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トールとの時間


 ルイから自分に万一のことがあったときには、飼育委員を頼むというような、フラグだか、遺言だか、よくわからないことを言われて、僕は断った。


 気持ちとしては請合いたいし、そう受け取られそうな発言をしてしまったような記憶がないこともなかったりする。


 しかし、冷静になると……難しい。


 そもそも戦艦島にきた目的が行方不明の父親を探すことで、いまだに優先順位は一番のまま。


 ルイと会っても。


 ミミィの存在を知っても


 泣かれたところでどうにもならないし、いっそ僕が泣きたい。


 欲求不満的ななにかと、後悔みたいな感情とか、いろいろ答えの出ないことを考えていると、どんどん脳が壊れていきそうだ。


 部屋にいてもつまらないことを考えるだけだから、トレーニングウェアに着替えてアパートを出る。


 日課になっているジョギングで5キロほど。


 5キロよりは少し距離を伸ばしたり、ジョギングにしてはペースを速めたりして、いい感じに自分の体をいじめた。


 部屋に戻るとドアの前に人影が。


 ルイを少し幼くしたような顔立ちだが、性別が違うし、実験や試験の便宜のため体の各パーツを染められているわけでもないので、学生服を着て僕の部屋の前で待っているのはトールだろう。


「なにか用だったか?」


 尋ねると、ムッと唇を歪ませた。


「用はないが、きた。ダメか?」


 いちおう疑問形になっていたが「ダメとは言わないよな」と挑発するような口調で、強気な視線を向けてくる。


 まあ、僕のほうは意外に思っただけで、トールを拒絶する気はない。ルイからすると弟ということになるのだから、僕からすると義弟か? 口に出して言ったらルイに嫌がられそうだけど、ミミィを娘として認めるのであれば、トールも義弟して認めなければならない。


「別にダメということはないが……昨日はじめて会って、その翌日の早朝に遊びにきた、と?」


「このところミミィは毎朝きてただろう?」


「いや、遊びにきたなら、部屋で待ってればいいじゃないか」


「開錠ツールはオレも持ってるけど、勝手に入るわけにはいかないじゃないか」


「ツールなんていらないよ。鍵はかけてない」


「なんて無用心な」


「正確にはミミィに壊されて、まだ修理してない」


 万能キーで開錠して、チェーンを壊して進入したと思っていたのだけれど、本当は全部が力技での進入だった! 


 素手で壊して進入するのもスゴいが、それを気づかせないレベルで音や気配を殺せるというのだから、ものすごいテクニックの力技だ。


「ああ……そういうこと。ま、よくあるよな」


「よくあるのかよ!」


「力加減ってものを知らんバカだからしょうがない」


「力加減ってものを知らんバカならしょうがない」


 意見がピッタリ一致。なんとなく嬉しい。すぐにドアをあけてトールを通す。


 トールはチラッと壊れた鍵やチェーンに目をやりながら室内に向かう。


 いつもの朝食を出すと、なんだか嫌な顔をされた。白米はドンブリに、肉は大皿に、サラダはボールに――嫌な要素はなにもないと思うんだが。


「ひょっとしてトールは朝食に魚を食べる派か? それともパンか?」


「オレとしては10人前くらいありそうな量のほうを問題にしたいのだが?」


「いや、そこまでないだろう。話を盛るなよ。朝食は大盛りだけど、だからといって話も大盛りにしていいもんじゃない」


「上手いこと言ったという顔がウザすぎるな」


「そんな顔してない!」


「素でウザい顔なのか。それは残念」


「イケメンというほどではないのは認めるけど、僕の顔をウザいとか言うな!」


「昨日はダサくて、今日はウザい。救いようがないな」


「………………それは、かなりヘコむ。冗談でも言わないでくれ」


「冗談じゃない、本気だ!」


「僕のことをどう考えているのか知らないけど、心臓が鋼鉄で出来ているわけじゃないんだ」


「オレたちをバッサリ斬って捨てて傷つけたのに、自分の番になったら勘弁してもらえると思ったら甘いな」


「そこまで許されないか? とりあえず朝食をおごってやるからさ」


「むしろ完食したら賞金をもらわないと」


 食べられるだけ食べるけど、とトールは箸で大皿からとった肉をドンブリの上にのせる。


 すかさず僕は箸で二つかみした肉をドンブリに積み上げて……ミミイじゃないから慌てる必要がないことを思い出した。


 しばらく2人とも無言で食べ進める。


 だが、その無言に耐えられない……ような気がする。なんとなくだけど。


 がんばって無難な話題を探す。


「いつから飼育委員の仕事をやってるんだ?」


 よし! すごく無難だ。


 第1候補は天気の話題だったが、スペースコロニー内で晴れても雨でも、そういう予定だったからだ。そこに意味はない。


 第2候補として嫌いな食べ物の話題を検討した。好きな食べ物でもいいのだが、嫌いなほうが盛り上がるかな? と思って。でも、ここでその話題を振るのは、どんだけ食いしん坊キャラだという感じがしないでもない。


 第3候補が飼育委員のことで、無難な上に、ちょっとした情報収集というか、僕が戦艦島にくる前のこともさりげなく聞ける。


「中学入学と同時に。あの飼育小屋と呼ばれてる建物は中学と高校が合同で使ってるものだし」


「そうなんだ……すると他に中学生の飼育委員がいるのか? 僕は見たことないけど」


「中学はオレだけだ」


「そうなると1人で全部やらないといけなくなるだろうが……高校みたいに仕事の割り振りがないのか? 僕は入ったその日に機械化改造体の隠れ家に突撃させられたんだが」


「オレは足が悪くて戦闘要員とされてないんだよ。ルイやミミィからもトールと呼ばれてるだろ? コードネームなし。つまり工作員として活動することもない。裏方だね」


「わざわざ矢面に立つ必要もないんだろうが、義足でもつければルイと同じくらいには戦えるんじゃないのか?」


 戦艦島には地球上にあるすべての義足より高性能なものがあるはずだ。遺伝子強化体としては失敗作を成功作に引き上げるためなら、新型とか、試作品とか、なんでも用意してくれるだろう。


 トールもそのあたりのことは考えたようだが、右足が高性能な義足で、左足が人間のものだとバランスが悪いのだと言う。


「足って、だいたい2本セットで使うだろ? 歩くにしても、走るにしても、跳ぶときだって」


「左足に合わせると、どんな高性能な義足が用意できるとしても結局は人間の足と同レベル以上にはできないわけだ」


「そういうこと」


「あっ、でも、どっちかに合わせればいいんだから、いっそ右足に合わせたら? 左も切って義足にすればいい」


「うわーっ………………コンペのこと、いままでイカれた父親の割りにまともな息子だと思ってたけど、訂正だ。頭狂ってるわ。性能アップのために健全な足を切断して機械に置き換えようって発想が、普通に怖いわ」


「いや、いや、僕はマッドな父親とは違うから! 生き残る可能性が高いほうがいいと思ってるだけだから」


「まあね、言いたいことはわからないこともない。だけど、なぁ……やっぱりまともな足を切るのは、なぁ……みんなは当たり前のように2本あるのに、オレはたった1本しかないんだぜ。いくら高性能になるからといって、あっさり切って捨てられるようなもんじゃない」


「そうだろうな、失言だ。ごめん」


「ついでに、これも戦艦島の常識だから覚えておくといいが、研究者たちは――よく言えばライバル関係、悪く言えば足の引っ張り合いが大好き。だから、遺伝子をやっている研究者の研究成果に機械をくっつけるのは嫌がられる」


「共同研究という形にはできないのか?」


「遺伝子をやっている研究者は成果を自分のものだけにしたい、誰かとわけるなんてとんでもないという感じ。一方で機械化を信奉している連中にしてみれば、遺伝子研究の失敗作に自分たちの傑作を使うのは無駄だと思うんだろうな」


「ハイブリッドというのも、1つの研究成果だろうに」


「だから、オレに高性能な義足がまわってくることはないし、頼んでも譲ってくれない」


「お金を積むとか、なにか交換できるものがあったとしても?」


「売るか、なにか仕事の報酬でくれるという話しがあったとしても、いまのオレでは稼げないし、仕事をこなすのも難しい」


「稼ぐにしても、仕事をするにしても、高性能な義足が必要。しかし、前払いしてくれるわけもないし……」


「そうそう、だから不可能……と、言いつつ、じつは左足は切断して義足に改造済で、右足用の高性能な義足も持ってて、普段は外しているだけかもしれないぞ」


「なんでそんなことを?」


「飼育委員会の秘密兵器だからさ」


 胸を張って答えるが、冗談を口にしただけにも聞こえる。


 本当のことか、冗談なのか?


 本当のことだとした場合、ミミィも飼育委員会の秘密兵器だったはず。いったい飼育委員会には秘密兵器がいくつあるんだ?










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