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追跡



 キューマルのダッシュボードに設置されたモニターに鈴木英子さんの後ろ姿が映っている。


 僕はかなり注目して、トールは運転しながらチラチラとモニターを見ていた。


 ルイがうまく尾行しているようだ。


 その隣のモニターは画面が上下左右にブレまくりで、まともに尾行になっているのかも怪しい印象だが、仕事に関してミミィはかなり真剣に取り組むから大丈夫だろう。


 あの糞ダサい委員会のベースボールキャップに仕込んだカメラはサイズの割りに性能がいいようだ。


 通信状況も上々。そこそこ見られる動画を送ってくる。


 しかし、いままでは練習問題みたいなもので、本番はここから。


 Z地区を出ると、こんな夜中でも人の姿がどんどん増えていく。


 交代勤務なのか、残業なのか、作業着のまま歩いている人も多い。


 顔が割れている僕と、足が悪くて尾行に向かないトールはキューマルの中でモニター越しに見守るしかないのだが、ルイにとってもミミィにとっても手慣れた仕事らしく、危なげなく進めていく。


 かなり距離をとっているので尾行対象者に気づかれている様子もない。


 普通なら距離をとればとるだけ見失うリスクも上がるのだが、視覚で失中ロストしてもミミィが臭跡を辿るだけだ。


 尾行対象者は高架モノレールの駅に入っていく。


 ルイのカメラは改札を抜けていく様子を伝えてくる。


 ミミィから送られてくる動画はブレブレ。


 帽子の内部に組み込めるサイズだが、最新技術が詰まっていて、高性能な手振れ補正機能がついているはずなのに、見てると目がまわりそう。目で酔うアルコールみたいな動画だ。


 あるいは一種のデジタルドラッグ。


 高架をよじ登り、モノレールの屋根に飛び移る。


 そこで、やっと画像が安定した。というか、そこで初めてミミィが駅もエスカレーターもホームも使わずにモノレールに乗ったことがわかった――やっと世界が止まって見えるようになって、これなに? と首を傾げてしばらく考えてやっとモノレールの屋根だと思いついたわけだ。


 頭脳を一切使わず、純粋に肉体フィジカルだけで無賃乗車をすると、こういう形になるらしい。はじめて知ったよ。


 1駅、2駅。下車した客の中に鈴木英子さんの姿はない。


 3駅、4駅……そして5駅目。やっと鈴木英子さんはモノレールから降りた。


 ここはオフィス街だ。八島重工の本社もあれば、関連の会社の八島警備保障などのビルもある。


 取引先で支社や出張所などを設けている会社もあり、面積は狭いものの人口密度は戦艦島でも有数の高さだ。


 鈴木英子さんは駅から徒歩5分くらいの小さなビルに入っていった。見たところ戦艦島の初期からありそうな古びた外見で、各階に看板が出ているところからすると1軒の会社の所有ではなく、雑居ビルのようなものだろう。


「第22八島ビル。この島にはよくある八島地所所有の賃貸物件です。各階が30平米の部屋で、現在はすべて貸し出し中。1階がサボルナ、喫茶店となっている。2階が平岩金属、ボルトやナットを納入しているメーカーになります。3階が富士理科、ビーカーやフラスコみたいな理科実験器具の納入メーカー。4階は新栄ベアリング、ボールベアリングを納入している。5階が――」


 キューマルのスピーカーから聞きなれたエロボイスが聞こえる。


 ルイのAIを作ろうというプロジェクトで生まれ、現在は飼育委員会専用キューマルに搭載されているサナエだ。情報収集だけでなく、自動運転もできるので、実に便利だ。


 しかし、なんでルイのAIに深窓ふみのエロボイスを使ったのかは知らない。


 今回もすぐに該当のビルの情報をモニターに表示して読み上げるが、それを途中でルイの声が遮った。喉マイクを通して「地下は?」とスピーカーに届く。


「グレーダル商会。武器の流通業者。販売店ガンショップというより、武器商人ウエポンディーラーというのが似合うような、あちこちで自動小銃を千挺とか弾薬10万発みたいな小規模の売買やってるような会社です」


 早速サナエは瞬時に必要な情報をネットの海からすくい上げた。


幽霊会社ゴーストカンパニーかもしれない。ウェブ上では商業活動をしているように見えるが、実際の取引があったかは疑わしい。まあ、武器商人がかかわる取引なんて売り手も買い手も隠したいだろうから、売買の実態が見えにくいだけかもしれないが」


「だけど、鈴木英子さんの目的地がここというのなら、武器商人は偽装カバーだろうね。戦艦島で怪しげな武器商人がオフィスを借りたとしても、誰も不審に思ったりはしないし。こんな賃料の安そうな、古くて小さな雑居ビルの地下なら特に」


 僕が口を挟むと、スピーカーから「そうね」と同意するルイの声が聞こえてきた。


「突入して制圧する。サナエ、地下に熱源はいくつ?」


「35度から40度の温度帯は1」


「了解。ミミィ、敵は1人。素早く制圧して、室内で仲間がやってくるのを待つ」


「僕も行く」


 ちょっと待て、と声をかけるが、早ければ早いほど奇襲の強みが出るとルイは言い捨てた。


 彼女のカメラが地下室に続く階段を駆け下りていく様子が映った。


 同時にミミィのカメラが激しくブレる。ブレる。


 しかし、それを見て脳内でブレ補正して状況を判断している場合ではない。


 こんなもの、そこにいってみればいいだけの話。


 キューマルから転げるように飛び出し、僕も地下室に向かって全力疾走する。


 ルイとミミィがすでに突入しているのなら、ほとんど制圧できているはず。


 階段を2段飛ばしで突っ込んでも撃たれたり、刺されたり、待ち伏せされる危険はない……と思いたい。


 だが、僕を待っていたのは猛烈な爆風だった。









ブクマありがとうございます

ちょっとランキングにものってたみたいですね

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