ルイに関する噂
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指名手配犯を捕まえようとしていたら、なぜか機械化改造体を尾行していた。
僕が飼育委員になるきっかけとなった機械化改造体の6人のうち、2人は身柄確保したが、残りは以前逃亡中ということになる。
あるいは潜伏中なのかな?
どっちにしても、そのうち捕まえるつもりでいたら、やっと発見。
そうしたらミミィはルイを呼び出すと言った。
電話を切って5分待ってもいい? と僕に了解を求めてきた。
「5分でくるって?」
「きゅーまるででかけてて、ちょうどちかくにいるみたい」
「だが、ミミィ。いま僕たちがいる場所を伝えなかったよね?」
「うん?」
「だからマミーは僕たちがどこにいるか知らないんだよね?」
「だいじょうぶ、マミーだし」
ミミィは絶対の信頼を置いているらしいが……ルイは人類の最高性能を狙って遺伝子改変された素体のはじめての成功作であって、別に超能力者というわけではない。
第六感でミミィの居場所を察知するなどという芸当ができるはずもない、と思う。
あくまで人間として最高性能というだけだ。
チートな技とか持ってない――持ってないはず。
それとも場所を伝えていたのか?
交差点には『U地区 2丁目』標識があるし、コンビニの看板には『Aマート U地区3号店』と書かれているが、そういう地名は口にしなかった。
自動販売機には故障の際には連絡してくださいと電話番号と一緒に7桁の数字が記載されていて、きっと飲料会社には設置場所を記載した地図のようなものがあると推測できるし、その地図をルイが入手することも可能だろう――飼育委員会や生徒会の持っている情報の中にそういうデータがあったとしても不思議ではない。
しかし、ミミィは数字を伝えたようにも見えなかった……と、そこで僕の思考は途切れた。
コンビニから出てきた3人組が僕たちのほうに向かってきたのだ。
身長190のノッポ、金髪、龍かなにかの刺繍の入ったジーンズをアルファと仮称する。
体重120のデブ、スキンヘッド、黒のジャージ上下はブラボーと仮称。
中肉中背、ワックスつけすぎで髪の毛テカテカのサングラスで白のパーカーがチャーリー……と相手に聞こえないようにミミィに小声で伝える。
だいぶ通話表にもなれてきた。
そして、すでにミミィは警戒態勢に入っている。
コンビニの方を見ないようにしているが帽子の下の両耳がピクピクと動き、鼻もヒクヒクさせている。
視覚情報はどうでもよくて、聴覚と嗅覚から得られる情報を重視するところが犬っぽい。
「てつのにおいも、かやくのにおいもしない」
ミミィは僕よりさらに抑えた小声で言った。
相手はナイフもピストルもなし。
こっちはもともと手配犯の捕縛のために街に出てきたわけだから拳銃を携帯している。
いちおう用心のために持ってきただけだから、いつものマウンテンイーグルではなく、軽量で薄いスタームルガーの22/45LITEだけど10発装填してあるので1人に3発撃ち込んでもまだ1発残る――が、丸腰の相手に発砲すると面倒なことになりそうだ。
せめてナイフくらい持っていてくれればよかったのだけれど。
拳銃だけでなく、例えば特殊警棒みたいな打撃武器も携帯しようかな? こういうとき制圧するのによさそうな気がする。
まあ、現実的には尾行の最中なんだから発砲はもちろん、特殊警棒を振り回しての大騒ぎも起こすわけにはいかないんだけど。
状況次第では、つまり3人の出方によっては尾行は諦めないといけないかもしれない。
「俺たちさぁ、これからツレがやってる店いくんだけど、一緒にいかない? おごるし」
「楽しいぜ」
「帰りはちゃんと家まで送っていくよ」
全員が20代の半ばくらいだろうか。
年齢からして、学生ではなく、たぶん工場で働いている連中だと思う。
基本的に工場労働者は男性が大半で、かなり女性が少ないから、ミミィを見て声をかけたくなったのだろう。
本当は8歳だけど、見た目はプラス10歳くらいで高校3年か、大学生みたいだし。
八島高校にしても、八島大学にしても、この戦艦島にある教育施設で学んでいるのは、同年代でもトップクラスの頭脳の持ち主で、将来が保障されているといってもいいから、普通の男性はナンパしようとはしないと言われているけど、たまに勇者様もいないわけではない。
「あっちいけ」
ミミィの返事は簡単なものだった。
「うわー、冷たい。クラブとか、興味ない?」
「帽子かわいいね」
そう言いながら頭に伸びてきた手も簡単に振り払う。
上手に断るのが無理だったとしても、わざわざ喧嘩にもっていかなくてもよさそうなのだが。
3人組とミミィの間に体を滑り込ませた。
「もういいでしょう、断ってるんだから……」
「うるせえな、おまえには話しかけてないだろ」
アルファが僕を突き飛ばしそうとした腕をミミィが素早くつかんでひねった。
「いてて、なにするんだ」
「おまえこそダディーになにしようとした、ぶちころす!」
一番避けたい大騒ぎになりそうになった寸前、キューマルが僕たちの前で止まった。
同時にドアが開く。
「あっちいけ」
娘と同じ台詞を口にする母親――というか、母親がこんなだから娘も男のあしらいが下手すぎなんだろ、と思う一方で8歳の女の子が男のあしらいが上手だったらそれはそれで怖いけど。
「なんだ、このカラフルなお姉ちゃんは」
チャーリーがルイの全身を無遠慮にじろじろと視線を這わせる。
「あっちいけ、と言ったの。耳が悪いの? 頭が悪いの? 日本語がわからない人?」
「せっかく誘ってやってるのによぉ」
「誘ってくれって頼んでない。むしろ誘わないでって頼みたい」
コイツ、と口から炎でも吹き出しそうな勢いでチャーリーが向かってこようとして――アルファとブラボーが後ろから抱きつくようにして止める。
「やめろ、やめろ。ファーストだぞ」
「殺される」
「あの渡部さんが金属バットで頭蓋骨割られたんだぞ」
「須藤さんなんか半田ごてで目玉を焼かれて再起不能にされたって知ってるだろ?」
「自分の名前すら忘れちゃうレベルで肉体を破壊されてみたいのか?」
「なにやっても逮捕されないと聞くし」
「素手で人体をこれくらい破壊しました、とレポートを書いて、それで終わりって噂だ」
僕はこっそりルイに訊いてみた。
「あのワタナベさんって、どのワタナベさん?」
「さあ? 誰のことかしら?」
「スドウさんが再起不能なのは知ってた?」
「初耳の情報だけど」
首を傾げるルイ。
とぼけているわけでも、誤魔化しているわけでもなく、本当に心当たりがないようだ。
「金属バットみたいな得物も使うの?」
「打撃をくわえるなら殴るか蹴ったほうが早い」
「半田ごてで目玉を焼くって」
「試したことないけど拷問としては効果的かも。最初ジュって音がして一時的に温度が下がるけど、また上がってくるとグツグツと煮えるわね。人間の眼球は水分が多いんだし。自分の眼球が煮える音を聞いても、まだ口を閉じたままでいられるかな?」
「怖いよ。そんなこと平気で言うから変な噂を流されるんじゃないの?」
「火をつけたわけじゃないのに煙が立つって不合理だ」
「不逮捕特権みたいなものも都市伝説みたいなもんだよな? それとも、あるの?」
「そういえばジブンが殺人許可証の保持者という噂が流れているという、そんな噂を聞いたことがある」
「噂の噂って、ややこしいよ」
「誰も直接はなにも言わないし」
「怖いから?」
「ジブン、そんな怖くない……はず、だと思う」
あまり自信がなさそうだった。
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