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娘を調教して、尊敬された話

おはようございます

今日も更新します



 正体不明のトカゲ人間は硬い。スゴく硬い。


 どうせ戦艦島にいくつもある謎の研究所の試作品が逃げ出したんだろうが、正直なところ銃弾すら抜けないのだから驚く。


 まったく戦艦島の科学者ときたら人間兵器が好き過ぎる。


 戦力としては過剰とも思えたルイとミミィの組み合わせでさえ、現状では押されるばかりで、勝ち筋が少しも見えない。


 2人が時間が稼いでくれておかげで、僕は07式に乗り込み、エンジンをかけることができた。


 ルイが振り落とされたタイミングでアクセルを底まで踏みつける。


 2トンの車重と、100Kwを越えるパワーを一気にトカゲ人間にぶつけてやった。


 倒れているところを轢いたので跳ね飛ばす形にはならず、約3メートルの巨体ではタイヤが踏み潰すこともできず、床とバンパーの間に引きずられるような格好で07式とともに壁に激突した。


  壁と車のサンドイッチなら、轢いたり、撥ねるより、結果的には大きいダメージを与えることになっただろう。


 「終わった……」


 壁に激突した瞬間に作動したエアバックに顔面をぶん殴られたが、痛みはちっとも感じない。


 むしろ強敵を倒した快感で脳が痺れそうだ。


 が、いきなり07式が揺れた。壁にぶつかってエンジンは完全停止しているのに、ゆさゆさと車体が持ち上がるような感じがした。


 トカゲ人間は死んでもいなければ、重傷ですらない。


 むしろ軽症か――もしかしたら軽症というほどの怪我もしてないかも。


 2トンもある07式を腕の力で持ち上げて、壁の穴から外に逃げ出した。


 振り返ってみると、機械化改造体の姿もない。


 逃げられた――のだが、追いかける元気は僕たちにはなかった。


 姿を見失ってもミミィに臭跡を追わせるという手段もあったのだが。


「なあ、ルイ。あれはなんだ? ファーストの遺伝子と、トカゲかワニか、それとも恐竜なのか知らないけど、ヤバい遺伝子を組み込んだのか?」


「ジブンは知らない。あんなの、見たことない」


「ルイすら知らない秘密の研究?」


「コンペのお父さんにでも聞いたら? どうせ、そのあたりが出所じゃないの?」


「あいつか! また、あいつか!」


「おなかすいたー」


 ミミィがいつもの台詞を口にして、今夜はこれくらいにしておこうという話になった。


 それでも機械化改造体は捕まえたので、またしても八島警備保障を呼ぶと、さすがに変な顔をされて「飼育委員は昼夜関係なく仕事してるの?」と質問されたが、笑って誤魔化しておいた。


 機械化改造体とトカゲ人間を逃がしたのは惜しかったが、ざっと40万円の稼ぎだ。


「儲かった!」


「もうかった!」


 2人で万歳だ。


 だが、ルイは渋い顔をした。


「あなたたちは派手に稼ぎまくったわけね」


「そうそう。いまの僕たちはルイに少し齧られたところで、びくともしないほど懐は厚いんだから、少しわけるよ……なんというか最近ミミィの朝食は僕が出しているけど、いっぱい食べるし、食費大変だろ? 今回のが何日分になるかわからないし、今後もそれなりの額を用意できるかなんとも言えないけど、持っているときくらいは僕にも負担させてよ」


「……ありがとう」


 渋い顔が少し変化した。


 目が細くなって、口角がピクリと持ち上がった。


 笑うところまではいってないが、微笑んだのか?


 いつも厳しい顔をしているルイにしては珍しいことで、僕にとってはとても嬉しいことだ。


 お金の話題はデリケートだが、喜んで受けとってもらえるとはありがたい。


「とりあえず、これから一緒においしいものを食べにいこう……そういえばルイに聞きたいことがあったんだ。ミミィが食べてはいけないものってなにかあるの? ニンニクとかネギは食べさせたら駄目なんじゃないかと思って。だけど、なんでも食べて栄養にかえることができるんだよね?」


「ああ……犬にネギは致命傷だから。でも、そもそもは軍用として特殊部隊の隊員以上の性能を目指して作られているんだから、普通の人間が食べられるものは食べて大丈夫だし、普通の人間が食べたら下痢するようなものでも食べて大丈夫だし、食中毒で死ぬものを食べても大丈夫」


「食中毒で死ぬって……なんでも食べられるんだな」


「なんでもというほどでも。金属とかプラスチックは食べられないし」


「食べる以前に噛めないだろう!」


 食べられるかどうかの基準がおかしい。


 軍用とか、そういう問題じゃない気がする。


「噛むだけなら簡単でしょ、ジブンにはできないけど。銃もナイフもなくなったら最後の武器は自分の肉体だけなんだから、ミミィは人間の骨を噛み砕ける。だから、鋼鉄は無理かもしれないけど、軽金属くらいまでなら歯を立てることができそうだけど」


「こえー」


「だから、心配する気持ちはわからないでもないけど、コンペよりはるかに強いってことは認識しておきなさいよ。それから、あんまりミミィを犬扱いしないで。確かにドーベルマンの遺伝子を切り貼りしてるけど、全体的には人間の遺伝子のほうがはるかに多いんだから。割合としては8:2とか、それくらい。ジブンもミミィの研究資料スペックシートを解析したことないから正確にはわからないけど」


「つまり僕とルイの成分のほうが大きいんだ」


「……変なこと言わないで」


 真っ赤な顔をする。


 うっかり口にしたことで、こんな反応されると僕も困るのだが。


 なんというか……適当に聞き流すというか、スルーして欲しかったというか。


 たった1人で人類が到達できる限界点に立っていると噂のファーストも変なところが女の子だ。


 いや、乙女心も人類の最北端なのか?


「失礼なことを考えてるよね?」


「人間という種が限界まで進化すると超能力が使えるようになるの?」


 人としての限界はファーストの性能計測でわかると言われているが……まさか超能力までか。人類はそこまでいくのか?


「ジブンには超能力(EPS)なんてない! もちろん、読心力ルマインドリーディングも」


「コンペがわかりやすい顔をしているだけよ。単純なのね」


「いやいや、そんなことない。僕はもっと複雑な男だ」


「なにも考えてないし」


「失礼な! いろいろ考えてるぞ」


脊髄反射ショートカットで行動しているくせに」


「いつだって深い深い思考の果てに僕の行動はある!」


「ないない」


「ルイには一見そう感じられたとしても、そこには熟慮した結果だ」


「それなら1つ質問していい?」


「かかってこい!」


「この行動について」


「ミミィと一緒に手配されている連中をやっつけてきたんじゃないか。な、ミミィ?」


「おかねないからダディーとかりした。おおもりのにくたべた。めがっていうの、めが。マミーしってる、めがっておおもりなんだよ。マミーもきたらよかったのに」


「そういえばルイは金がないとミミィから聞いたから少しわけるよ」


 しかし、ルイは僕の顔を見詰めるだけ。


 入金先を教えてくれないと送金手続きできない。


 さっきは喜んで受けとってくれそうな雰囲気だったのだが。



「ジブンもね、以前からミミィを使えば手配犯なんか何人でも簡単に捕まえられると思ってはいたのよ」


「おかげで実戦をいくつか体験できたしね。だから今後も期待してもらってもいいよ。しかし、ルイもそういう言い訳するんだな。言うだけなら、なんとでも言えるよ。しかも後からなら特に」


「こんな実戦経験済コンバットプローブンは想定外。ミミィにしても狩りなんて仕事というより、最高に楽しい遊びなんだし」


「まあ、かなり楽しんでたな。僕がなにも言わなくても犯人をパクッと咥えて」


「野生の獣じゃないから捕らえた獲物をその場で食べるわけにはいかないけど、かわりにメガ? 肉? 楽しい狩りの獲物でパーティーという感覚かな?」


「MEGAジューシー鶏串だったかな。コンビニだし、ちょっと高かったけど」


「だけど、さあ……それって調教っぼくない? お手を覚えたら餌を与える、みたいな」


「調教? しかし、お手とは違うだろう」


「使役して、その褒美を与える。どう違うの?」


「どう違うって……」


「父親が娘に教育するのはいいと思う。だけど、調教だと本当に犬っぽいじゃない」


「犬の調教……」


「そう思うと躊躇うものがあって……ジブンがどうしてもできなかったことを、すごく簡単に平気でやってしまうコンペを尊敬する」


「ちっとも尊敬している声ではないが……むしろ軽蔑っぽい?」


「娘を犬扱いして調教する母親ってどうなんだろうと考えていたら、父親が一切を考慮することなく脊髄反射で調教はじめました! それでジブンはどうすればいいの? 尊敬すればいいの? 軽蔑すべきなの?」


「……難しい質問だ」


「ちゃんとね、理屈ではわかってる。飼育委員会は実績を出し続けないといけない。そのためには出し惜しみすることなく、あるだけの資源を投入すべきなんだけどね」


「なにがあってもミミィは処分させない。これからはルイ1人じゃない、僕も協力する。だから、あえて言わせてもらう。調教でもいいじゃないか、いま一番重要なのは飼育委員会の実績を積み上げることだろ。そのためにできることは全部やる。やれるのにやらないのは手抜きでしかないと思う」


 真剣に語りかけると、ルイも頷いてくれた。


 本心から納得してくれたのかはわからないけど。


 しかし……調教かぁ。


 そんなつもりじゃなかったけど、そう言われると、いろいろ考えてしまう。


 有能すぎるところを知られないようにしているとも言っていたし、ちょっとやりすぎたかな?







お読みいただきありがとうございました

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