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突入の後




 突入してみると、そこで待っていたのは爆風だった。


「ルイ! ミミィ!」


 勢いよく階段を駆け下りていたはずなのに、その勢いを殺すどころか後ろに吹き飛ばされた。


 なにが起きたのだろう?


 僕は拳銃マウンテンイーグルしか持ってきてないが、ルイやミミィが手榴弾グレネードを装備に加えていてもおかしくはない。


 しかし、あの2人が地下の密閉空間で爆発物なんか使うだろうか――まあ、普通は使わないけど、あの2人ならアリといえばアリかも。


 ルイは他の人間が死ぬような場面でも自分だけは生き残れると信じているところがあるし、ミミィは馬鹿だし。


 いや、いや、この作戦では標的の捕縛は優先順位のかなり上位だ。


 殺害は失敗とイコールの関係とすらいえる。


 後で尋問できさえすれば、手足を銃で撃つ程度は許されるとして、手榴弾でドカン! はやりすぎ。


 ここがアジトだとすれば貴重な情報が詰まったパソコンや記憶媒体も失ってしまう可能性も高いし、書類も燃えてしまう。


 それどころか鑑識が床に掃除機をかけて微細証拠を収集しても、ほとんど無意味になってしまう可能性すらある。


 だいたい敵の拠点を制圧して、合流しようとやってくる仲間を待ち伏せする作戦だったはず。


 こんな騒ぎを起こしたら逃げられてしまうではないか。


 煙の中からミミィが出てきた。



 なにかを抱えている。




 人のようだ。




 鈴木英子さんを確保したのかと思ったら、その抱えられている人が顔を上げた。


 金と銀の瞳はルイのものだ。


 しかし、ぼんやりとピントを結んでいるのかも危うい視線は僕が今まで見たことないものだった。


「マミーがとびかかったら、ひもひっぱった。そしたら、どかん」


 くやしそうにミミィは訴える。


 鈴木英子さんは爆弾帯シャヒドベルトを体に巻いていたのだろう。万一のときは自爆を覚悟で取引に望み、僕たちは彼女がそこまでの覚悟をかためているとは予想してなかった。


 結果としては鈴木英子さんは死亡し、マダラの遺体を持ち去られることもなかったのだが、勝負としてみたら僕たちの完敗だ。


「マミーは? 生きてはいるようだけど」


「あいつがひもをひっぱったとき、うしろにとんだけど、ちょっとまきこまれた。たぶん、おいしいものをたべたらなおる」


 どうやらルイは飛びかかって、急制動をかけて、反対方向に飛ぶという、およそ人間離れした反射神経と運動能力で直撃は免れたらしい。


 しかし、狭い密閉空間ゆえにダメージゼロとはいかなかったようだ。


 それからミミィ、いまルイに必要なのは治療や投薬でカロリーではない!


「あとは生徒会に丸投げして、僕たちは撤収しよう」


 これが日本の本土ならスマホで動画を撮っている野次馬がすでに何人も集まっているところだが、危機意識の強い戦艦島の住人たちは銃声や爆発音がしたらまずは逃げる。SNSにアップしたら評判になりそうな動画を撮るのは、自分の安全が完全に確保されたと確信した後だ。


 しかし、そうやって稼げる時間は数分から、長くて五分というところだろう。


 2人を連れてキューマルに乗り込む。


 同時にサナエに頼んでエイト会長に電話をつないでもらった。


 ここの住所と、作戦は失敗して標的は自爆したことを伝える。


 すぐに該当ビル周辺を封鎖するから、そこから脱出するようにとエイト会長は言った。


「後は灰掻き連中の仕事だ。結果が結果だから、よくやったと褒めるわけにはいかないが、飼育委員会に任せてコレならしょうがない、御苦労さん」


 通話が終わったときには、H地区の病院に向けてキューマルは走りはじめていた。


 ルイの場合、検査にしても、負傷や病気を診てもらうのでも、研究所のほうになるので普通の病院があるB地区ではなく、各種の研究所が集まっているH地区になるのだ。


 ルイは精密検査を受ける必要があるだろう。


 外傷を負っているようには見えないが、まさか僕が服を全部脱がして調べるわけにはいかないし、頭を打っている可能性もある。まだ爆発というのは強い衝撃を全身に受けるから、場合によっては内臓を損傷していることもあるのだ。


 今回ばかりは、さすがに100円ショップのソーイングキットで済ますのは無理。


 医者にルイを引き渡した後、僕たちは飼育委員会の部屋に戻ってきた。


 キューマルを車庫にしまったところで今日の全作戦は終了なのだが、だからといって高揚感のようなものはまったくなかった。


 ミミィもかなり暗い顔をしている。


「なあ、ミミィ。マミーは精密検査だから、何日かは入院すると思う。つまりダディーとミミィはお見舞いにいかなければならない」


「おいしいものをもって?」


「そう。おいしいものを持って。だが、ダディーはあまりお金がないし、今日の作戦もほとんど失敗だったようなものだから、報酬はあまりないだろうし、おいしいものはたいてい高い」


「それはこまった!」


「本当に困ったよ……」


「かりだ!」


 ミミィの意識は楽しい狩りのことで一杯になり、今日の失敗のことはすっかり忘れている。


「いや、狩りはしばらくやめておこう」


「なんで?」


「僕たちは目立ちすぎた。マミィに怒られたよ。いや、本当は怒りたいんだけど、あまりキツいことも言えない感じだったな」


 遠慮しないでいいと僕のほうは思うのだけれど、むこうは遠慮してしまうのだろう。


 そして、僕のほうもきっとルイにいろいろ遠慮している。


「値段は安くても、喜んでくれるものはきっとあるよ」


「やすくて、おいしいもの!」


 いや、だからお見舞いの品は別に食べ物でなくてもいいんだよ。











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