その対策(その2)
鈴木英子さんの話をすると、うーーーん、とエイト会長は唸った。
指先や目があちこちに動いて、1人でコントか芝居でもやっているような雰囲気だ。
「知ってて、わざと仕掛けてきたと仮定して場合、なにが目的になるんだ? いや、それ自体が罠で、こっちを誘導しているとも考えられないこともないわけで……しかし、それが罠だとしたら、相手の狙いとしては、俺たちにミミィを欲しがっていると思い込ませるということになるか……その場合、敵がミミィのことを欲しがっていると俺が勘違いすると、どんなメリットが発生するんだ? ちょっと待て、まず佐藤くんが巻き込まれた理由から考えたほうが、この問題はすっきり解決するかもしれない」
もはやすっきり解決する道はないと僕は思うんだけど。しかも、その道を閉ざしたのはエイト会長自身じゃないのかな、コレ。
「ルイはどう思う?」
「まず、なにかあったら学校の帽子をかぶること。録画録音できて、この場合だと鈴木英子と名乗った女子の顔がわかったし、その話しぶりや態度から引っかけとか罠とか、そういうのも推測できた可能性がある」
「そこからか」
「校内で学校の帽子をかぶっていて変じゃないと思うけど」
「でも、あれは委員会用の作業帽だろ? 授業中や休み時間にかぶってたら変だよ。まあ、ちょっとした隙間時間でも動物の世話をしようとする、真面目な飼育委員に見えるかもしれないけど」
しかたなく話を合わせておくが、あの帽子はあまりにもセンスがない。
どうせなら積極的にかぶりたくないようなかっこいい帽子にすればいいのに。
「それから不審な出来事があったら、すぐにジブンに連絡すること。わんこのおやつを買うかどうか迷ったときは電話してきて、こんなときは相談なしってどういうこと?」
「最初はモルモットが欲しいとか、そんな程度だと思ったんだよ……」
「どうせかわいい女の子だったんでしょ、そのうち色仕掛け(ハニートラップ)に引っかかって命を落す未来が見えるわ」
不機嫌そうなルイの声にかぶせるようにエイト先輩が口をはさむ。
「今回の買収と同じくハニートラップも報告さえしてくれれば、いただきますOKだから。相手の女に渡す偽情報もちゃんと用意する。金をもらった場合は作戦終了後生徒会が回収するが、返しようのないものはしょうがないからな。おいしいぞ、ハニートラップ!」
「いや、いちおう嫁と娘のいる立場なんで、他の女の子のことなんか――」
踝が砕けそうな衝撃。
ルイのローキックは見えない速さだった。
「うがっ!」
「コンペに嫁なんかいない」
「あー、確かにいませんでした」
このやりとりを見ていてたエイト会長が急に叫んだ。
そして、いいこと思いついた、という感じにニヤリと笑う。
つまり悪いことを思いついたのだろう。
「実験動物を間に挟むと、そういう関係になるわけだ。気づかなくて失礼! そして、おめでとう。これは早いところ問題を片づけよう。具体的には今月の終わりまでには戦艦島も八島高校も平穏といえる状態にして、来月には具体的な計画を立てて、夏休みに心置きなく休暇がとれるようにしておかないとな。君たちが新婚旅行にいけるように」
「えっ! 新婚旅行?」
「そう、佐藤君、新婚旅行だよ。心配しなくても結婚祝いとして旅費はちゃんと生徒会の経費で落すから」
「いえ、そういうわけには……」
「遠慮は無用だ。敵から没収した金が結構たまってるんだ、派手に使ってくれて構わない」
「えっ、それ、いいんですか? なんか泥棒というか、横領というか」
「ちゃんと了解をもらっているよ、失礼な!」
「だって、没収した金を勝手に使うなんて、ちょっとおかしくないですか?」
「どこから金を出してもらったり、使ったときに報告すると、その記録が残る。でも、記録に残したくない金の流れもあるからね」
「それはそうでしょうが……」
「とにかく、俺に任せろよ。予算はドーン! だ」
すごい嬉しそうな笑顔で僕のところにやってきて、親しげに肩をポンポンと叩く。
そして、ルイからは殺人光線のような視線を浴びせられる。
さすがに遺伝子強化体でも殺人光線は出せないから僕は死なずにすんでるけど。
「もしかしたら今度は僕たちに潜入作戦をやれって話なんじゃないですか? 素敵な観光地の近くに、たまたま軍事基地があるとか、なにかの研究所があるとか、どうせそんなところですよね?」
「だいたいそう」
「あっさり認めるんですか? 会長! 誤魔化してみるとか、少しはないんですか」
「うーーーん……誤魔化したほうがよかったか? 罠にはめるような形で仕事させたほうがよかったか? しかし、事前準備は必要だよな。なにも用意しないで実弾がバンバン飛んでくるようなところに送り込んでしまっていいのか? いや、ここは考え方を変えたほうがいいかも。例えば入国審査のときに下手な演技をさせるよりは、そもそも知らないほうが自然に見えて潜入の成功率が上がるかも」
「どんな修羅の国ですか! なにやらされるんですか! っていうか新婚旅行なんていかないですから。それよりミミィの件を真面目に考えてくださいよ! 頼みますから生徒会長に報告したり相談して損したと後輩をがっかりさせるのだけはやめてくださいね」
「普通に考えれば失敗作の実験動物より、敵の狙いや正体をつかむほうが大事だな。本来ならミミィはとっくに処分されてるはずだったんだから、この作戦で失っても惜しくはないだろう」
ただし、生きてる状態はもちろん、死体であっても敵に戦艦島の外に持ち出させるわけにはいかないぞ、とエイト会長が条件をつける。
「この件は飼育委員会に一任でいいかな。自称・鈴木英子の身柄を押えて背景を探ること。黒幕とか、仲間がいるなら一緒に捕まえてもらえると助かる。もし、それが不可能な場合は脳だけでも無事に持ち帰ってくれ。こっちで情報を引き出して共犯者は指名手配にするから」
「どっちが得かな?」
「もちろん一網打尽にしてくれれば時間も手間も省けるから、生首ぶらさげて帰ってくるより有利な扱いにする。まあ、いまの段階ではどこまでの話になるか不明だから報酬については具体的な金額は算定できないが、絶対に損はさせないよ。あと状況がかわったとか、人手が足りないとか、言うまでもないけどホウレンソウは確実に。ちゃんとバックアップ体制を用意するから」
にこやかに笑って手を振るエイト会長に見送られて、渋い顔をしているルイと一緒に生徒会室を後にした。




