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作戦準備はOK



 ミミィをさらって連れていくから100万ドル用意しておけよ、とハリウッド製のギャング映画っぽい雰囲気で電話したのに、鈴木英子さんは簡素に時間と場所だけ伝えてきた。


「明日の夜、Z地区の奥に鉄塔があるから、そこの下で。いい?」


「うん、わかる……と思う」


 確かルイと最初に会ったとき、元はなにに使われたのか不明だが巨大な送電鉄塔のようなものが捨ててあったことを覚えてる。


 たぶん鉄製だからリサイクルは容易なはずで、いまも捨てられたままになっているかは不明だが――鈴木英子さんが指定してきたということは、まだそのままなんだろう。


「明日の夜に作戦開始だ……って、どういう作戦にするんだ?」


 そういえば肝心なことを話し合ってなかった。


 本当はいけないことなんだけど、ルイのようにパフォーマンスの高い人材がいると「まあ、適当に出たとこ勝負でもなんとかなるんじゃね?」みたいな発想になってしまう。


 どうもルイが誰かに対して苦戦するところを想像できないし、もしそういうありえないことがあったとしてもミミィを投入すればどれだけ不利な戦況でも引っくり返せるだろうし――それでも不足なら微力ながらぼくも参戦すればいい。謙遜ではなく本当に微力しかないところが情けないが。


「適当な身代わりは用意するから、その犬を連れてコンペは約束の時間に、約束の場所にいって。ジブンたちが周辺警戒をする。それでいい?」


 形式としては質問だけど、口調は決定、反論不可、御意見無用。


 それで平気と言えば嘘になる。


 淋しく、悲しい気分が心の底をじわじわと侵食してくる。


 しかし、ルイだけを責めるわけにはいかない。


 僕が信用されてないから、一言の相談もなく作戦が決まってしまい、その内容も詳細も全貌も教えてくれないのだ。


 ただ、相手か指定して時間場所にいくだけ。


 使い走り(パシリ)やデコイと変わらない。本当の家族にはなってないし、こんなのは家族ゴッコですらないと思う。


 まあ、あのとき拒否したのは僕のほうだから。


 いろいろ事情があるのだが、こうなってみると、つまらない言い訳にしかならない。


 僕のいないところで、ルイが誰とどんな相談や交渉をしたのか知らないが、ちゃんと準備は完了しているようで、授業後に飼育小屋までくるようにというメールがルイから届いた。


「はい、帽子かぶって。電波状況は良好。映像は問題なく送られてくる。あとシャツはこっちで用意ものに着替えて。真っ黒に見えるけど赤外線を照射すると光って目立つから。もちろん、もし敵が暗視装置ナイトビジョンを装備してたら脱ぎ捨ててもらっていいから」


「脱ぎ捨てるって……それなら下に迷彩のシャツでも着たほうがいい?」


「普通の人間の目を誤魔化す程度の効果しかないシャツと、裸と、どう違うのかという問題が解けないの?」


「いや、裸は注目を浴びるだろ。関係ない一般人にも不審がられて緊急通報されるぞ」


「八島警備保障には通告済。ジブンたちの獲物に手を出すなと言ってあるから、もし緊急通報があったとしても動かない。だから、全裸でもかまわない」


「僕のほうがかまうよ。シャツを脱ぎ棄てるついでにパンツまで脱ぐ意味がわからないし」


「あら、チャンスがあったら脱ぎたがるタイプだと思ってたのに、意外ね」


「お笑い芸人じゃないんだから」


「緊張してないみたいで悪くない」


 ルイはいきなり話題を変えて、僕の肩をポンポンと叩いた。どうやら僕が固くなってないか試したらしい。


 そういうことなら今度はウケ狙いのシャツでも買ってこようか。


 命がけのヤバい仕事をしているときに『働いたら負け』と大きくプリントしたものを着てくるとか。全裸にしか見えない美少女イラストや、ムキムキの筋肉でも、なんでもいいが――一瞥もせず、さっくり無視されると逆にダメージでかいか?


 どうでもいい妄想をしていられたのだから、本当に緊張してなかったのだろう。


 あるいは本当にルイの軽口がほぐしてくれたのか。


「はい、これがミミィね」

 

 マネキンが安く買える店はどこだろう? と相談したら、ルイのほうで用意してくれたのだ。

 

 ミミィそっくりの等身大フィギュアって、どんな感じかと見てみたら。





 包んである布をとった瞬間、全身が冷気にさらされたかのように体温が一気に下がった。




 それは本物の死骸だった。



 両手がガタガタと震える。




 死骸に嫌悪感があるわけではない。




 嫌悪感なんて。




 なにしろ、それは冷たくなったミミィそっくりの。







 マダラだった。



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