



 僕たちが病室に入ったとき、ちょうどルイは電話をしていた。


 希少な遺伝子強化体ということで10畳はあるような広い個室をあたえられていて、高級そうなベッドに、50インチはあるテレビや、最新型のパソコンなど、快適に過ごせるようになっていた。


「だから、ミミィは死んでるでしょうが。それとも現場で死体を確認できなかったの? あったよね――ちょっと待って。いま本人がきた」


 そう言ってルイはスマホを耳から外し、僕たちのほうを向き直った。ミミィを金銀の両目でしっかり見詰めると、人差し指を唇に置く。


「今朝、手配犯を捕まえたらしいけど」


 どうやらミミィはしゃべるの禁止のようなので、僕が答える。


「お見舞いの資金を稼いだんだけど?」


 コンビニのロゴが入ったレジ袋を掲げた。


 そのとたん手配犯の報奨金としては缶詰とインスタント食品オンリーはどうだろうかとか、入院患者なのだから保存食より新鮮な果物だよな普通はとか、バラ100本でないとしても部屋にちょっと飾る程度のものは持ってきたほうがよかったかもしれないとか、急に恥ずかしくなってくる。


 明日はもう少しお見舞いらしい品物を選ぼう、と決意してみました。


「コンペが捕まえたのよね?」


 疑問形だが、すごい圧のある言葉遣いだった。


 間違いないよな、違うって言ったら殺す、と行間に殺意があふれている。


 さっきミミィに口を開くなと命じていたところからすると、電話の相手は生徒会だろうか。


「お見舞いにくる途中に転がってたから、拾っておいた」


 僕の言葉をそのまま電話口に伝える。


 そして、相手の返事を僕に伝える。


「歩いてて手配犯を簡単に捕まえるとは、ものすごく運がいいのか?」


「隠されていた才能が発現したといってもらいたいな。意外と鼻が利くんだよ、これでも」


「ミミィの鼻を再評価しているところだった。このところの遭遇エンカウント率からすると、ミミィには防諜活動カウンターインテリジェンスの才能があったと、評価を上方修正すべきという意見もある……いまとなっては、すべて過去形だがね。死んでしまったものはしょうがない。もともと廃棄処理されていた実験動物だから文句も言いようがないし」


「それに対しては僕があれこれ言う資格や権利はないですから。ただ、どっちがホームズで、どっちがワトスンかは不明ですが、きっと名探偵が事件に巻き込まれる確率のようなものかもしれないですよね。警視庁の捜査1課の刑事だって生涯にこんな件数の殺人試験にはかかわらないだろう、という勢いで事件に巻き込まれますからね、名探偵って……そして、これもまた過去形で語るべきことなんでしょうね」


「佐藤くんだけでも生きていてくれて、以前と同じく道を歩いているだけで指名手配犯と出くわす稀有な才能があると、今日さっそく証明してくれたんだ、それで満足しておこう。日本本土で普通の高校生やるんじゃなくて、この戦艦島にようこそ、だ。生徒会としても大歓迎する」


 そこまで言ってルイは電話を切った。コンペのことを見込んで仕事を頼みたいらしいよ、と付け加える。


「名指しで仕事というのなら普通よりギャラいいよね?」


「こんなガメツイ奴だとは思わなかったわ」


 わざとらしくため息をつくルイ。


 だが、ここは僕としては譲れないところだ。別にお金のことばかり考えているわけではないし、ましてやガメツイなんてとんでもない。


「僕は自分が贅沢したくて報奨金を稼いだことは一度もないぞ。男女同権の現在では時代遅れな考え方かもしれないけど、お父さんは一家の大黒柱なんだから、みんなが不自由しないように稼いでいるだけで」


「自分が贅沢しなくても、ミミィに贅沢させ過ぎるんだから!」


「それは戦艦島の物価がおかしいんだろ。わんこのおやつが高すぎるんだ」


「ああいうものは食べ物というより半分オモチャよ。栄養がとれて、おいしくて、それでいて安いものを食べさせないと」


「そんな都合のいいものあるの?」


「自分で買ってきてるじゃない」


 ルイは僕のぶらさげているレジ袋を指した。ラーメンやスープは食べたことあるから、缶詰のことだろうか?


 僕がレジ袋から鶏頭水煮を取り出すと、ミミィの目が吸い寄せられるように缶に注がれた。


「ダディー、たべよう」


 待ち切れないように腕をつかんで引っ張ってくる。


 ミミィにとってはじゃれついているだけでも、僕のほうは踏ん張らないと床に倒されてしまいそうな勢いだ。


 缶の中身は茶色の謎めいた物体だった。


 ミミィはポイと口の中に放り込んで、パキパキと食べはじめる。


 その音はどう聞いても骨を噛み砕くものだ。


 僕も1つ手に取ってみた。


 なんだ、コレ? というのが率直な感想。


 本当になんだろうね、見たことないし、味も予想がつかない――と思ったとき、自分が見ているものがわかった。


 本来なら真っ赤なはずの鶏冠が色が抜けたようになっているから気づかなかったが、商品名そのままだ。


 鶏頭水煮。


 1缶に煮た鶏の頭だけが5、6個入っている。


 この世の中に、まさかこんな缶詰があるとは。


 というか、体のほうはどこへいってしまったの?


 頭だけで缶詰にするほど需要があるの?


 誰が買うの?




 もちろん、ミミィを除く。一般的な需要の話として。









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