遺伝子強化実験の落とし子たち
今日は遅くなりましたが更新します
ルイの運転するキューマルは研究所の多いH地区を中心に廃棄動物を集めていく。
僕が飼育委員になってから、ずっと基礎訓練ばかりだったが、なぜか今日になって飼育委員の仕事を教えると言い出した。
きっと金銭的な部分のサポートを申し出たからだろう。
その結果としてルイは見習いとか、試用みたい扱いだったのを今後はちゃんと飼育委員として認めようと考えたのかも。
研究所の裏口にキューマルをつけて、警備員が「あれね」と指したゲージだったりダンボール箱だったりしたものを荷台に積む。
獣臭かったり、糞便のキツい臭気がしてたり、血が垂れてきたり。
もちろん、ガタガタと動く箱もあった。
そして、荷台にはルイによく似ているが中学生くらいの男の子が乗っていた。
僕の飼育委員として初出動のとき、ルイが轢いた機械化改造体が自動的に荷台に積載された秘密は彼とミミィだった。
右足がなくて義足だが、立ち居振る舞いに不自然なところはなく、僕が運んだ箱を受け取ると中身をすぐによりわけていく。
すでに死んでいる場合は焼却予定の箱に、生きていれば治療や食事を与える。
ミミィも手伝っていた。
2人とも、こういうことは珍しくないようで手馴れた様子だった。
「みんなルイの遺伝子を使った実験で?」
次の研究所に向かう途中、僕は運転席のルイに話しかけた。
「そう。不要になったらジブンがもらえるように頼んであるから。飼育委員としての仕事としてはジブンに関係ない不要になった実験動物を処分するように依頼されることもあるけど、今日はそういうのは1件も入ってない」
「あの男の子は?」
「初穂透。トールは本当ならセカンドと呼ばれるはずだった個体だけど、右足欠損だったからジブンが引き取った。動物の遺伝子が入ってないから人間という扱いで、普通の実験動物みたいに処分するわけにはいかないし、研究所としては所定の性能を発揮できないなら不要だからもてあましていたみたい」
「……ヒドい話だな」
「だいたいジブンのせい」
「そんなことないだろう」
「ジブンも手足が1本、2本なければくだらない実験は廃れたかもしれなかったのに」
「ファーストがいなければ遺伝子強化体の作成は無理だと判断された、か……まあ、可能性としてはゼロじゃないけど、たぶん成功するまで続いてたと思うよ。理屈ではできるはずなんだから。僕の父親を物差しに使ったらいけないのかもしれないけど、できるはずのことは実際にできるまでやるのが研究者なんだし」
僕の父親は科学者は科学者でも、マッドの冠がつく科学者だったが、マッドサイエンシストなんて戦艦島では珍しくもない人種だろう。
やりたい実験があればやる。
他人から非人道的とか倫理に欠けるなどと批判されても自分に不都合なことは一切聞こえない。
この宇宙の謎をすべて解き明かすことこそ至上の目的であり、それ以外のことにはまったく関心がない人種なのだ。
僕はルイの横顔を見る。
「もしルイに罪があるとしたら、僕の父親はその100倍以上も罪がある。別に息子だからといって父親の罪を引き受けなければならない義務はないけど……ルイの背負っているものを少し僕も持つよ」
ピクッとルイが震えた。
しばらくして、ありがとうと小さな声が聞こえたような気がした。
飼育小屋に戻ると、僕たちが使っている部屋ではなく、本来の実験動物飼育スペースに箱を全部運ぶように言われた。
ここははじめて。
飼育委員になったというのに、動物の飼育スペースに入ったことがないというのは、ちょっとおかしい気がするので、今後は時間があるときには手伝おうと誓った。
そんなことを考えながらキューマルの荷台からダンボール箱を抱え上げ、僕は飼育小屋のドアを開ける。
両サイドは床から天井まで何段にも頑丈そうな格子のついたケージになっていて、まるでゲージのマンションみたい。
その間の空間も3段ベッドがいつくも並んでいて、潜水艦とか貨物船のベッドのよう――カイコ棚という奴だ。
幅と奥行きからすれば30畳とか、かなり広い部屋のはずだが、ちっとも広く見えなかった。
しかも、そこには異形の生き物がうごめいていた。
複数の動物が合わさったような者や、手足が少なかったり多かったり。
目がなかったり、目が3つ4つあったり。
上半身はボディビルダーのような筋肉なのに車椅子に乗っていたり。
「ママ、ママ」
「おかえり」
「マミー」
「お母さん、見て、見て」
「こっち。こっちにきて」
異形の生物たちがルイを見て一斉に嬉しそうな声を出す。
「これ、みんな……」
「そうよ」
僕は言いよどんだが、ルイは聞きたいことを察して肯定する。
「あっちに火葬の設備があるの。生きてるうちに廃棄処理の扱いをされたとしても、そのまま生き続ける可能性は低くて……生存確率は1割から、せいぜい2割といったところかしら」
最後の箱を持ってきた僕のルイが淡々と説明してくれた。
感情を廃したその口調はいままでたくさん廃棄処理扱いの実験動物を見送ってきた経験を感じされる。
お読みいただきありがとうございました!




